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01.目指せ!文官

 エディスはそのまま帝都に向かい、宿を取った。文官試験の合格者発表までの約一週間分だ。

 合格すれば寮に入ることができるので、家を探すつもりはない。合格する気満々なのだ。


「勉強は嫌いじゃない。虐げられていたとはいえ、最低限の教育は受けさせてもらったわ。それ以上は独学で頑張ったし、絶対に受かってやるんだから!」


 マドック帝国の文官試験は、入国の際に役人が言っていたとおり、他国の人間でも受けられる。そして、身分も問われない。

 というのも、この国は徹底した実力主義で、能力のある者を登用することが一般的なのだ。


 マドック帝国は元々は一つの国だったが、周辺諸国を統合して大きくなった。古の時代から戦は負け知らず。時を経て、軍事力だけでなく経済力も身につけ、弱小国はこぞって帝国の庇護を求めるようになった。

 この国がここまでになったのは、実力主義を貫いたからである。

 貴族家の世襲も、長男とは限らない。能力があるなら、次男や三男、女性でさえ継ぐことが推奨される。それは、皇帝にも当てはまり、かつては女帝が治めた時代もあったという。


「ようやくここまで来たのよ。ここで落ちたらシャレにならないわ。それに……お兄様にも顔向けできない」


 あの家で、たった一人だけの味方であった兄の顔を思い出し、軽く頭を振る。


「エリオット兄様、私、絶対にマドック帝国の文官になりますから!」


 エディスは気合を入れ、文官試験に向けて最終調整に入る。まとめてきた自作のノートを広げ、内容をつぶさに確認していく。


(文官の試験は誰でも受けられるから、受験者数はものすごい数になるはずだわ。なにせ安定しているし、給金もかなりいいもの。合格率は10%満たない相当狭き門だけど、絶対に突破してみせる!)


 受験日まで、エディスの部屋の明かりは、夜遅くまで消えることはなかった。


 そして、迎えた当日。

 予想どおり、受験者数はかなりの数にのぼった。大きな会場を埋め尽くす人また人に、目を見張ったものだ。

 だが、エディスは落ち着いて試験を受けることができた。こういった試験には、あまり緊張しない質だ。しかし、問題は二次試験である面接だった。

 面接官と顔を合わせての試験は緊張する。こちらを威圧するような風貌の面接官ばかりで、怖がるなという方が無理というもの。鋭い問答に、エディスは心の中でわんわんと泣き喚いていた。それでも、必死に心を落ち着け、面接官の質問に丁寧に答えたつもりだ。

 終わった後は、魂が抜けてしまったかのようにぐったりし、満身創痍な状態だった。


(でも、後悔はないわ。やれることは全部やった)


 あとは、結果を待つばかりである。

 そして──試験から、ちょうど一週間後。


「きゃああああ! やったあああああっ!」


 エディスは見事、合格通知を手にしていた。

 文官の職を得られれば、マドック帝国の国民として認められる。国民として認められれば、帝国の庇護下に入ることができる。そうすれば……エディスの意思で、家との縁を切れるのだ。


「大好きなお兄様とも縁が切れてしまうのは悲しいけど、お兄様は私と連絡を取る手段をくれたのだもの。……淋しくなんてない」


 エディスは、肌身離さず持っているネックレスを握りしめる。

 兄のエリオットが餞別に持たせてくれたネックレス、それが、兄との唯一の連絡手段だった。

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