13.2 アルフォンスの思い
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「白魔術師アルフォンス・アドルフ・アディントンが命じるっ! 世界に満ちるマインラールよっ! ネイサンの怪我を、治療しろっ!!」
もう何度目かわからない詠唱をする。
アルフォンスは、リオナがシャドウルに攫われてしまってからも、ネイサンに魔法をかけ続けた。
今は夜。夜の闇に紛れてしまうシャドウルを追っている間に、ネイサンは死んでしまう。それが一番、リオナが戻ってきた時に悲しむことだ。
だから、全身の血管がはち切れてしまうような全力で叫ぶ。
「白魔術師っ、アルフォンス・アドルフ・アディントンがっ、命じるっ! 世界に満ちるっ、マインラールよっ! ネイサンの怪我を、治療しろっ!!」
また駄目か。そう、思った時。全身に力が漲ったような気がした。そして、その力をネイサンへ向ける。
ぱああっっと、ネイサンの周囲に光の粒が現れた。それは血を流している箇所に集まり、怪我を治療していく。
その光が消える頃、ネイサンがむっくりと体を起こした。
「おれは……死ななかったのか」
「馬鹿野郎!! 死ぬ気だったのか!? だから、鉱魔になったのか!?」
「おれがいたら、アルが気にしてリオナ嬢と付き合えないだろ」
「なっ……そんな理由で!?」
「そんな理由とは何だ。おれはアルの従者だ。主の幸せを願うことは当然」
「ふざけるな!!」
乳兄弟の言い分を聞いて、アルフォンスは思わずネイサンを殴ってしまった。頬を抑えるネイサンが、アルフォンスを見る。
「ネイサンは確かに、ぼくの従者だ。でもそれ以前に、ぼくの大切な友人だ! 友人の幸せを願って、何が悪い!?」
「そんなことを言ったって、おれがリオナ嬢に告白できるわけないだろう?」
「勝負する前から諦めるのか?」
「諦めるも何も、リオナ嬢の答えはもう出ているじゃないか」
「リオナに告白しないで、ネイサンの気持ちはどうなる? 一生その気持ちを抱え続けるのか? そんなこと……苦しいじゃないか。叶わない気持ちをずっと抱えるなんて……ネイサンの幸せはどうなる? 一生、幸せになれないじゃないか」
「……おれの幸せを願う割りに、おれが負けること前提だな」
「当たり前だっ。ぼくのリオナに対する気持ちは、ネイサンにだって負けない」
ふんす、と胸を張って言う。するとネイサンは、ははっと笑った。そんなネイサンを見て、アルフォンスも笑う。
お互いに、アルフォンスが休養していた時のことを思い出したはずだ。キングスコーピオンとの戦闘の後、寝台の上でした話。
「……あの時。アルが指摘しなければ、おれは自分の気持ちに気づかなくて良かったのにな」
「まったくだよ。恋をする気持ちに戸惑ったら、いつでも相談に乗るって伝えたのにさ」
「いや、そもそも恋敵に相談はしないだろ」
「そこはさ、乳兄弟ってことで」
それこそ言いづらいだろう。そうかな。
そんな話をして、お互いの顔を見て、笑い合った。
「……リオナ嬢が戻ってきたら、告白するよ。それで気持ちに区切りをつける」
「そうした方が良い。安心して。振られたらぼくが慰めてあげるから」
「いらんし」
またネイサンと笑い合う。
そんな二人を見ていたモニカが、安心したように近づく。
「これであとは、リオナが戻ってくれば万事解決ですわ」
マオゲヌ山が噴火をしたら、今いる場所も安全ではない。すぐに避難すべきだとわかっているが、アルフォンスとネイサンが仲直りしたことによって和やかな雰囲気になっていた。
「っ!」
そんな空気を壊すように、マオゲヌ山の山頂で、小さな噴火が発生した。
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