第四話 だめ、ぜったい!
どうやら、むこうもふたりみたいです。
だれかがなにかをさけんでいます。
ひとりはおこっているようです。
もうひとりはこわがっているようです。
すごいスピードで近づいてきます。
きゅうびもごんたもピンときました。
きゅうびがいって、ごんたがかえしました。
「おにババだ」
「うん。おにババだね」
「追いかけられてるのはだれかな?」
「まだわからないけど、すぐにわかるよ」
「そうだね」
ピンときたとおり、包丁を持ったおにババが、だれかの後ろを、ものすごいスピードで走っています。
さっきはききとれなかった声も、だんだんはっきりときこえるようになってきました。
おにババはこういっています。
「まあああてえええええ」
追いかけられているお友だちはこういっています。
「ごめんなさいいいいいいいいいいいいい」
追いかけられているのはたぬきのたぬまるでした。
泣きべそをかきながらぜんりょくでにげています。
きゅうびとごんたは道をあけました。
そこをものすごいスピードのおにババとたぬまるが走り去っていきました。
「まあああてえええええ」
「ごめんなさいいいいいいいいいいいいい」
という声があっというまに遠くなっていって、すがたもあっというまにお米つぶのように小さくなっていきました。
きゅうびもごんたも知っています。
たぬまるは、おにババのつくった料理をつまみ食いしたのです。つまみ食いをしたひとはみんな、おにババに追いかけられるのです。
包丁を持って、つのをはやした、はんにゃのお面のような顔をしたおにババに。
じゃあ、つまみ食いなんてしなきゃいいのにってみんな思います。
でも、おなかがペコペコのときのおにババの料理のにおいに勝てるお友だちは、そうはいないのです。
おにババの料理は、やまいちばんと評判なのですから。
おとなだって、がまんができなくなることがあるくらいなんですよ。
でも、ひと口だけとつまんだがさいご、こうなるのです。
「あんな目には、あいたくないね」
「あんな目にあうくらいなら、がまんしたほうがいいよね。待っていれば食べられるんだしね」
いま、おにババの家に魚を持っていっても留守だとわかったので、きゅうびとごんたは夕暮れのばんざいやまを、ゆっくりと歩いていきました。
ちなみに、はじめてきくひとはよくまちがえるのですが、おにババの『おに』は『鬼』ではありません。
ていねいなことばづかいをするときの『御』に、仁義や仁徳ということばに使われる『仁』と書いて御仁ババなのです。
鬼ババとはかけはなれた、とてもやさしいおばあさんなのです。
……つまみ食いさえ、しなきゃね。