13.3 ササラの行方
「リオナ。何があったの?」
噴火口からシャドウルに運ばれてきたリオナは、アルフォンスに声をかけられてさらに項垂れる。
「あのとき、ササラが助かる方法だってあったのにっ!」
自分の力不足を嘆くように、ダンッと地面を殴る。そんなリオナの手をアルフォンスが優しく掴む。
「白魔術師アルフォンス・アドルフ・アディントンが命じる。世界に満ちるマインラールよ、リオナの手の怪我を治療せよ」
アルフォンスが魔法をかけてくれ、火傷していたリオナの手が治療される。
その治療された手を見て、ササラを助けられなかったとまた悔やむ。
「リオナ。ここにいては危険だよ。さっきマオゲヌ山が一度噴火した。もっと大規模に噴火する前に、ルイ島を出ないと」
「でもっ、ササラが……ササラが、噴火口に落ちてっ……」
リオナの話を聞いて自体を察した黎明の疾風団が、気遣うような空気になる。
もしかしたらまだ間に合うかも。そう言って駆けだそうとするリオナの両肩を、アルフォンスが掴む。
「リオナ、落ち着いて。奇跡が起こらない限り、マグマに落ちたら人は死ぬ。もう、リオナの幼馴染みは戻ってこないんだ」
「そんなっ……やっと、ササラとの約束を思い出したのにっ」
リオナは泣き崩れる。
アルフォンスはブライスとモニカを見て、頷き合う。
「リオナ。ここは危険だ。移動しよう」
泣きやまないリオナは、アルフォンスに抱き上げられた。以前失敗したときとは違い、軽々と持ち上げられている。その安心感に包まれながら、リオナは泣き疲れるまで泣いた。
「ササラ……ごめん……」
船に乗せられたリオナは、アルフォンスに頭を撫でられながら眠る。何度も、何度も、後悔の涙を流しながら。
ルマウ島についたリオナは、避難した人々から大いに感謝された。誰かが、噴火を言い当て大勢を救った聖女だと言う。
リオナはアルフォンスの腕の中で眠る。優しく、背中を撫でられながら。
一ヶ月後。春の温かな日差しが地上へ届く頃。
ルイ島から一番近いルマウ島から、避難した人々が故郷へ戻り始めていた。
マオゲヌ山の大噴火は起こらず、島内の水位も回復しつつあると調査結果が出ている。水分率の話から、恐らくもう噴火はしないだろうという推測が立てられた。
「ササラ……」
帰還隊の一番手に手を上げたリオナは、ルイ島に戻ってから毎日マオゲヌ山を訪れていた。麓のマオゲヌ沼の近くに、ここにしか湧かないヴェングがいる。手の平大の黒い蛙が長い舌を伸ばしてきたが、パパッと殴って倒す。
「リオナ。もう帰ろう」
「そうですね……。アルフォンス様、いつもここまで一緒に来てくれてありがとうございます」
アルフォンスと一緒に帰ろうと思ったとき、地中から声が聞こえてきた。
「ゴロスケホッホ」
「シャドウル!? 夜じゃないのに?」
リオナはアルフォンスから離れないようにして、シャドウルを警戒する。
地中から現れたシャドウルは、リオナとアルフォンスの周囲を何度か旋回した。その後、まるでついてこいと言わんばかりの様子で、少し進んでは休み、少し進んでは休み、と繰り返している。
進む内に、夜の闇に紛れるシャドウルが酷く弱っていることに気づいた。それは、通常であれば浴びることのない日差しを浴びているからだろうか。
(ササラ……)
リオナは、シャドウルを見るとササラを思い出す。最後にリオナをアルフォンス達のところまで運んでくれたのは、ササラが生み出したシャドウルだ。
「ゴロスケ、ホッホ……」
シャドウルが、まるで役目を果たしたというように消えた。それは突然で、地中へ行く前に、霧散する。
その、消えた場所にいたのは。
「ササラ!?」
マオゲヌ山の麓の、登山口の入口の所にササラが倒れていた。
リオナが駆け寄る。俯せで倒れていたササラは、目を背けたくなるほどの火傷を覆っていた。リオナは自分のローブを脱ぎ、ササラに被せる。
「ササラ……ササラ……」
ぴくりとも動かないササラを抱きしめる。せめてササラの墓を作ろうと、リオナはアルフォンスにササラを運んでもらおうとした。
アルフォンスも、リオナの心情を慮りながらササラを持ち上げようとした、そのとき。
さあーっと、光の粒が集まってきた。それはまるで、アルフォンスが治療をしているときのような現象だ。しかしアルフォンスは、詠唱していない。
「えっ、なに!?」
ヴェングが湧き、すぐに光の粒になる。
マオゲヌ山やケルルッサ山の方から黒い鷹がやってきて、光の粒になる。
ヴァゼテラ平原の方から、角剣がついたソードラビットが駆けてくる。
「わわっ」
突然黒い雲が集まり、雷がなると同時に雨が降る。そして、その気象条件でしか出ない帯電した狐もやってきた。
ササラの周りに集まった鉱魔達は皆、光の粒になっていく。マオゲヌ沼周辺に湧く鉱魔達が、次々と光の粒になってササラを覆う。
「あ……晴れた」
ザーッと降っていた雨が止み、空に虹がかかる。そのとき、リオナの腕の中にいたササラが動いた。
「ササラっ!? アルフォンス様! お願いします!!」
死んでしまったと思っていたササラが、動いた。生きているかもしれない。そんな願いを込めて、リオナがアルフォンスに治療を頼んだ。
アルフォンスが詠唱した。すると不思議なことに、先程光の粒になった鉱魔達のような形が作られる。そしてその形が崩れ、ササラの肌から吸収されていった。
そして。
「……リオ、ナ……?」
「そう! ササラ! 良かった! 生き返った!!」
灰色がかった茶色い瞳をしっかりと確認する。またその色を見ることができて、リオナは喜びの余りササラをぎゅぅっと抱きしめた。
「リオナ……苦しい」
「ご、ごめんっ」
幼馴染みと再会できて喜ぶリオナを見ながら、アルフォンスが詠唱を重ねる。どうやら仮死状態にあったらしいササラは、今はまだ全快までできないらしい。
ササラはリオナに背中を支えられながら、これまでのことを話してくれた。




