00.プロローグ
新連載を始めました。ストックがあるうちは毎日更新しますが、尽きたら不定期になるかと思います。できるだけ毎日更新できるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ようやく朝日が昇った頃だというのに、ロランド王国の隣に位置する国、マドック帝国へ入国する門の前には、大勢の人が並んでいた。
商人が多いが、冒険者や大陸のあちこちを放浪する旅人、帝国へ移住するためにやってきたと思わしき家族もいる。
そんな中、外套を頭からすっぽりと被り、前だけを見据える女が一人。堂々としているように見えるが、実際のところそうではない。内心ではビクビクと怯えていた。
(落ち着きなさい、エディス。大丈夫、問題ないわ。綿密な計画を立ててここまで来たんだから、絶対に大丈夫! 両親とリビーはマレット伯爵領に招待されてしばらく不在だし、私が家にいないことに気づくまであと三日はある! だから、追われることはない……はず)
わかってはいても、入国するまでは油断できない。万が一、マドック帝国に入る前に連れ戻されるようなことがあれば、計画はまた一からやり直し、しかも難易度は上がるだろう。
(お兄様……どうか私を守って……!)
家を出る前に兄から渡された餞別のネックレスをぎゅっと握り、エディスは心から祈った。
入国審査はスムーズに行われており、今のところトラブルもない。エディスの順番も着々と迫り、鼓動がスピードを上げる。
「顔を見せてください。そして、身分証の提示を」
「はい」
フードを取ってから身分証を見せる。エディスが提示したのは、冒険者である証明書だ。
階級はEランク。冒険者で一番多いのはD、Eランクなので、特に注目されることはない。それに、冒険者であれば女性が一人で行動していても不自然ではない。現に、身分証を確認している役人もそれを一瞥しただけである。次に聞かれたのが、入国目的だ。
「エディス=クルーズさん、入国の目的は?」
「貴国の文官試験を受けるためです」
「ぶ……文官?」
こんな反応が返ってくることは予想していた。
出で立ちどおり、冒険者として活動するためだと言ってもよかったが、国に仕える文官試験を受けるのだ。嘘をつくのは得策ではない。だから、正直に答えた。
「はい。貴国では、身分を問わず文官試験を受けられると聞いております」
「いや、確かにそうだが……」
「冒険者ではだめですか?」
役人はパチパチと何度もまばたきし、エディスを注意深く見つめる。
冒険者らしい出で立ちをしているが、戦闘には向かない体形、品のある知的な容貌、冒険者というよりは、貴族の令嬢のような……。
「あの、後ろが詰まっているようなのですが……」
その声に、役人はハッとする。確かに彼女の言うとおりだ。ここは、時間が経てば経つほど人が増えていく。
いくら冒険者らしくなくても、仮に貴族令嬢であったとしても、彼女はギルドが発行した身分証を所持している。入国に問題はない。役人はそのまま手続きを進めた。
実は、この役人は危惧していたのだ。彼女は、家を出奔しようとしているのかと。
帝国の国民になることはそれほど難しくなく、国民になってしまえば帝国の庇護下に入ることができる。そうなると、他国の人間はおいそれと手を出せなくなる。
それを狙って、家から逃れようとする他国の貴族が帝国に入国しようとすることが時折ある。大抵はその前に家に連れ戻されたり、偽の身分証しか用意できず、それを見破られて結局入国できなかったりするのだが。
貴族子息や令嬢は、身分証を持っていないことが多い。当主が管理しているからだ。身分証においては、平民の方が個々の所持率は高い。
目の前の彼女は、正式な身分証を提示している。偽造ではなく本物だ。入国を拒否する理由はなかった。
「冒険者でも、我が国の文官試験を受けることは可能です。身分はおろか、自国他国も問いません」
「ですよね! 事前に調べて確認はしていたんですが、合っててよかったです」
そう言って笑う彼女に、役人は入国許可を出し、激励する。
「エディスさん、あなたの実力が発揮できますように」
「ありがとうございます!」
エディスは役人に入国料を支払い、門を通る。この先は、オーランド大陸一の巨大国、マドック帝国だ。
マドック帝国内に足を踏み入れた瞬間、エディスは心の底から安堵する。
(やった! ついにロランド王国脱出よ! 男尊女卑の時代錯誤なあの国から、そして、ロクでもないあの家から逃げおおせた! バンザーイ!!)
エディスは心の中で雄たけびをあげ、帝都に向かって駆けだした。
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