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02.魔力と魔法

 兄に貰ったネックレスの青いペンダントトップ、これは宝石ではない。

 見た目は宝石に似ているのだが、魔石というものだ。鉱石に魔力が含有されているものを、魔石という。


 魔力は鉱石だけでなく、人にも存在する。その量は人によって様々だ。とんでもなく多いものもいれば、全くない者もいる。統計的に見れば、高位貴族ほど魔力量は多く、平民にはない者も多い。

 ただ、魔力が多いからといって、それだけで何かできるわけではない。しかし、一部の才ある者だけは、魔力を消費し奇跡を起こす力「魔法」を使うことができた。

 彼らは魔導士というのだが、火や水、風、土、氷に雷、光や闇など、通常人の力では扱えない力を行使して、攻撃をしたり、防御をしたり、また回復したりすることができる。魔導士になれた時点で爵位を賜れるほど、国は彼らを重用していた。


 ロランド王国では、子どもが五歳になると、貴族平民問わず魔力測定を行っているのだが、これは魔力量が豊富な者を把握するためだ。魔導士になるのは、魔力を多量に有している者が多い。

 エディスももちろんこの測定をした。結果は「魔力なし」。


 エディスは、実は子爵令嬢だ。魔力量はそれほど期待されていなかったが、まさかの「なし」。

 父は明らかにがっかりした表情だったが、母はニコニコと微笑み「気にしないでいいのよ」と言ってくれたことだけが救いだった。

 ちなみに、父と兄は平均的な魔力量で、母は多い。兄は残念ながら普通だったが、もしかしたらエディスは多いかもしれない、それなら、高位貴族との縁談が望めるだろうという目論見が父にはあったのだろう。


 この時点では、エディスの生活に特段変わったことはなかった。母もまだ元気だったし、兄も常にエディスを気にかけており、愛情に包まれて過ごしていた。

 しかし、エディスが十歳の時、母は病に罹って、あっという間に儚くなってしまった。

 大好きだった母を亡くし、エディスは悲しみに暮れた。だが、それに更に追い打ちをかけたのが、父の再婚だ。

 母が亡くなって、一年にも満たなかった。にもかかわらず、父は再婚し、後妻と連れ子をクルーズ子爵家に迎え入れた。

 すぐに他の女性と結婚したこともショックだったが、それ以上に衝撃だったのは、後妻の連れてきた娘とエディスは、半分血が繋がっていたのだ。

 エディスだけでなく、兄エリオットもショックだっただろう。その時の彼は、表情が抜け落ちてしまったかのような顔をしていた。


 彼女たちを迎えてから約半年ほどは、よそよそしいながらも平和に過ごしていた。だが、それを過ぎたあたりから、その本性が露わになってくる。

 義母であるヨランダは、先妻の子どもであるエリオットとエディスを疎ましく思い、父の目のないところで二人を邪険に扱うようになる。だが、エリオットは子爵家の跡継ぎであり、その優秀さから父も頼りにしていた。なので、ヨランダも次第に矛先を収めざるを得なくなった。


 その分、攻撃されるようになったのはエディスだ。

 暴力を受けるようなことはさすがになかったが、ちまちまと地味に嫌がらせされる毎日。エリオットもエディスも父に訴えるが、彼は聞く耳を持たなかった。父は、ヨランダとその娘リビーを溺愛していたのだ。

 というのも、父は母と結婚する以前からヨランダと恋人同士であり、結婚後もその関係は続いていた。エディスとリビーの年齢差が二年ということからもそれがわかる。


 父に言っても無駄だと悟ると、エディスは一切の抵抗をやめた。そして、兄にもそれを求めた。エリオットは次期子爵という立場もあるし、あまりに反抗的だと廃嫡にされる危険もある。それほどまでに、父の目は曇っていた。


『お兄様、私は大丈夫だから』

『ごめん、エディス。僕にもっと力があれば……』


 二人して現状に甘んじることを決めた時、抱き合って泣いた。こんな風に泣くのは、母が亡くなって以来だった。それでも、二人の心は真っ直ぐと前を向いていた。


 エディスは感情を殺し、ヨランダとリビーの望むように振舞った。エリオットは従順にしつつ、次期当主として父以上の力をつけるため、勉学の他、人脈を広げることに努めた。エリオットは、クルーズ子爵を継承した際に、彼らに報復するつもりなのだ。


 彼の努力は並々ならないもので、果てには、平均的な魔力量だというのに、魔法を使えるまでになった。これには、エディスも目を丸くして驚いたものだ。

 魔導士になるには、魔法を行使できることを証明する必要がある。エリオットならそれは十分可能だったが、彼はその道を選ばなかった。


『僕が魔導士になれば、その稼ぎは膨大なものになるだろう。今の僕では父上に逆らえないし、稼ぎのほとんどは父上やあいつらに搾取される。だから、秘匿するよ』


 あいつらとは、ヨランダとリビーのことだ。

 表向きには「義母上ははうえ」「リビー」と呼んでいるが、エディスと話す際、エリオットがそう呼ぶことはない。


『お兄様が魔導士になったら、とんでもない快挙なのに……』


 ロランド王国の魔導士の数は、たった五名である。小国なので、こんなものだろう。そして皆、魔力量が多い。

 その中で、平均値の兄が魔導士になれば、国中にその名声が轟くのは必至。それなのに秘匿するとは。

 残念でならないが、その気持ちも、エディスには痛いほどよくわかった。


 エリオットは研鑽を積み、魔石に魔法を付与することに成功する。

 魔石に攻撃魔法を付与して武器に装填した「魔導武器」というものがあるが、魔導士全員がそれをできるわけではない。できるのは、五名の魔導士のうち二名ほどだと言われている。それをできるようになった兄がどれほど努力家で優秀なのか、わかろうというものだ。


 エリオットは、防御と通信魔法を魔石に付与した。

 真夏の空のような鮮やかな青、少々歪な形をした魔石をペンダントトップに加工し、それをネックレスにして、祖国を旅立つ妹に渡したのだ。

 エディスが肌身離さず身につけているのは、そういった代物である。


「エリオット兄様、私、文官になれました!」


 連絡は、いつもエリオットからだ。エディスからもできるが、彼は忙しくタイミングが難しい。だから、兄からの連絡を待つ。それに、今日が合格発表日であることも知っている。


(いつもどおり夜よね。お兄様にいい報告ができるのが嬉しい!)


 このまま夜を待つのもいいが、寮に入るための準備も進めておきたい。それに、合格祝いとして、少し豪華な食事もいいだろう。


「よし! 出かけよう!」


 エディスは、帝都の商店街に出かけることにした。


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