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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第十二話 悪意の答え

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12.7 三鉱魔改①


 ニュムイガーが現れ、マグマの化け物も現れ、テフィヴィの人達は皆混乱していた。

「慌てないで下さいまし!」

「老人や子供など、力の弱い方から船に乗ってもらいます! その後健康な人に乗ってもらうので、順番を守って下さい!」

 東門から離れ、ルミー海に近い南門に向かう。そこにマグマの化け物はおらず、人々は混乱しながらも海に止められている船へ向かっていた。

 マグマの化け物が出てから数時間。周囲はすっかり暗くなり、噴水広場から離れると篝火の明かりも届かなくなった。

 リオナやモニカと一緒に、ギルド職員らも街の人達の誘導を手伝っている。

(……うん。貴族様も、諍いを起こさないで移動してくれているみたい)

 アルフォンスがハルトレーベン卿に話してくれたのだろう。我先にと人の波をかき分けていきそうな貴族らも、誘導に従っている。

 これなら混乱なく避難ができるだろうと思っていると。

 地震が発生した。

「崩れる可能性のある門や塀から離れて下さい! 落ち着いて、広い道へ!」

 リオナの注意を聞いたギルド職員らが、同じ言葉を周囲に伝えていく。そのお陰で、街の人々が混乱することなく避難できている。


 避難開始から七日。

 ノキアの人々は冒険者らが警護をしながらコンコアドラン森林を抜け、ホロロ山を迂回し、船へ乗った。その間にロンガースの人々も避難を完了させる。オルハルガルにいた人々も、レヴテナ地下道を通らずに避難できたようだ。

 あれから地震は何度も発生したが、マグマの化け物は遭遇していない。発生の原理はわかっていないが、このまま何も起きなければいいと思っていた。

 誰も街中に残っていないことを確認する。リオナがアルフォンスとモニカとテフィヴィを出ようとしたとき。ササラを発見した。

「ササラっ。まだ避難していなかったの!? 早く船に、あ、ちょっと!」

 誰もいなくなったテフィヴィの噴水広場に、ササラが現れた。上機嫌なように笑っている。リオナの忠告なんて無視して、タタッと走って行く。

 思わず追いかけると、一瞬だけ物陰に隠れて見えなくなった。次に姿を見たときには。

「はっ? えぇ?? どういうこと??」

 ササラはライトキャトルに跨がって走り去っていった。

「リオナ、どうしましたの?」

「えっと……ササラがいたんですけど……」

 リオナに追いついたモニカとアルフォンスに、ササラの状況を伝えた。

「リオナに危害を加えるかもしれないけど、あの子にも避難してもらわないと」

「そうですね。追いましょう」

 ササラは西門の方角へ走っていった。ライトキャトルは突進して攻撃してくる。そのときの速度は、それほど速くない。ずっしりとした体格だから迫力があるのだ。

 ササラを追う。ライトキャトルらしき後ろ姿が、西門を抜けた。その先にはヴァゼテラ平原、マオゲヌ沼、そしてマオゲヌ山がある。

 ライトキャトルが通ったと思われる跡が、ヴァゼテラ平原に残っていた。それを追いかけて行くと、マオゲヌ沼の前でササラに追いつく。

「ササラ! 早く避難しないと!」

「まだもう少し、大丈夫」

「は? 何を言っているの? 噴火の時機なんて誰もわかるわけないじゃない」

 ニタリと笑うと、ササラは鞄から何かを取り出した。

「リオナ、あたしからの依頼受けてくれてありがと。これは、あたしからのお礼」

 ササラが、持っていた物を全てマオゲヌ沼へ投げる。

 三鉱魔を討伐してから、アクアマリン以外は納品していた。それを思い出させるということは、つまり。

「? 何も、来ない?」

 身構えたが、ほとんど底が見えそうなほど水位が下がっていたマオゲヌ沼からは何も出てこない。何がしたかったのかと思っていたら、リオナのすぐ横を何かが通った。

 マオゲヌ沼があった地面に刺さったのは、矢尻がマグマで溶けた矢。

「三鉱、魔?」

 振り返った先にいたのは、マオゲヌ沼には出現しないはずの三鉱魔だ。三鉱魔は、リオナ達の背後から現れた。

「えっ?? なんで??」

「リオナ。すぐに倒そう」

「は、はい」

 知識外のことが起きて混乱していたが、リオナはアルフォンスの呼びかけで戦闘態勢になる。

「一年の幸せを永遠にあげるわ!」

「は? なにを……」

「リオナっ! 今は三鉱魔に集中して!」

 ライトキャトルに乗ったササラが意味不明なことを言ったが、アルフォンスの言う通り、今は三鉱魔との戦いを終わらせないといけない。

 本来出現しない場所に湧いたのだ。知識通りにはいかないだろうと身構える。

(……? なにか、おかしい)

 本来は磁力で体を浮かせているウォープランカーは、陽動要員として動き回っているが、自分の足で走っている。ウォーチャーは、マグマを纏わせた矢を放っていた。

 その二体の注意を、モニカが引いてくれている。一瞬だけ挑発に乗るが、二体はすぐにリオナへ照準を合わせていた。まるで、リオナだけが標的だというように。

 そんな中、臙脂色の短いローブを着ているコープスは遠くに離れず、リオナを見ている。

 リオナはマグマの矢の攻撃を避けてはいない。マグマの矢が、リオナに当たらないギリギリの所へ飛んでくるのだ。

「鉱物眼!」

 覚えた違和感を確かめるため、三鉱魔を見る。しかし表示されているのは、コープスとウォーチャーが多方晶系、ウォープランカーが等軸晶系。知識通りだ。

「リオナ? どうしたの?」

「あ、いえ……こう、説明できない違和感があって」

「本来の発生場所ではない所に湧いたんだから、今さらじゃない?」

「そ、そうですよね。すぐ、倒します」

 アルフォンスと話してしまった間も、モニカが適宜注意を引いてくれていた。リオナはモニカに礼を言って、ウォープランカーとウォーチャーの鉱石を殴る。

 落ちた鉱石は、初めから赤黒く染まっていた。そしてマグネタイトとアクアマリンだったと思われる鉱石は、塵となって消える。

 しかし鉱石を殴ったのに、ウォープランカーとウォーチャーはばらばらにならなかった。



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