12.9 十一年前の約束
長めの文章量です。
シャドウルに腕を掴まれているリオナは、たた運ばれるままになっている。鉱物眼は発動したままだ。だから攻撃はできる。しかしシャドウルは高い場所を飛んでいて、夜だから視界が悪い。恐らく落ちたら死んでしまう高さだろう。
補助をしてくれるブライスも、治療をしてくれるアルフォンスもいない。ブライスの無事を確認し、アルフォンスとブライスが仲直りするところを見るまでは死ねなかった。
(……マオゲヌ山の、頂上に向かってる?)
大人ほどの大きさのあるシャドウルは、まっすぐにマオゲヌ山の頂上へ行っているようだ。なぜそんな所へ、と思っていると、頂上付近がぼんやりと明るいことに気づいた。
その明かりにゆっくりと近づいていく。すると、その明かりの正体はライトキャトルだとわかった。
シャドウルは、マオゲヌ山の山頂へリオナを運ぶ。そこには、ササラがいた。
噴火口に下ろされる。ササラがシャドウルに触れると消え、白く光るウィゼライトがドロップした。それを、ササラが拾う。
もう、疑う余地は無い。ササラは、鉱魔を自在に生み出し操れるのだろう。
なぜそんな力を持っているのか。そんな思いでササラを睨む。
「もう、そんな恐い顔をしないでよ。大気中のマインラールは通常に戻しておいたから、ネイサンも今頃は治療されていると思うよ」
「……全部、わかるように説明して」
「えー? なんでー?」
「ふざけないで。どうして、ササラが鉱魔を操れるの」
「なんでだと思う?」
ササラは、まるでリオナをおちょくるように言う。その態度にイラッとしたが、ササラは楽しそうに笑う。まるで、リオナと一緒にいることが嬉しいかのように。
しかしそれはあり得ない。ササラからは、恨まれているはずだ。それなのに、今はその恨みも感じない。
(……この表情。確か、ササラと二人だけでテフィヴィに向かった後にもされた?)
リオナが考えこんでいると、ササラは首にかけていたネックレスを服から出す。それは、リオナがササラに作った、四つ葉に象ったアクアマリン。
(四つ葉……何だろう。思い出せそうなんだけど……)
十一年前の記憶。忘れてしまっていた、何か。
出てきそうで出てこない。思考の整理をするために、リオナはササラに聞く。
「三鉱魔を生み出したのに、どうしてまだそのネックレスを持っているの」
「テフィヴィは海に近い街だよ? 普通に店でアクアマリンは売ってるよ」
「それなら、どうしてわたし達に依頼を出したの」
「えー、それは言ったじゃん。セットの鉱魔だからって」
「? ササラにとって、セットであることが重要なの?」
「そう!」
ササラは、何か期待するような目をリオナに向ける。
(あのときに話していたことの全てが嘘じゃないとしたら……)
どこから嘘で、どれが真実かはわからない。ササラは、リオナとササラのようにセットだからと言っていたはず。
(わたしと、ササラが……はっ!!)
