第九話 きゅうびとたぬまるのばけくらべ、そして。
またもやふたりは、どろん、こんどはいのししにばけました。
そのすがたを見て、ごんたもかわぞうも、はらをかかえて大わらいです。
「アーッハッハッハ。クアーッハハハハ。おい、たぬまる、それがいのししかい? ハッハッハッハ。たぬまるは、ばけくらべをしたいんじゃなくて。プウーハハハハ。ほんとうはぼくたちをわらわせるつもりだったんだろう。アーハッハッハ」
「なにがそんなにおかしい」
たぬまるはいのししにばけた自分のすがたを、からだをよじったりして、あちこち確認しました。
そうして気がつきました。
しっぽがいのししではなくて、馬のしっぽになっていたのです。
「ああ、これはまちがいだ」
あわてていのししのしっぽにしましたが、もうおそすぎました。
「これじゃあきゅうびの勝ちできまりだね」
「うん。そうだね」
かわぞうに、そしてごんたにいわれて、負けをみとめたくはないたぬまるでしたが、自分でも負けたと思っていました。
下をむいてくやしそうなたぬまるは、もしかしたら泣きそうになっていたのかもしれません。
そんなたぬまるに、ばけるのをやめたきゅうびが助け舟をだしました。
「きょうはぼくが勝ったけど、しっぽさえまちがえなけりゃ、きっとたぬまるの勝ちだったよ。たぬまるの変化の術のうでまえも、そうとうなものだね」
「そうだろ。まあ、きょうは負けておいてやる。でも、つぎはこうはいかないぞ」
気をとりなおしたたぬまるは、ひとさし指で鼻の下をごしごしとしました。
かわぞうが頭のおさらに水をかけると、だれがいうともなく、四人で歩きだしました。
どれくらいの距離を、何分くらい歩いたでしょうか?
四人は、お話をしながら、目的もなく歩いていたので、なぜいま自分たちが森のけもの道を歩いているのか、わかりませんでした。
はっと気がついたのはたぬまるです。
「おい、見ろ。カブトムシだ」
人間の子どもたちもばんざいやまのの子どもたちも、カブトムシは大すきです。
四人は息をころして、そっとそっと近づきます。
カブトムシは木にとまって動きません。
ねているのだとしたら、好都合です。
たぬまるがそっと手をのばします。すると、
「へっくしゅん」
そんなときにかぎって、くしゃみがでてしまうのです。
たぬまるの指さきから、カブトムシはとんでいってしまいました。
「ああ、なんでおれは」
「まだ近くだよ。追いかけよう」
自分をせめるたぬまるにきゅうびがいって、とんでいくカブトムシを見失わないようにと、四人は走りました。
ですが、木々のあいだをすいすいととばれて、差はひらくばかりです。
それでも四人は追いかけます。
「あの木にとまったぞ」
きゅうびははっきりと見ました。
「どの木?」
たぬまるがききます。
「ほら、あの、ちょっとうろのある木。えだが右に二本、左に一本の、すぐ近くに、あるでしょ? あのうろのところ」
「うーん。ああ、あれか」
「見つかった? きゅうちゃん」
おくれてきたごんたがききました。
かわぞうはかっぱなので、泳ぎは大のとくいなのですが、かけっことなるとそうはいきません。
ハアハアいいながら、やっと三人に追いつきました。
きゅうびはごんたとかわぞうにも教えてあげました。
ごんたがいちばんからだが大きいので、きゅうびを肩車して、カブトムシをとることにしました。
「しんちょうにな。おれみたいにくしゃみなんてするなよ」
「わかってる」
そっとそっと、細心の注意をはらって、手をのばします。
みんな、こころのなかで、にげるなよ、にげるなよ、じょうずにつかまえてよきゅうび、と念じました。
その念がとどいたのか、きゅうびのとりかたがじょうずだったからなのか、きゅうびのおや指とひとさし指が、カブトムシをはさみました。
きゅうびはうれしそうにみんなに見せています。
ぐっとちからが入っていたから、うれしさもひとしおです。
「やったね、きゅうちゃん」
「よくやった、きゅうび」
「ぼくにも触らせて」
ごんたが、たぬまるが、そしてかわぞうがいいました。きゅうびはかわぞうに、カブトムシをわたしました。
四人で囲んで、カブトムシを見ています。
みんなの目がかがやいています。
そんなときは、耳がきこえにくくなり、鼻もききにくくなるものです。
だからみんな、気づくのがおくれました。
遠くでがさりと、音がしたのです。
「あれ? いまなんか音がしなかった?」
きゅうびがいいました。
「うさぎかしかか、なにかがにげたんだろ。そんなことより、どうする? このカブトムシ」
たぬまるはカブトムシにむちゅうです。
「でも、このにおいは」
ごんたがいいました。
くんくんとにおいをかぎます。
なるほど、たしかに風にのって、ばんざいやまでかぎなれないにおいがしています。
「なになに? どんなにおい?」
かわぞうはかっぱなので、きつねとたぬきとくまのようには鼻がききません。
だから風上のほうに首をのばしました。
「もっと近くにいってみようか」
四人はにおいのするほうに歩いていきました。
近づくほどににおいは強くなります。
「ねえ、ごんた。このにおいって、もしかして」
「うん。まさかとは思うけど」
「おれもそんな気がしてきた」
「なになに? どんなにおい?」
かわぞういがいは、こわくなってきたようです。
足どりがおもくなり、冷や汗がでてきました。
一歩、一歩、近づいていくと、見えてきました。
だれかがたおれています。
こわさより心配のほうがまさって、四人はかけよりました。
そこにたおれていたのは、ひとりの女の子です。
でも、ばんざいやまのお友だちではありません。
そう、人間の女の子だったのです。