第十話 利息
マルハチ坂の戦いから、六十年経った。
あの後も何十回と戦争はあったものの、マルハチ坂の時ほど語るべきことは無ぇ。
あれ以来王都の護りが強化されて、虚し過ぎる負け方は無くなったからな。
その間俺を支えてくれた──結果的に俺の今生を振り回してくれた聖剣についてだが、確かに斬れ味は凄まじかった。
だがな、時が経つほど、聖剣に匹敵するような新物質、新工法、新装甲、新戦術、新兵器……とまあ色んなものが開発されて、自分の手の届く範囲だけどうにかするのが精一杯になっちまった。
おかげで、最後の剣聖、なんて呼び名もそろそろ聞かなくなってきた。わりと気に入ってたんだが。
ああ、「結果的に」っつったのは、俺の今生も終わりが近ぇらしい、ってことよ。もうすぐ何かが摩耗し切る。そんな気がするんだ。
この六十年、俺の得た技術と知識を伝えようと学校まで作って教え込んだ。多少は見込みのある奴等を育てられたと思う。
おかげで無為に終わるとは思わねぇで済んだ。ありがてぇ限りだ。
満足して逝ける。これ以上の幸福はねぇよな。
お、婆さん、あん時の婆さんじゃねぇか。ありがとな。おかげで楽しめたよ。
恩返し? ああ、なんでも持っていってくれ。俺にはもう、なんも要らねぇからな。
実験? 機械? 魂? 確かになんでもたぁ言ったけどよ、そりゃまた俺は……どうなるんだ?
またあのふわふわしたとこへ行くだけ?
いや、待ってくれ。俺はもう満足してるんだ。【転生】したいとも思っちゃいない。
利息? おいおい、そんなら最初からやらかしてたってことになっちまうじゃねぇか。
代償……弟子達?
あんた、本当は悪魔かなんかか?
仕方ねぇな。俺のこたぁいい。それで終わりにして、あとのもんは持ってかねぇでくれ。頼む。
ありがとよ、婆さん。
ああ、次はもう少し気を付けるさ。
(完)




