表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/77

22.寝耳に水

「エディス」


 呼ばれたと同時に腰を抱かれる。驚いて顔を上げると、ヒューの姿があった。

 いつの間に、とエディスは驚く。まったく気配を感じさせなかったからだ。


「ヒュー」

「どうした?」


 そう尋ねた後、ヒューは両家の面々に視線を向ける。その途端、皆が一斉に俯いた。

 いや、一人だけ例外がいる。リビーだ。

 彼女の頬は赤く染まり、熱に浮かされたようにヒューを見つめている。


(さすがはリビー……皆はヒューの氷みたいな視線に怯えているのに、リビーだけは違う。ヒューは顔立ちが整っているものね。リビーはとにかくイケメンが大好きだから)


 見目の良い男は、全員自分のものだと本気で思っている女だ。あまりの空気の読めなさに、逆に感心してしまう。


「あのっ! 私は、リビー=クルーズと申します。ロランド王国から来ましたの。よろしければ、お名前をお聞かせいただいても?」


 より可憐に、美しく見える角度に首を傾げつつそう問うリビーに、ヒューはこともなげに言った。


「断る」

「ぶっ……」


 清々しいまでにぶった切るヒューに、エディスはとうとうふきだしてしまった。


(さっきからずっと我慢してたのに! そんな私の努力を無駄にして……! でも、らしすぎるわ)


 ヒューは、こういう男なのである。誰に対しても忖度しない。するとすれば、相手は皇帝くらいなものだろう。

 エディスがエセルバートと初めて顔合わせした際、彼とヒューの会話を聞いて、引くほど驚いたものだ。エディスたちはもちろん、他の貴族に対してもあまり遠慮がないのは知っていたが、皇太子に対してもそうだったのだから。


 リビーはエディスを睨みつけるが、すぐに気を取り直して笑顔になる。


「ヒュー様、ですわね。私、エディスお姉様の妹ですの。ヒュー様は、お姉様とはどのようなご関係なのでしょう?」


 ヒューの視線は相変わらず冷たい。氷を通り越してブリザードである。腰を抱かれ密着しているエディスがむしろ凍りそうだ。

 エディスが身を固くしていると、腰にあったヒューの腕が肩に移動し、半ば抱きしめられるような形になった。


(ひ、ひぇっ!)


 おまけに、顔を覗き込まれる。しかも、甘やかな微笑みつきで。

 その後、顔を上げてリビーを見る。先ほどとは打って変わり、微笑んではいるが氷点下である。


「名を呼ぶ許可を出しておりませんが、エディスの家族ですので今回だけは見逃しましょう。ですが、これからは気をつけてください。私は、ヒュー=ヘインズ子爵。マドック帝国の文官であり、魔石番のまとめ役です。つまり、エディスの上司です」

「魔石番? エディスが?」


 クルーズ子爵が驚きの声をあげる。それは、マレット伯爵やロニーも同じだった。

 ヨランダにリビー、マレット伯爵夫人については、魔石番のことは把握していないようだ。仮にも使節団に同行しているのに、来訪の目的や必要な知識も入れていないらしい。


「お父様、魔石番って?」


 リビーが尋ねると、ヒューの表情が更に冷たいものとなる。


「おや、随行者とはいえ使節団の一員であるのに、そんなこともご存じないのですか?」

「いえ! も、申し訳ございません、ヘインズ子爵。私は、ダニエル=クルーズ子爵と申します。娘にはよく言って聞かせますので、どうかお許しください」

「私としては、どちらでも構いませんが。ですが、知識のない方に神域の森に入っていただくわけにはいきません。魔石番の視察には同行されませんように」

「は、はい、かしこまり……」

「嫌よ! 私も視察に参りますわ!」


(うわー、出た、出ましたよ! リビーの無茶ぶりが!)


 エディスはうんざりする。

 リビーは、魔石番の視察になど興味がなかったはずだ。だが、だめだと言われれば無理を通そうとする。それに、ヒューが魔石番のまとめ役と聞いて、また会うためには視察に同行するしかないと思ったのだろう。

 学園の成績は下から数えた方が早い彼女だが、こういったことには知恵が回る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