第一話 転生直前
ふわふわと、明るいような暗いような、色も光も漂うだけの世界で。
「済まないねぇ、あんた」
──なんだよ婆さん、なんか困りごとか?
優しげな、少しだけ腰の曲がった、小さなお婆さんが見えた。
「いやだよ、困ってるのはあんたの方さね」
──別になんも困っちゃいねぇって。遠慮無く言えよ婆さん
「そうかい? それなら言うけど、あんた、死んじまったんだよ」
──冗談キツイぜ、話し相手が欲しいなら素直にそう言えって。
「違うんだ、そうじゃないんだよ、あんた……まだわからないのかい? 身体が無いってのに」
──あん? そんなわけ……って本当に無ぇ!? ってこたぁ、本当に……
「そうだよ、死んじまったんだよ。公園から飛び出した子供を庇ってね……」
──あー、そうか、そうなるんか……で、なのに話せてるってこたぁ、婆さんは神様か何かで、いわゆる【転生】でもさせてくれるんか?
「そう、させてもらってもいいかね」
──せっかくだ、頼むぜ。やり遺したことがある、ってほど立派な志はねぇが、人生何かしらやり遂げたってつもりになって死にてぇからな。
「ふふっ、いいよ、わかった。なら、技能……あんたらにわかりやすく言うなら、スキル、ってやつを預けてやろうかね。言い方が合ってるといいんだけど」
──おっ、わかるわかる。よくあるやつだな! ありがてぇ。何をくれるんだ?
「選ばせてやりたいんだけど、どうだい?」
──なおありがてぇ。どんなのがあるんだ?
「ケンセイ、キュウセイ、マセイ、セイセイ、ギセイ……ってとこかね。どれがいい?」
──ケンセイ……は剣聖だろ? なら弓聖に……マセイ、ってのは魔法使いか何かか?
「そうだね、魔の聖……矛盾するみたいだけどさ、別に魔ってのは悪いだけのもんじゃないからね」
──じゃあセイセイは……まさか聖なる聖?
「大作ゲームで言うところの僧侶系だね」
──案外知ってんだな婆さん。流石神様。
「よしとくれ、あたしゃしがない年寄りだよ」
──まあそう言うなって。……しかしギセイはわからねぇな。
「技術の聖、で技聖だね。機械を弄ったりすることにかけては天下一品。オススメだよ」
──そうか、ありがとよ。でも俺は……剣聖だな、やっぱ。
「いいのかい? 一度選んだら、もう取り返しは付かないよ?」
──ああ、剣や魔法の世界なら、剣に一生を懸けるのも楽しそうじゃねぇか!
「ふふっ、そう言うなら、わかった。あんたをとある世界の剣聖として送り出そう。楽しんでおくれ」
──おう、ありがとな婆さん。いつか恩返し出来たらするよ!
「楽しみにしとくよ。良い生を」
──ああ、婆さんも! またな!
こうして俺は優しい婆さんのおかげで異世界転生出来た。
正直、もうちっとだけ説明聞いときゃ良かった。