14-2.エリオットからの通信(2)
『魔石事業に関して、うちはかなり国に貢献している。そのこともあって、メンバーに入ったんだろうが……鉱山を採掘するのと魔石獣を飼育するのでは、全然違うと思うんだけどな』
「そのとおりよ。お兄様ならともかく、お父様には厳しいと思う」
マレット伯爵家も使節団に入っているのは、エディスの異母妹であるリビーと、マレット伯爵令息であるロニーが婚約関係にあるからだそうだ。
ちょっと意味がわからないが、おそらくマレット伯爵の願いに応じ、クルーズ子爵が強引に捻じ込んだというところだろう。そして、妻や子どもを帯同させるのもきっと同じだ。この機会に、大国マドック帝国に行ってみたいとねだられたのだ。
『ヨランダとリビーは完全に遊びに行く感覚だな。おそらく、マレット伯爵夫人やロニーもそうだろう』
「……税金の無駄使いね」
『まったくだ』
使節団の派遣にかかる費用は、当然ながら国が全て負担する。自分たちが金を出すのは、現地での私的な買い物や飲食代くらいだ。向こうに行くまでの行程や宿泊は、全て国任せである。よく王家が許したものである。
「リビーたちは、きっと帝都で遊んでるだけでしょうね。なら、私と顔を合わせることはないんじゃないかしら」
魔石獣や魔石番の視察は、帝都よりかなり離れた森まで来なくてはならない。
ヨランダとリビーは、やれ日に焼けるだの、ドレスが汚れるだのと言って、わざわざ森には来ない気がする。父やマレット伯爵とは顔を合わせるかもしれないが、出奔先がバレたところでもう今更だ。
「お父様に見つかっても、どうってことないわ。何か言われても、知らん顔する。私はもうクルーズ子爵家の人間じゃなく、マドック帝国のいち平民なんだし」
『エディスがいなくなってからも、たいして捜索しようとしなかったしな。見つけたら見つけたで文句は言いそうだが、そんなものは流しておけばいい』
「もちろんよ」
娘が出奔しても、探そうともしないとは。
よほどエディスに興味がない、もしくは邪魔だったのだろう。別に悲しくもない。向こうがそう思っているのと同じように、エディスもエリオット以外の家族に思い入れはない。
魔石鉱山の枯渇の話を聞いても、大変だなぁとほんの少し思う程度だ。仮にそのことでクルーズ子爵家が立ち行かなくなったとしても、エリオットだけは貴族のまま生きていける。魔導士として──。
『使節団がそっちに行けば、歓迎の夜会か何か、催されると思うが』
「あー……そうね、そうかも。でも、私は別に参加しないし」
(なにせ、平民だからね!)
エディスはそう高をくくっているが、エリオットが鋭い指摘をした。
『そうとも限らないぞ? 魔石番の責任者であるヘインズ子爵は参加するだろう?』
「そうね、するんじゃないかしら」
『だとすると、パートナーが必要だ』
「……いやいやいや、ちょっと待って!」
(パートナーが必要だから私を!? まさか、そんなこと……ないないない!)
「いくらなんでも、平民の私を連れて行かないわよ!」
『でも、エディスも魔石番だろう? もう一人のメイさんは生粋の平民で、しかも既婚者だから難しいと思う。でも、お前は元貴族で未婚の令嬢だ。白羽の矢が立ってもおかしくない』
「そ、それはないと思う!」
(絶対ない! ヒューはあれだけ見目がいいんだし、夜会のパートナーくらいいるでしょう? というか、婚約者は? あれ? そういえばそんな話、一回も聞いたことないわ……)
『夜会なんて、ヨランダやリビーがもっとも喜ぶ場だ。……そこで、ばったり顔を合わせることにならないといいな』
「……そんなこと言って、お兄様はそうなるって思っているんでしょう?」
『まぁな』
「いやああああ! やめてぇーーーーっ」
エディスは頭を抱えるが、ペンダントからはエリオットの笑い声が聞こえてくる。
(お兄様は妙に勘が働くから、本当にそうなりそうで怖い!)
エディスはそうなった場面を想像し、涙目になった。
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