14.エリオットからの通信
魔石番としての仕事が終わり、寮に戻ってようやく一息つく。
エディスは軽く夕食を済ませ、食後のお茶を楽しんでいた。すると、エリオットから貰ったペンダントが明滅しているのに気づく。
「あら、お兄様から通信だわ」
エディスは、ペンダントトップに向かって話しかけた。
「お兄様?」
『エディス、今大丈夫か?』
「大丈夫よ。通信してくるには早い時間ね」
兄からの通信は、エディスがそろそろ寝ようかという頃が多いので、今日は早い。
というのも、兄エリオットは領地経営にも大いに関わっており、多忙を極めている。爵位を受け継ぐための準備を着々と進めている状態だ。父はまだまだ元気ではあるが、エリオットはできるだけ早く仕事の全てを引き取ろうとしていた。
『エディス、実はよくない知らせがある』
「え……なに?」
『両親とリビーが、そっちに行く。ついでに、マレット伯爵夫妻にロニーも一緒だ』
「え!? それ、どういうことなの?」
エディスは驚愕する。
もっとも会いたくない人間のオンパレードである。揃いも揃ってマドック帝国に来るとは、いったいどういうことなのか。
『実は、エディスの耳には入れないでおこうと思ったんだが……』
ここ数年、魔石の採掘量が緩やかに減っている。これは、クルーズ領だけでなく、国全体としてだ。
鉱山の資源は有限である。新しい鉱山が見つからない限り、当然のことだった。
しかし、ここ半年ほどで急激に減っていった。魔石が取れなくなる鉱山も増えており、クルーズ領所有のものも一つは完全に枯渇してしまったらしい。残っている鉱山も、採掘量は目に見えて減っている──という話だ。
(いつかは枯渇するにしても、急なのはおかしいわ……)
原因はわかっているのかと尋ねるが、現在調査中とのことではっきりしないらしい。
「魔石が確保できなくなったら大変だわ。他の国から輸入するのかしら?」
『それも考えてはいるだろうが、やはり自国で何とかしたいらしい。……マドック帝国のように』
「あ!」
エディスは、ようやく話が見えてきた。
マドック帝国は、元々魔石鉱山が少なく、採掘量も国全体をカバーしきれない。だから、昔は輸入に頼っていた。
そこで帝国は、魔石獣の力を借りるという対策を取る。上手くいくかどうかは未知数。なにせ、彼らを御することはかなりの困難を伴う。だが、それを実行に移したのだ。
魔石獣を探し、見つけ、認められる人間を選定する(実際は魔石獣が選ぶのだが)。その人間と彼らが信頼関係を築くことで、十分な魔石を確保する。これが軌道に乗るまで、かなりの時間を要した。
だが、現在ではもう自国だけでやっていけている。それは、魔石獣を飼育することで、安定して相当量の魔石を確保できるようになったからだ。マドック帝国は、見事結果を残した。
つまり──ロランド王国も、それに倣おうというのである。
「急激に減っている今からそれをやるの!?」
『……と思うよな。僕もそう思う。やるにしても遅すぎる。だから、当分は足りない分を輸入に頼ることになるだろう。でも、いずれは帝国みたいに、魔石獣から魔石を確保する方向に転換したいようだな』
「それで、こっちに視察に来るってことなのね」
『あぁ、そうだ』
ロランド王国で使節団を結成し、様々な外交や交流を目的に、彼らはマドック帝国にやって来る。そのメインが、魔石獣と魔石番の視察だ。
そして、エディスとしては全く嬉しくないのだが、その使節団のメンバーに、クルーズ子爵家とマレット伯爵家が入っているということなのだ。