第二話 きょうはなにして遊ぼうか。
第一話よりも短めになっております。
でもこの先、もっと短い話もあると、さきほど確認して気がつきました。
でもでも、私が知らないだけで、他の作品ではこれくらいが普通なのでしょうか?
私は世間知らずなのでいろいろと教えていただけたら嬉しいです。
では、どうぞ。
1 きゅうびとごんた
ばんざいやまの子どもたちは、いま、授業中です。
大きな木々の葉っぱのすきまから、太陽の光がさしこんでいます。
風がやさしくふきぬけて、みんなは葉っぱのさらさらが耳にくすぐったいようです。
きょうもいい天気です。
きょうの先生をつとめているのはてんぐさまです。
護身術を教えてくれるのはばんざいやまの用心棒のおおかみ男。
包丁の使いかたを教えてくれるのはおにババ。
川で遊んだときにおにババに教わったとおりにつかまえた魚をさばくと、それはおいしく食べられるのです。
ではてんぐさまはなにを教えてくれるのでしょうか?
てんぐさまが教えるのはひとつではありません。
読み書きだったり、変化の術だったり、人間にばけて町におりてようすをうかがったときの教訓だったり、さまざまです。
ばんざいやまの平和をおびやかした悪いお友だちと戦ったときのお話は、子どもたちはもう三十回はきいているのに、いつもいつもおなじところで手に汗をにぎってこうふんしてしまうのです。
でもきょうの授業は読み書き。
字を読んだり書いたりできないと、ばんざいやまの歴史書も読めないし、自分の歴史書を書かなければならない状況になったときに、こまったことになってしまうので、たいせつな授業なのです。
子どもたちはひらがな、かたかなは読み書きできるようになっているので、つぎの段階である漢字を習っています。
てんぐさまは、たいくつそうにしている子どもには、しかったりはしません。
「じょうずに書けるようになったじゃないか。ここをこうしたら、もっとじょうずになるぞ。やってごらん。そう、うまい。がんばったで賞をあげようかな」
そうほめてやる気をおこさせるのです。
ほめられた子どもはにっこりわらって、がんばって漢字を書いて練習します。
でも、みんながみんな、たいくつに思っているわけではありません。
ばんざいやまの歴史書を書くのは、やまでいちばん頭がいいお友だちときまっているからです。
漢字がすらすら書けて、記憶力がとてもよくて、きれいな字を書けるお友だちでないと、つとまらないお仕事だからです。
そのうえ、ただ歴史書を書くだけではありません。
やまのお友だちに話してきかせるというとても重要な役目もあります。
歴史書を書いてそのお話を覚えて話してきかせるお友だちは、みんなから『語り部さま』とよばれて尊敬されています。
だから子どもたちにはあこがれのお仕事でもあるのです。
「じゃあ、この漢字をあと十回書いたら、きょうの授業はおしまいにします」
「やったー」
子どもたちはうれしくて声をあげました。
「だからっていそいで書かないで、ていねいに書かかないといけないよ」
「はい」
いい返事をした子どもたちは、いわれたとおりていねいに十回書きました。
そして順番にノートをてんぐさまに渡して、さあ、遊びの時間です。
「てんぐさま、さようなら」
「気をつけて帰るんだよ」
子どもたちひとりひとりにあいさつを返したてんぐさまは、きつねのきゅうびがノートを渡したときに、こういいました。
「きゅうび、がまさんとは、なかよくやっているのか?」
「はい。親切してもらっています。がまおじさんもがまおばさんも、とてもやさしくしてくれます」
「そうか。ならいいんだ。じゃあ、気をつけて、おそくなるまえにはうちに帰るんだよ」
「はい。さようなら」
さようならと返してくれたてんぐさまにおじぎをして、きゅうびはくまのごんたといっしょに帰りました。
ふたりは大のなかよしなのです。
ごんたはいいます。
「ねえきゅうちゃん、きょうはなにして遊ぼうか」
「うーん、なにがいいかな? 山菜とりはこないだしたばっかりだから、川にいって魚とりでもしようか」
「うん。そうしよう。じゃあ、きょうの夕ごはんのおかずは魚にしようって、おにババにいってからいこうよ」
「うん。さきに魚とりしてるひとがいないといいね」
きゅうびとごんたは、どちらがいったわけでもなく、走りだしました。
ああ、それから、ばんざいやまのお友だちは、自分たちのことを『ひと』とよんでいます。
人間ではないのですけど、だれがいいだしたのかわからないくらいずっと昔から、そうよんでいるのです。
だからきゅうびもごんたも自分たち、ばんざいやまのお友だちのことを『ひと』といっているのです。
ちょっと頭がこんがらがりそうだけど、きつねもくまもてんぐさまも『ひと』。
人間じゃないけど、『ひと』。
だから、ばんざいやまのお友だちが『ひと』っていったら、人間のことか自分たちのことか、考えてみてくださいね。
ばんざいやまのお友だちの間でも、日本語が使われています。
文字も言葉も日本語です。
てんぐさまもきつねもくまも、外国から来たお友だちだって、日本語で話します。
……意地悪言わないでくださいね。
では、また。