ササラが、四つ葉のネックレスをリオナに見せている。そして、意味不明だと思っていたササラの言葉。
「……一年の幸せを永遠にあげる。そんな言い回ししてたっけ」
「っ! 思い出してくれた!?」
ササラが笑顔でリオナの手を掴んだ。
「えぇと、確かあのときは、四つ葉を見ていたんだっけ。それで四つの葉の形が良いねって言って、四つあるから春夏秋冬だってなって……」
「そう! それで、リオナがあたしに言ってくれたこと!」
ササラが興奮するようにはしゃぐ。同時に、ぐらっと小さな地震が起きた。転びそうになったササラを支える。
「……思い出したけど、今はあのときと状況が違うでしょ? あの頃と同じようにはいられない」
「なんで!? 約束したじゃん!!」
ササラが苛立つ。まるでそんなササラの感情が反映されているかのように、ぐらぐらっと揺れる。そしてふわっとした熱風が当たった。断熱素材の服を着ていなかったら、それだけで火傷をしていたことだろう。服から出ていた顔の部分が、暑い。
「あたし、ずっと待ってたんだから!! リオナが約束してくれたから!!」
「ちょ、ササラ。落ち着いて」
ササラの感情に左右されるように、また揺れた。噴火口の遥か下に、赤い熱が見える。
ササラの感情の起伏が、マオゲヌ山が噴火するかしないかを決めてしまう。
「リオナが、ずっと一緒にいようねって言ってくれたからっ……あたしは、耐えたのにっ!!」
「ササラっ。こっち!!」
コポッと、すぐ近くで水分が動くような音がした。リオナがササラの腕を引いて避けた瞬間、ボッと小さな噴火が起きる。
マグマに照らされたササラは、泣きそうな顔をしていた。体勢を崩したササラを受け止めるような状態になり、ササラはリオナに抱きつくように顔を埋める。
「お父さんとお母さんがあたしを構ってくれなくてっ……あのときのあたしは、リオナが全てだった。だから、リオナがずっと一緒にいようねって言ってくれて、嬉しかったの!」
十一年前。ササラは確かに、ほぼ骨のような体型だった。その理由が、今わかった。
ポンと肩を叩くと、ササラが顔を上げる。
「……ねぇ、ササラ。ササラはわたしに、どうしてほしいの」
「十一年前みたいに、あたしと一緒にいてほしい!」
キラキラとした目でリオナを見てくる。
(……ササラにとっては、わたししかいなかったのかもしれないけど)
あれから十一年経ち、リオナの周辺環境は変わった。ササラだって、変えられるはずだ。
「ねぇ、ササラ。一緒にマオゲヌ山を下りよう。そうすればアルフォンス様とか」
「イ・ヤ! 下に行ったら、リオナはまたあたしから離れちゃうじゃん!」
「ササラとの約束を思い出したし、前みたいに放置しないよ。一緒に遊ぶし、また前みたいに鉱石のこととか、鉱魔のこととか話そうよ」
「……あたしと一緒に、いてくれる?」
「うん、いるよ。ね、だからアルフォンス様達がいる下」
話している途中で、ドンと胸を押された。立ち上がったササラは、後退していく。
「ちょっ、ササラ!? 後ろに行ったらダメ! こっち! こっちに戻って!」
慌ててリオナも立ち上がり、ササラを安全圏へ戻るように言う。しかしササラは、背後の様子を確認してギリギリの縁の所に立つ。
「リオナを一人占めできないんだったら、戻る意味ない。あたしが目の前で死んだら、リオナはずっとあたしのことだけを考えてくれるでしょ?」
「考える! ササラのことだけを考えるから!!」
「えへへ。やった、っ」
「ササラ!!」
気が緩んだのか、ササラが足を踏み外した。すぐに手を伸ばし、掴んだが、体が浮く。
「っくぅ……」
飛び出ていた岩を掴み、落下を防ぐ。しかしササラの手を掴んだままでは、すぐに落下してしまう。
「え、ヤダヤダ! リオナ! 手を離してっ!!」
「っ、一緒に、いるって……約束、したでしょ……」
「っ、リオナ!!」
下から沸き上がる熱風で滑った手が、岩から離れる。
(……あぁ。わたし、ここで死ぬんだな)
せめて、ササラとの約束を果たそう。
そう思ったリオナがササラの方を向く。ササラは、笑顔だった。
「……えっ!? ササラっ!?」
ササラが出したのだろう。シャドウルが、リオナの腕を掴んで飛んでいる。
ササラとの距離が、どんどん離れていく。とっさに伸ばした手は、もう届かない。
「思い出してくれて、ありがとう。リオナ、バイバイ」
「ササラ--っ!!」
まるでまた会えるかのように笑顔で手を振るササラ。リオナがどれだけ暴れても、シャドウルは下りてくれなかった。
第十二話、終了です。
次は第十三話という名の、エピローグです。
完結まであと少し。
今までありがとうございます。あともう少しだけ、お付き合いいただければ幸いです。




