12.初めての意思疎通
『エディス! エディス! オレサマの言ってること、わかる?』
エディスは、自身の周りをぐるぐると回っているランディに瞳を輝かせた。
「ランディ? ランディがしゃべってるの?」
『そうだよ! オレサマの言葉がわかる? エディス、大好き!』
「きゃあ! わかる、わかるわよ! 私だって、ランディが大好きよ!」
自分の言葉が通じたと知るや、ランディは大はしゃぎで辺り一帯を駆けまわる。
『まったく、ランディはまだまだ子どもだな。エディス、苦労をかけるな』
「ウォルフ! あなたはいつも落ち着いていると思っていたけど、やっぱり話し方も落ち着いてるのね」
風に靡く銀の毛をふわりと撫でると、狼のウォルフは嬉しそうにウォーンと遠吠えをした。
そうなると、梟のドロシーに鼠のラータも我も我もと話し出す。
『ねぇねぇ、エディス! ワタシの言葉もわかるのよね? 今日はね、リスたちがお花畑でダンスしてたのよ! ワタシもちょっとだけ仲間に入れてもらったんだけど、すっごく楽しかったぁ!』
『エディス、いつもありがとー。この間、中途半端に抜けた羽を取ってくれたわよね。すっごくね、むずむずして、ほんとーに嫌だったの。ありがとー』
ラータは鼠なだけあって、いつもとても忙しない。森のあちこちを駆けまわっていろいろな情報を拾ってくる情報通だ。話し方もそれらしく早口である。
一方、のんびりおっとりと話すドロシーは、あまり活動的な姿を見たことがない。というのも、彼女は夜行性なのでそれも仕方ないだろう。だが、いざという時はすごいスピードで飛べるというので、ぜひ一度見てみたいとエディスは思っていた。
「ラータも一緒にダンスをしたの? うわぁ、私も見たかったわ!」
『今度はエディスも一緒に踊りましょう!』
「ええ! すごく楽しそう! そうそう、ドロシーの抜けた羽、大切に取ってあるのよ」
『そーなの?』
「すごく綺麗なんだもの!」
『ワタシの羽、真っ黒だから嫌じゃない?』
「嫌じゃないわ。とても美しい黒で、見惚れちゃうほどよ」
『わー、嬉しい~』
『いいないいな! ワタシもドロシーみたいな羽があればよかったのに!』
『エディス、これをやる。オレの宝物だ』
ウォルフが口に咥えてきたものを受け取ってみると、それは珍しい色をした石だった。ひとめ見た瞬間に心惹かれたのだと言う。
「え……すごく素敵だけど、ウォルフの宝物なんでしょう? ウォルフがそのまま大事にしていて」
『オレがエディスにあげたいんだ。エディスのブラッシングは気持ちがいい。そのお礼に受け取ってほしい。そして、これからも頼む』
「私のブラッシングを気に入ってもらえてよかったわ。……それじゃ、せっかくだからいただくわね。大切にするわ。ありがとう、ウォルフ」
ウォルフは満足そうに頷き、もう一度遠吠えをした。
すると、ランディが一目散にやって来て、自分も宝物をやると、丸まったボロボロの紙切れや木の枝や色褪せた布などいろいろ持ってきた。それらを見て、メイが叫ぶ。
「あああああ! ランディ、なくなった私のメモ、あなたがこっそり持っていってたのね!」
『だって、遊べると思ったから』
「それにこれ、ずっと前になくしたと思ってたハンカチ……」
『落ちてた』
メイが落としたハンカチを拾って、そのまま宝物にしてしまったらしい。メモ紙もハンカチも、ランディの遊び道具になっていたのだろう。
「ランディ、これからはメモを取っちゃだめ。そして、ハンカチが落ちていたら教えてあげて」
『ハンカチ?』
「そう。でも、それがハンカチかわからないわよね。んー、なら、何か布が落ちていたら教えてね」
『ふーん、わかった』
「いい子ね、ランディ」
『オレサマ、いい子。だから撫でろ』
「はいはい」
ランディは、俺様な子どもらしい。それは普段の様子を見ているとわかるので、その口調に驚くことはないが、実際に聞くとなんとも可愛らしい。
エディスはヒューに駆け寄り、ペコリと大きくお辞儀した。
「ありがとうございます、ヒュー! 皆と話せて、すごく嬉しいです! あああ、もうずっとこのままでいたい!」
エディスの笑顔は、まさに幸せいっぱい。最上級の喜びを表していた。
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