17-2.面白い部下(2)
なにせ、冒険者をやるほどだ。跳ねっかえりもいいところである。それに、魔石獣たちに囲まれ、あちこち走り回っている姿を見ると、落ち着きなど無縁だと思わざるを得ない。
しかし、事務仕事は完璧で、そして綺麗好き。ヒューの苦手分野を全面的にフォローする手腕は、見事なものである。
本当にいい部下が入ってきてくれた。メイとも上手くやっており、気の置けない関係を築いているようだ。
もちろん、魔石番としても頼りになる。なにせ、魔石獣たちの気に入り具合が半端ない。最初からあそこまで好かれるのは珍しい。
「これまで、最初に歩み寄るのはウォルフだったんだがな……」
銀狼のウォルフは、心身ともに成熟している。本来は、彼がリーダーとして相応しいのだろう。しかし、強さでいうと、いい勝負ではあるがランディの方が上なのである。
だが、ランディは見た目はともかく、精神的に子どもだ。だから、好き嫌いが激しい。それに、ああ見えて最初は警戒するタイプだし、人馴れはそれほど早くはない。
しかし、エディスには一番に懐いた。出会った瞬間に飛びつくなど、通常の彼ならありえない。それに、ランディだけではない。ウォルフもドロシーもラータも、すぐに心を許した。
残念ながら、エディスは蛇が苦手ならしく、新しく仲間になったイライジャとは少しずつ距離を縮めている最中だ。ただ、イライジャは決してエディスを嫌っていない。むしろ、早く仲良くしたいと思っていることが窺える。
「メイが嫉妬してたな」
フッと声に出して笑う。
会った瞬間から全員にあそこまで懐かれるのは、ヒューにとっても驚きであり、羨ましいことでもあった。
「貴族の血を引きながら、魔力はない。そして、異常なほど魔石獣に好かれる……。何かあるのかもな」
なんとなくの勘だが。
そんなことを考えていた時、事務所の扉がノックされ、エディスが中に入ってきた。
「ヒュー、あの……」
「どうした?」
珍しく、俯き加減で言いづらそうに言葉を発するエディスに首を傾げる。
やがて、彼女は覚悟を決めたように顔を上げ、勢いよく頭を下げた。
「ド、ドレスとっ……靴に、アクセサリーに、ぜ、全部ご用意してくださって、ありがとうございました!」
何を言うのかと思えばそんなことか、とヒューは肩を竦める。
数日後、ロランド王国から使節団がやって来る。その際に開催される歓迎の夜会、それに出席するための一式を、彼女に贈っていた。
エセルバートには頭を下げると言ったものの、実質命令したようなものだったとふと思い出す。
「こちらが頼んだことだからな、当然だ」
「で、でも……とても豪華で、素敵だったので……」
「気に入ったならよかった。ああ、当日はうちで準備するから」
「え?」
「まさか、自分で全部やれるのか?」
「……あ! いやいや、まさか! ドレスは何とか着れても、髪とか無理です!」
「だろう? あぁ、ヘインズ子爵家には下働きのメイドしかいないから、実家の方な」
ヘインズ子爵家は、当主であるヒューしかいない。妻がいれば侍女を雇うのだが、ヒューだけなら必要ない。
普段は主不在の邸に執事はいるが、後は食事、掃除、洗濯などを行う使用人のみ。令嬢の世話ができる者はいないのだ。
「実家?」
「そうだ。マクニールの家には侍女がいるから、彼女らに任せればいい。連絡はしている」
「マクニール……」
「一応文官なんだから、マドック帝国の貴族家は把握しているだろう?」
「……マクニール侯爵家! ひ、ひええええええっ!」
素っ頓狂な声で叫ぶエディスに、ヒューは堪えきれず腹を抱えて笑う。
(見ていて本当に飽きないな。令嬢だった割りに表情は豊かだし、声をあげて笑うし、叫ぶし。かと思えば、触れると真っ赤になるなんて可愛い反応を見せる。魔力譲渡の時、もっと迫ってやったらどんな反応をするんだろうな?)
あわあわと慌てるエディスに、ヒューの視線は自然と柔らかくなっていた。
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