第五話 もぐもぐご飯。
3 おにババ食堂
おにババの家で待っていると、おにババが帰ってきました。
「おお、きゅうびにごんた、お待たせして、悪かったねえ」
きゅうびとごんたは左右に首をふって、びくをさしだしました。
びくに入った新鮮でおいしそうな魚を見て、おにババはにっこりとわらいました。
「おお、おお、ありがとうねえ。おいしい料理をつくるから、待っていておくれ。とちゅうまでは終わってるんだ」
おにババの家は、ばんざいやまの食堂になっているのです。
お友だちはそこに足を運んで、したつづみをうつのです。
といっても、やまのお友だちが全員、食堂に食べにきたらぎゅうぎゅうづめになって食堂がばくはつしてしまいます。
おにババ食堂は、きゅうびのような理由のあるお友だちか、子どもか、予約をしたお友だちのために、おにババがうでをふるう食堂なのです。
きょうのお客さんは、きゅうびとごんたとたぬまるの、やまの子どもの男の子たちと、いのししの女の子、のっことその家族八人の、あわせて十一人です。
おにババが調理場で魚を料理しているあいだは、三秒しりとりをして遊びました。
十一人全員で、です。
三秒しりとりとは、ふつうのしりとりに、三秒以内に答えなければならないというルールを追加した遊びなのです。
これは、去年の夏に、たまにふらっとばんざいやまにやってくる行商人のとんびさんが教えてくれた、人間のあいだの遊びです。
とんびさんは珍しいものを売ってくれたり、珍しい話をきかせてくれたりする、人間とやまのお友だちとのあいだにうまれたおじさんなのです。
子どもはもちろん、おとなたちもその珍しい話をききたくて、とんびさんがくると授業が休みになるくらいです。
わらい声のなか、おにババが声をかけてきました。
十一人ぶんの料理をひとりで運ぶのはたいへんなので、みんなでお手つだいするのです。
まっさきに手つだいにいったのは、やっぱりたぬまるでした。
さっきの失敗の罪ほろぼしをしたいのでしょうね。
おにババもにっこりわらいました。
「はい、できましたよお」
さいごのおさらをテーブルにならべて、おにババはいいました。
「いただきます」
手をあわせた十一人が声をそろえました。
ひと口食べると、みんなのおはしがぴたりととまりました。
まずいからではありません。
その逆です。
おいしくてほっぺが落ちそうだからです。
でもふた口目からは、みんなおしゃべりもせずに食べました。
まるで早食い競争でもしているかのような食べっぷりです。
ぱくり、むしゃむしゃ、ごっくん。
ぱくり、むしゃむしゃ、ごっくん。
たくさんの料理が、あっというまにみんなのおなかのなかに。
さっきいただきますをいったのに、もうごちそうさまです。
おにババはうれしそうな顔でききました。
「ババの料理は、どうだった?」
「おいしかった」
きかれたきゅうびたちは、みんな口々にいいました。
おにババの料理は、ほんとうにおいしいんです。
ごんたなんて、いっぱい食べたから、おなかがぽっこりしています。
こんどはみんな、まんぷくで話をするどころではなくなってしまいました。
そこにだれかがやってきました。
ごんたとたぬまるのお母さんです。
たぬまるはかけよりました。
「お母さん」
「むかえにきたよ。おにババ、ごちそうさまでした」
「いいんだよお。またおいで。でもこんどはつまみ食いはしちゃだめだよ」
「あら、あんた、つまみ食いなんてしたのかい?」
「……うん。とてもおいしそうだったから、がまんできなくなっちゃって。でももうしないよ。ごめんなさい」
おにババにもあやまって、たぬまるはお母さんと帰っていきました。
たぬまるのお母さんのかげに立っていたごんたのお母さんが、入れかわりで入ってきました。
「ごんた」
「うん。じゃあ、またねきゅうちゃん」
「うん。またね」
ごんたはきゅうびに別れのあいさつをして、おにババ食堂から帰っていきました。
ごんたの背中が見えなくなるまで、きゅうびは見ていました。
しばらくして、のっこの家族も帰っていき、あんなににぎやかだったおにババ食堂は、おにババときゅうびのふたりきりになってしまいました。
こんなに広かったっけ。
きゅうびは思いました。
思っていると、おにババはいいました。
「もうがまさんちはなれたかい?」
「うん。すごくやさしくしてくれるよ」
「そうかい」
きゅうびが返事をすると、おにババはほほえんでうなずきました。
「朝ごはん、きょうももっていくんだろう?」
「うん。毎日ありがとう」
「礼なんていいよお。おいしいって食べてもらえたら、それがいちばんのお礼なんだ。がまさんのごはんじゃ、おなかいっぱいにはならないものねえ」
きゅうびはわらうしかありませんでした。
名まえからもわかるように、がまさんはかえるです。
がまさんのごはんはコオロギや、ワラジムシや、ミミズといった虫が主食なのです。
肉や魚や野菜も食べて食べられないことはないのですが、きつねのきゅうびとは味覚が根本的にちがうのです。
お互いにおいしいと思えるものを食べたほうがいい、という結論にたっして、がまさんちにお世話になっているきゅうびのごはんは、おにババにつくってもらうことになったのです。
正直にいって、きゅうびはむねをなでおろしました。
それはそうです。
コオロギやワラジムシを食べるきつねは、ばんざいやまにはいませんからね。
そうしていると、ガラガラとドアがあきました。
がまおじさんです。
きゅうびをむかえにきてくれました。
「こんばんは。お、いたいた。きゅうび、帰るぞ。かえるのおれと、帰るぞ」
がまおじさんはいっつもこういう冗談をいいます。
きゅうびはわらったほうがいいんじゃないと思うのですが、じょうずにわらえません。
それでもまったく気にせずに、がまおじさんはいっつも、こういう冗談をいうのです。
どうやらひとをわらわそうとしているのではなくて、自分がすきだからいわずにはいられないらしいと、きゅうびはあたりをつけました。
そしてそれは正解なのでした。
どんな冗談をおもしろいと思おうが、それはひとそれぞれ。
ばんざいやまにも、いろんなお友だちがいて、それぞれがそれぞれにそのお友だちなりのおもしろいと思う冗談をいっている。
これからもいっていく。それでいいのではないでしょうか。
おにババにさよならをいって、きゅうびはがまおじさんと帰っていきました。