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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第十二話 悪意の答え

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94/100

12.8 三鉱魔改②

 長めの文章量です。

 一部、流血表現があります。

 薄目で、スルッと読んでいただければ、きっと大丈夫。たぶん。


「えっ、なんで……」

 代わりに地面に横たわっていたのは、オトコルと金髪の男性。かつてモニカにプロポーズをしていた人だ。

 アルフォンスが、二人の呼吸を確認する。

「……駄目だ。すでに死んでいる。死んだ人間は、治療できない」

「えっ?? なんで?? わたし、ウォープランカーとウォーチャーを倒したのに」

 オトコルと金髪の男性は死んでいる。それはすなわち。

「わたし、が、殺し、た……?」

「それは違う!!」

 突きつけられた事実にリオナが発狂しそうになったとき、アルフォンスが力強く抱きしめてくれた。そして気持ちを落ち着けるように、背中を優しく擦ってくれる。

「リオナは、三鉱魔の内の二体を討伐しただけだ。人を殺したわけじゃない」

「でもっ……二人は、こうしてっ」

 衝動的にアルフォンスを突き飛ばそうとしてしまったが、アルフォンスはしっかりと抱きしめてくれている。しかしそれが逆に、発散できない衝動の行き場を無くす。

 ぽかぽかとアルフォンスの背中を、ただ衝動的に叩く。その間アルフォンスは何も言わず、リオナの気が済むまで待ってくれていた。

 リオナの背中を、アルフォンスは優しく、ただ優しく、トントンと叩く。次第にリオナの気持ちが落ち着いていき、顔を上げられるようになった。

「……ありがとうございます、アルフォンス様。ごめんなさい。何度も背中を叩いてしまって」

「気にしないで。あれから、それなりに体を鍛えたんだ。全然痛くなかったよ」

「アルフォンス様……」

 リオナとアルフォンスが見つめ合う。

 そんな二人を見ていたモニカが、わざとらしく咳払いした。

「リオナ、アルフォンス様。今は残りのコープスのことを考えないといけませんわ」

 モニカに言われ、リオナは何も攻撃をしかけてこないコープスを見る。

 コープスは、本来ウォープランカーやウォーチャーに指示を出すだけだ。だから二体がいなくなったら姿を消す。

 しかし今、臙脂色の短いローブを着ているコープスは、ただ真っ直ぐにリオナを見つめていた。

「……あの、一つ聞いても良いですか」

「どうしたの、改まって」

「あの、ブライス様と別れてから、姿を見かけましたか?」

「見てないね。ちょっと意見が合わなくて喧嘩しちゃってからは」

「モニカは? モニカは見ましたか」

「いいえ。わたくしも見ていませんわ」

 二人の話を聞き、リオナは恐る恐るという様子でコープスを指差す。

「……ずっとこちらを見ているコープス、もしかして、ブライス様ではないでしょうか」

「えっ!?」

 リオナの指摘に、アルフォンスが驚いたようにコープスを見た。

「えっ、そんな……でも、なんで??」

「アルフォンス様には申し訳ありませんけれど、その可能性は否めませんわ。目の前で、同じような事象を見ましたもの」

 モニカが、リオナを気遣って言葉を選んでくれている。

「消息が途絶えたブライス卿。現れた、臙脂色の短いローブを着たコープス。これは、そういうことではないでしょうか」

「でも、どうしてブライス様が」

「……アルフォンス様。失礼ですが、最後にブライス卿と何を話していたのかお聞きしても?」

 モニカに問われ、アルフォンスは力を入れすぎて震えてしまうほど拳を握っている。

「アルフォンス様。力を抜いて下さい。唇が切れてしまいます」

 あの日の口論を後悔するように、アルフォンスが強く唇を噛んでいた。リオナがそっと手を添えると、まるで懇願するようにアルフォンスが手を重ねてくる。

「……リオナ。あの日の口論の内容を、ぼくが勝手に言うわけにはいかない。あのコープスがネイサンだと仮定して、人間に戻った時に死なないような攻撃ってできないかな」

