第七話 おにぎりは半分に。
5 ある晴れた日
「おはようきゅうび」
きゅうびが起きていくと、がまおじさんがいいました。
だから
「おはよう」
と、きゅうびが返事をしました。
「きょうはな、おじさんすこしねぼうしてとび起きたから、ふとんがふっとんだんだ」
朝起きてすぐにこんな冗談をいわれて、きゅうびはまだねむい目をぱちぱちとさせました。
でもがまおばさんは、いやねえ、とわらってうれしそうでした。
いやねえといっているのにわらう、そしてうれしそう。
がまおじさんもそれを見てとくいげな顔をする。
きゅうびにはよくわかりませんでしたが、ふたりは気があっていて、なかよし夫婦なんだということは、いまよりも子どものころからよく遊んでもらっているので、しぜんとわかるようになりました。
台所には洗い終わった食器がさかさまになっておかれています。
それはふたりがきゅうびよりさきに朝ごはんを食べ終えたということです。
がまおばさんは、きのう、きゅうびがおにババからもらってきた朝ごはんを運んできました。
きゅうびのごはんは、おにババがにぎったおにぎりです。
ぐるりと海苔がまかれていて、かじってみるまでなに味なのかはわかりません。
それに、ふたつあるので、最初によりおいしいほうを食べてしまったら、ふたつ目を食べたときの感動が、どうしてもうすれてしまうので、これはもう運まかせです。
きゅうびは、見た目はいっしょのふたつのおにぎりをじろじろと見比べて、右がわのおにぎりをとりました。
がぶり。
ゴマがたっぷりのおにぎりでした。おいしい、ときゅうびは思いました。
そのようすを見ていたがまおじさんがいいました。
「なあ、きゅうび。きゅうびはおにぎりを食べて『きょうは当たった』『きょうはこっちをさきに食べればよかった』っていうけどさ、おにぎりを半分こにしてなかを確認すれば、毎日当たりになるんじゃないのか?」
たしかにそのとおりだ!
きゅうびは驚きました。
でもすなおに認めることは負けたみたいでなんかいやだったので、
「それじゃあおもしろくないと思うんだよ。当たりかはずれかの運だめしみたいな、遊びっていってもいいようなものなんだからさ、答えがわかっちゃったら、当たりをひくのがあたりまえになっちゃうでしょ?」
と、とっさにいいわけをしました。
とっさのわりには説得力のある答えだったので、がまおじさんは
「そうか」
と、ひきさがってくれました。
でもきゅうびにとっては、そうかんたんにひきさがられたら、これからも半分こにしてなかを確認するっていう食べかたができないじゃないか!
という気持ちでした。
きゅうびはじつはがまおじさんのアイディアを、とてもいいと思っていたのです。
きゅうびはこまりました。
でもなんでもないという顔をして
「でも、がまおじさんがせっかくいってくれたんだから」
と、もういっこのおにぎりを半分にしてなかを確認しました。
がまおじさんとがまおばさんは顔を見あわせました。
その顔はおどろいているようにも、わらっているようにも見えました。
「がまおじさんのいうことも悪くはないね。こんどからは、ときどきは、おにぎりを半分こにするようにするよ」
ふたつ目のおにぎりを食べ終えてから、きゅうびはくちびるについたごはんつぶをぺろりと口のなかに運びました。
がまおじさんもがまおばさんも、やっぱりおどろいたようなわらっているような顔をしています。
食休みをとると、がまおじさんは仕事にいきました。
がまおばさんがこんなにいい天気なのだから、洗たくとふとんの天日干しをするというので、きゅうびはお手つだいをすることにしました。
きょうは授業はお休みなのです。
ばんざいやまの洗たく場にいくと、ごんたのお母さんがごんたと洗たくをしていました。
そしてがまおばさんが洗たくをはじめると、つぎからつぎにやまのお友だちが洗たく物を持ってやってきました。
考えることはみんなおなじなんですね。
こうなるとみんな、手だけじゃなくて口も動かして、アハハ、アハハとそれは楽しそうです。
そうこうしているうちに洗われた洗たく物のやまができあがって、ひとり、またひとりと、家に帰っていきました。
きゅうびは帰る前にごんたと、お昼ごはんを食べたあとで遊ぶやくそくをしました。
家についたらこんどは洗たく物を干さなくてはなりません。
きゅうびの身長では、洗たく物を物干しざおにじょうずに干すことができないので、きゅうびはがまおばさんに洗たく物をわたす係です。
洗たく物を、ばさばさとふって水気をきり、しわをのばしてがまおばさんにわたします。
うけとったがまおばさんは、てぎわよくハンガーにかけて物干しざおにかけるのです。
ばんざいやまにハンガーなんて人間がつくった便利などうぐがあるのはおかしいって思うひともいるかもしれないけど、ひとにばけたてんぐさまが町にいくことだってあるし、人間の社会でくらすお友だちがいるって前にいいましたよね。
だからばんざいやまには、けっこうハイカラなものが、あるのです。
いっぱいの洗たく物を干し終えると、がまおばさんは
「ひとりよりふたりのほうが早く終わるわね。手つだってくれてありがとう」
とわき水がひかれている水道をひねって、きゅうびにコップいっぱいの水をわたしました。
とても冷たくて、おいしくて、きゅうびはごくごくと息もつかずにからにしてしまいました。
お昼ごはんはおにババ食堂です。
きのうの夜はいましたが、きょうは家で食べているのでごんたはいません。
仕事のお昼休みに食べにきたおとなが八人、いるだけです。
子どもはきゅうびひとりだけ。
でもこの二週間で、あんがいとなれっこになったのです。
ばんざいやまはそんなに広くはないので、おとなたちはみんな、修行にいったきゅうびの両親のことは知っているのです。
子どもがひとりできているからと、けむたがるようなお友だちは、ばんざいやまにはひとりもいません。
するとおにババが、牛乳をもってきてくれました。
「え、たのんでないよ」
と、あわてるきゅうび。
「おれからのプレゼントだ。それのんで大きくなって、お父さんとお母さんみたいなりっぱなきつねになるんだぞ」
八人のおとなのうちのひとりが、おごってくれたのです。
こんなふうにごちそうになってはげましてもらえたのははじめてで、きゅうびは感激しました。
「ありがとうございます」
思わず大声がでました。
でも、時計を見たら、びくりと背すじがのびました。
たいへんです。
もう一時になりそうではありませんか。
ごんたとはなん時にとやくそくをしたわけではありませんが、ごんたの性格を考えると、もう待ちあわせの場所で待っている可能性があるのです。
きょうのきゅうびは一気飲みをする日のようです。
牛乳をごくごく飲んでプハーと息をはきだしてから、
「おにババ、きょう、ぼく、ごんたとやくそくしてるんだ。もういかなきゃ。おじさん、ありがとう。ごちそうさま」
と、急いで食堂をでました。
ごんた、こういうときはおくれてくれてもいいんだけどなあ。
きゅうびはそう思いました。