07.エディスの弱点
「がるううううっ!」
威嚇するように吠えるランディの声に、エディスはしまったと思った。
突然大声を出すことは禁じられている。魔石獣が警戒し、襲い掛かってくるからだ。
「がああああっ!」
叫び出す間もなく、エディスの目の前は真っ暗になった。
(あ、今度こそ死んだ)
「エディス! どうした? エディース!」
(あれ? ヒューの声が聞こえる。ということは……また助かった!?)
ゆっくりと目を開ける。しかし、暗い。だが、もふもふである。
「がおーーんっ! がるううううっ! がうっ!」
「ランディ!」
「がうっ」
ヒューが近くまでやって来たようだ。ランディはヒューのところへ駆けて行く。そこでようやく、エディスの視界は開けた。
エディスは、ランディの下敷きになっていたのだ。いや、これは正確ではない。ランディとしては、身を挺してエディスを守ったのだろう。
(ランディは私を襲うどころか、守ってくれたのね……あれから)
あれの姿を思い出し、ぶるりと身体を震わせる。それは、エディスの弱点だった。
「エディス!」
「すみません……大声を出してしまって」
「よく無事だったな。ランディに襲われたのかと思った」
「がるるるるっ!」
「冗談だよ。お前はエディスを守ってくれたんだよな。ありがとな」
「がうっ!」
エディスを守ったことを、ランディはすでにしっかりと主張していたらしい。
「がう?」
ランディはエディスに近寄り、大丈夫? というように首を傾げた。
エディスはランディの頭を撫で、大きく頷く。
「大丈夫よ。急に大声出しちゃったのに、守ってくれてありがとう」
「がうっ!」
ランディの尻尾がブンブンと揺れる。
「それで、どうしたんだ。いったい何があった?」
ヒューに聞かれ、エディスは恐る恐るといったように、先ほどの場所を指差した。
ヒューは訝しげにしながら、エディスの指差す方を確認する。
「魔石じゃないか。今日は白か」
「いや、それだけじゃなくて……」
「それだけじゃない?」
「あの、巻き付いてるもの……」
「巻き付いて? 何もないぞ」
「え?」
エディスがそろりと見に行くと、魔石に巻き付いていたそれは、すでにいなくなっていた。
「あれ、いない……」
「何かいたのか?」
「はい。魔石に何かが巻き付いてるなと思って、解こうと思ったんです。そしたら、それが急に動き出して……」
「巻き付く? 動いた? あぁ、へ……」
「ストーーーーップ! それ以上は言わないでくださいっ!」
「は?」
必死にボリュームを抑えた声でヒューの言葉を遮り、エディスは耳を塞ぐ。
(聞きたくない、聞きたくないっ! あれだけは、どうしてもだめなのっ!)
「ったく、おかしな奴だな。魔石を回収して、さっさと戻るぞ」
「うううう……」
「……わかった。俺が回収するから」
「すみません……」
先ほど見かけた奴が、まだいるかもしれない。そう思うと、とても手を出せない。
それを察したヒューが、ランディの大きな魔石を軽々と持ち上げた。
「あ」
「え?」
「こいつか? 魔石の下に貼りついていた」
「!」
ヒューの持っているものを見た瞬間、エディスはものすごいスピードで一目散に駆け出す。
後に残されたヒューとランディは、呆気に取られ、互いの顔を見合わせた。
「これ、あいつの弱点みたいだな」
「がう」
「というか、白蛇なんて珍しいな」
白い魔石に貼りついていたものは、目が赤く、体が真っ白い蛇だった。