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15.白蛇のイライジャ

 魔石番としての一日が始まる。

 この仕事についてから、規則正しい生活になった。というより、ならざるを得なかった。

 朝は早いし、一日の半分は身体を動かしている。仕事が終わって一息ついた頃には、もう瞼が重くなっているのだ。

 エディスは、今日も一日頑張るぞ、と気合を入れて獣舎へやって来た。そして、緊張を悟られないようにしながら、一番新しい獣房に近づいていく。


「おはよう、イライジャ」

『……ふん、意外と粘るわね。アタシが怖いなら、メイやヒューに任せればいいのに』

「それは……私が嫌なのよ」

『そんなへっぴり腰じゃ、いつまで経っても仕事が終わらないじゃない。もう、さっさとして。魔石はあっち』

「あ、ありがとう」


 エディスは、イライジャと名付けられた新しい仲間──白蛇の魔石獣の獣房に入り、魔石を回収する。

 イライジャはエディスと距離を取り、仕事ぶりを横目でチラチラと窺っている。


 蛇を苦手とするエディスだが、魔石獣の世話をする魔石番としてそれは許されない。

 そこで、少しでもトラウマを解消すべく、ヒューから魔力を譲渡してもらい、魔石番のブローチの力を使って、彼女と会話することになった。

 譲渡直後は、ついランディたちと大はしゃぎしてしまったが、その後はきちんとイライジャとも話をした。


 彼女は、一つ山を越えた場所から安住の地を求め、ここまでやって来たのだという。ここには同じ仲間がいる、という確信があったそうだ。

 他の魔石獣たちに聞いたのだが、種族は違えど、同じ魔石獣同士は通じるところがあるとのこと。例え種族が同じでも、魔石獣はまた違う。異端扱いされ、弾き出されることが多いのだという。イライジャもそうで、彼女には味方がいなかった。そこで、仲間を求めて住み慣れた地を離れたそうだ。

 仲間の気配を探りながら様々な苦難を乗り越え、やっとの思いでここに辿り着いた。へとへとになってもう動けないと思った時、ランディの魔石を見つけ、同胞の気配に安心して思わず巻き付いたのだという。


 そんな事情を聞き、エディスは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 必死でここまでやって来て、ようやく安心して休んでいたところに、エディスのけたたましい悲鳴。イライジャもさぞ驚いたことだろう。

 実際、イライジャは敵に見つかったと思い、咄嗟に魔石の底に隠れた。見つかったらどうなるかわからない。それでも、逃げようとは思わなかった。どうしても魔石の側を離れたくなかったのだ。

 仲間の気配がすぐ近くにある、ついにその場所を見つけたのだ。それに、まだ動けるほどの体力が戻っていなかった。だから、身を隠した。


 イライジャの話を聞き終わった後、メイはそっと腕を伸ばした。すると、イライジャはするするとその腕に巻き付く。メイは彼女の白い鱗に触れ、何度も優しく撫でた。

 イライジャはツンとしていたが、メイから離れようとしなかった。二人の心が通じ合ったのを感じ、エディスの胸はツキンと痛む。

 エディスも、メイのようにイライジャに触れたかった。だが、どうしても身体が言うことを聞かない。


「イライジャ、ごめんなさい。私、実は蛇に噛まれて死にかけたことがあって……」

『いいのよ。どうせ、蛇は嫌われ者だから』

「でも、私はイライジャと仲良くなりたいの。私は敵じゃない。決してイライジャを傷つけないと約束するわ。だから、イライジャも私を敵だと思わないでほしい。認めてなんて言わない。でも……お世話を拒否しないでもらえると嬉しい。私に……イライジャのお世話をさせて」


 エディスは、イライジャに向かって真摯に頭を下げた。その姿を見て、他の魔石獣たちも加勢する。

 エディスは優しい、エディスのブラッシングは最高、美味しいご飯をくれる、いっぱい遊んでくれる、などなど。

 それがどれほど心に刺さったかは定かでないが、とりあえずエディスが世話をすることに対し、イライジャはそれを了承した。


『でもアンタ、アタシが嫌いなんでしょう? 世話なんてできるの?』

「違うわ! 嫌いじゃないの。蛇が……苦手なの。でも、イライジャのことは好きよ。ただ、トラウマでどうしても身体が震えてしまうだけで……」

『よくわかんないけど、そんなんで世話できるの?』

「うっ……」


 こうして会話ができれば、多少身体が震えても何とかなるだろう。しかし、それがなければどうなるか。


(だけど、頑張りたい。イライジャは苦労して、すごく頑張ってここまで来てくれたんだもの。ここで楽しく過ごしてもらいたい。幸せになってほしい。私はそれを少しでも手伝いたい)


「さ、最初は……どうしても怖がってしまうと思うの。イライジャに不快な思いをさせてしまうと思う。でも……頑張りたい。イライジャと仲良くなれるよう、頑張りたいの」

『……』


 エディスの言葉に、イライジャが迷うような仕草を見せる。その時、ヒューが口を開いた。

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