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22-2.寝耳に水(2)

 ヒューは呆れたように溜息をつき、リビーに言った。


「同行するなら、せめて最低限の知識は入れておいてください。森に入る前にチェックさせていただきます」

「うっ……わ、わかりましたわ」

「ヘインズ子爵のご厚情痛み入ります」


 クルーズ子爵が頭を下げると、ヨランダも慌ててそれに倣う。だが、リビーはつんと横を向いている。

 いつものことだが、こうして改めて見ると、リビーの態度が恥ずかしくてしょうがない。


(いったいいくつなのよ? 五歳児か! いや、五歳児にも失礼かもしれないわ)


 エディスが憮然としていると、今度はマレット伯爵がヒューに尋ねた。


「ヘインズ子爵、私はチャールズ=マレット伯爵と申します。あの、エディス……いえ、エディス嬢が魔石番というのは、本当なのでしょうか?」

「ええ、そうですよ。彼女は我が国の文官試験に上位で合格し、魔石獣にも認められた逸材です」

「そ、そうなのですね……」


 マレット伯爵は、愕然としたような顔をする。そして、チラリと息子を見遣り、肩を落とした。

 そんな父親の態度に、ロニーはエディスに食ってかかる。


「エディス! お前、不正をしたんじゃないのか? お前が帝国の文官試験に受かるなんておかしい! それに、魔石獣に認められるなんて……なにかやったんだろう!?」


(どうやったら不正なんてできるのよ……)


 ロニーの理不尽な言いがかりに、呆気にとられる。

 試験は公正に受けたし、魔石獣に認められることは自分でどうこうできるものではない、と説明しようと思うが、そう言ったところで彼が聞かないのはわかっている。

 やれやれと遠い目になっていると、ヒューがそれに反論した。


「試験会場で不正をするなど不可能だ。魔導士を配置し、魔法で制御しているからな。その中で不正ができる技術があるなら、文官ではなく、魔導士としてスカウトされるだろう。それに、魔石獣に認められるのは彼らのみぞ知る。こちらでどうにかできるなら苦労はない。そんなこともわからないのか?」

「申し訳ございません! ロニー、謝罪しなさい!」


 マレット伯爵が厳しく窘める。

 先ほど、魔石獣について知識がないなら視察をさせないと言われたところである。

 魔石番は、魔石獣が選ぶ。これは紛れもない事実であり、ロニーだってわかっているはずだ。

 ロニーは渋々ながら、ヒューに謝罪する。が、ヒューは首を横に振った。


「私にではないだろう? お前が暴言を吐いたのは、誰に対してだ?」

「……」

「ロニー=マレット伯爵令息、魔石番の視察には……」

「エディス! いや……エディス嬢、申し訳ございませんでした」

「……謝罪を受け入れます」


 受け入れたくはないが、そうしないと進まない。エディスとしては、とっとと話を終わらせて彼らから離れたい。

 早く話を終わらせてくれ、という気持ちでヒューを見上げると、彼はエディスに対し、優しい笑みを向けた。


(さっきからどうなってるの? こんなベタ甘なヒューなんて、ありえないんだけど……)


 ヒューは、確かに優しい。だが、甘くはない。

 メイは夫がいるので当然だが、未婚のエディスに対してだって、女性としてというより、あくまで部下としての扱いだ。

 なのに、入場してからのヒューは、とにかく甘い。エディスを女性として丁重に扱っている。それはもう……大切に。お互いの衣装からしても、これではまるで婚約者のようである。


「あの……ヘインズ子爵」

「なんでしょう?」


 クルーズ子爵が、おずおずと口を開く。


「先ほどから、ヘインズ子爵と我が娘エディスは、ただの上司と部下という関係以上に見受けられるのですが……」


 その言葉に、皆が注目した。


「そうですか。エディスは帝国籍を持っていますし、成人済みです。クルーズ子爵家の許可は必要ないので、本人は連絡するつもりはなかったようですが、やはりお伝えしておいた方がよさそうですね。実は、私とエディスは婚約しているのです」

「!」

「はあ?」

「なんですって!?」

「ありえないわ!」


(悔しいけど、これはリビーに完全同意だわ! そんな話、聞いてない!)


 クルーズ子爵家もマレット伯爵家もだが、側で聞き耳を立てていた帝国貴族たちも騒ぎ始める。

 ヒューの言葉は、あっという間に会場にいる貴族たちに広がっていき、エディスは顔面蒼白になった。


(どうするの? 今更訂正なんてできないわよ。え? え? これじゃ、本当のことになっちゃう! どうしたらいいのーーーっ!)


 ヒューは蕩けるような笑みを見せ、エディスの手を取り、甲に恭しく口づけたのだった。

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