25.視察
神域の森に、使節団一行がやって来た。
先導するのは、エセルバートとヒューである。ちなみに、ヒューはつなぎのままだ。エセルバートとの対比がおかしなことになっている。
エセルバートが魔石獣の視察に同行できるかは微妙だった。なので、エディスがヒューの補佐を務めることになっていたのだが、彼のスケジュールがなんとか調整できたことでこの仕事は免除された。エディスとしては、助かったという気持ちだ。
森へは、もちろん転移門を使ってである。こちらについても、使節団一行は驚きに目を見張っていた。
ロランド王国では、魔導士が個人的に転移魔法を使うことはできても、こんな風に大勢を一度に転移させることはできないのだ。
彼らがやって来て、エディスとメイも魔石番として簡単に挨拶をする。
二人は通常業務なので、つなぎを着ている。クルーズ子爵やマレット伯爵、そしてロニーは、目が点になっていた。他のメンバーにしても、夜会での一件で彼女がクルーズ子爵家の令嬢だと知ってしまったせいか、呆気に取られていた。
(貴族令嬢がこんな格好をするなんて、想像もできないわよね)
他はともかく、クルーズ子爵やロニーは、エディスに対して侮蔑の視線を投げつけてくる。みっともない、と怒鳴り散らしたいところだろうが、さすがにこの場では言えない。
そのくらいの分別があってよかった、とエディスは密かに胸を撫で下ろしていた。
「男手がヘインズ子爵しかない中、彼女たちは頑張ってくれています。魔石獣たちとの信頼関係も十分。だからこそ、彼らは安定して魔石を我らに供給してくれるのです」
エセルバートは、使節団の面々に施設内を案内していく。
魔石獣の特性などはすでに話していたようで、他に飼育方法や魔石の回収方法、管理、配給などについて彼らに説明していた。ヒューは、時折それを補足する。
仕事をしながら使節団を盗み見ていたエディスは、ふと首を傾げた。
(お義母様とリビー、マレット伯爵夫人は来なかったのね。というか……来れなかったのかしら)
夜会では、リビーは来る気満々だった。
しかし、ヒューに魔石獣や魔石番の知識がなければ連れてこない、行く前にチェックする、と言われていた。ヒューは、言ったからには実行する。
(リビーはヒューを気に入ったようだった……。なのにここにいないということは、ヒューの試験にパスできなかったってことね。ロニーは大丈夫だったみたいだけど)
リビーが行けないなら、ヨランダも行かないだろう。そして、マレット伯爵夫人もそれほど興味はないだろうし、帝都に残ったと思われた。
(とりあえずよかったわ。リビーが来たら大変だった。あの子は注意なんて聞かないだろうし、何かやらかされたら、たまったもんじゃなかった)
「それでは次に、獣舎にご案内します。魔石獣たちは警戒心が強い。急に大きな動きをしたり、大声を出したりしないでください。体の大小にかかわらず、彼らが攻撃してきたら人間などひとたまりもない。命の保証はできませんので、くれぐれもご注意を」
(エセルバート殿下……めちゃくちゃ脅してるわね……)
彼の言っていることは決して間違いではないのだが、少々大袈裟な気はする。
魔石獣たちが攻撃してきたとしても、こちらが本気で危害を加えようとしない限り、命まで取ることはないだろう。相手に敵意があるかどうかも見抜くことができる。彼らは想像以上に賢いのだ。
だが、あれぐらい脅しておかなければ、よからぬことを考える輩もいるかもしれない。
魔石獣は国の宝なのだ。どんな危険からも守らねばならない。
(ランディとウォルフは体も大きいから、皆が驚かないといいけど)
事前に説明しているだろうが、話を聞くのと実際見るのとでは全く違う。その迫力に腰を抜かす者もいるかもしれない。
「それでは獣舎に入っていただきます。落ち着いてついてきてください」