 アルフォンスは、今にも泣きそうな顔をしている。それもそうだろう。もしあの日の口論の結果からブライスが鉱魔になると決めたのなら、後悔してもしきれないだろう。

 リオナはアルフォンスの両手をしっかりと握り、モニカを見る。

「モニカ。念のためにわたしが攻撃する間、注意を引きつけてもらえますか」

「え、えぇ。それはそうするけれど……」

「何回か、試していたことがあるんです。その戦い方をすれば、きっと、ブライス様を取り戻せます」

 拳を握り肩を落として落ちこんでいるアルフォンスの手をもう一度握り、モニカと一緒に臙脂色の短いローブを着たコープスの元へ行く。

挑発(プロヴォケーション)

鉱物眼(ミネラルアイ)

 できればやりたくない、静かな戦いが始まる。

 モニカに注意を引きつけてもらうと、コープスはリオナから視線を外す。しかしそれは一瞬で、またリオナの方を見た。

 何度か繰り返したが、コープスからの攻撃はない。リオナは覚悟を決めて、多方晶系と表示されているコープスと向き合う。

 五十七の面を持つ多方晶系の鉱魔は、絶対に討伐しなければいけない相手だと厄介だ。しかし今は逆に、コープスが多方晶系で良かったと思える。

(五十七の面の、端。塊を壊しても、体に影響が残らないように)

 手の指先の辺りに該当する塊を叩く。それだけで十箇所の小さな塊を壊せた。しかしそれだけではまだコープスは弱らず、リオナをじっと見続けている。

 そしてあろうことか、まるで心臓を殴れと言わんばかりに膝をついて胸元を晒す。

「そんな、そこはできません」

 イヤイヤと首を振り、コープスの希望を却下する。それでも胸元をリオナに近づけてくるコープスの力を削がなければ、ブライスを取り戻せない。

「すみません。ここを、叩きます」

 攻撃する箇所を教えるように、コープスの太ももを指差す。攻撃しやすくするためか、コープスは立ち上がって右足を差し出してきた。

「ごめんなさいっ」

 ポコッと、コープスの右の太ももを叩く。すると、ぐらっと大きく体が傾いた。

 リオナはコープスの背後へ回る。

「力を削ぎました。わたしではやりすぎてしまうので、モニカ。お願いします」

「わかったわ。突進(チャージダッシュ)

 盾を構えたモニカが、独自の技を出す。しかしそれに勢いはなく、優しく触れる程度の攻撃だ。

 リオナが壁となり繰り出されたモニカの攻撃によって、コープスは倒れた。そして、まるで靄が晴れるようにブライスの姿が露わになっていく。

「アルフォンス様! お願いします!」

 横に寝かせたブライスは、指先と太ももから血が出ていた。思わず顔を背けそうになったが、この瞬間を待っていたアルフォンスが全力で治療する。

「白魔術師アルフォンス・アドルフ・アディントンが命じる! 世界に満ちるマインラールよ! ネイサンの怪我を治療しろ!」

 ブライスの周囲に、うっすらと光の粒のようなものが現れる。しかしそれはすぐに消えてしまう。

「アルフォンス様っ」

「わかってる! だけど、いつもみたいに力がうまく入らないんだ。まるで、何かに阻害されているみたいな」

 一刻も早くブライスを治療したい。そう思うのはアルフォンスも同じだろう。しかし何かしらの原因があり、治療できていない。

 治療専門である白魔術師のアルフォンスがすぐにブライスを元気にしてくれると思って、特に傷口を押さえていなかった。だからすぐに、容量箱に手を伸ばす。

 取り出したのは、以前布靴を作った大きめの布。それを止血できる位置に強く結びつける。

 リオナが止血作業をしている間も、アルフォンスが魔法をかけ続けていた。しかしやはり、思うようにはいかないようだ。

(どうすればっ……)

 一刻も早くブライスを治療しなくてはいけない中、気の抜けるような鳴き声が真下の地中から聞こえてくる。

「ゴロスケホッホ」

「えっ」

「リオナ!!」

 その鳴き声はシャドウルだと認識した瞬間、リオナはシャドウルに攫われた。




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