12.5 鉱魔?
一部、グロいかもしれない表現があります。
薄目で、スルッと流してもらえれば、きっと大丈夫だと思います。たぶん。
ギルドへ向かっていた黎明の疾風団は、近づくにつれ違和感を覚えた。東門から冒険者と思われる人物が何人も逃げてきたり、腰を抜かしている人物の服が溶けたようになっていたり。火傷しているかのような赤みに気づいたブライスが、アルフォンスの許可を得て治療する。
「一体、何があったんだ」
「わからねえっ。鉱魔のような、鉱魔でないような化け物が、街を襲撃してきたんだ!!」
ブライスの治療が終わって動けるようになると、その冒険者は一目散に噴水広場の方へ逃げていった。
尋常ではない。黎明の疾風団は互いに見合うと頷き合い、東門へ駆けていく。そこにいたのは。
「何かしら、あの化け物みたいなやつは」
原型はデューオルチョインと思われる鉱魔がいた。それはまるでマグマを纏っているかのように、全身がどろどろに溶けている。守護石が効果を発揮しているのか、東門から内側には入ってこないようだ。
その化け物へ向けて、ギルド職員が詠唱を始める。その内容を聞いて、リオナが慌てて止めに走った。
「ダメです!! マグマに水はっ!!」
リオナがギルド職員にたどり着く前に、水魔法が放たれてしまった。それはマグマの化け物に着弾。その、瞬間。
「っ……」
水蒸気が爆発するように化け物が弾けた。爆風によって東門は大破し、近くの建物の傍にいた人達は瓦礫の下敷きになってしまっている。
「アルフォンス様っ! ブライス様っ! 皆さんの治療をお願いしますっ!! モニカっ、協力をお願いしますっ」
一体目の化け物は爆散した。しかし東門が大破した影響か、先程よりも内側にマグマの化け物が近づいてきている。
「鉱物眼!」
化け物の正体を探るため見ると、デューオルチョインと同じように単斜晶系と出た。
マグマを纏ったデューオルチョインは、まるで双剣を構えるかのような体勢になる。
「男のデューオルチョインですっ!! 男性は即時撤退、女性はその場から動かないで下さい!!」
男のデューオルチョインは、冒険者が男性であれば双剣で暴れ狂う。女性であれば、ずっと背後に立ち続ける。
「挑発!!」
「モニカっ。ありがとうございますっ」
一人の女性の背後に立ったマグマ状のデューオルチョインを、モニカが引きつける。リオナはすぐに討伐しなければと、いつものように鉱物眼で見えていた腰の辺りの鉱石を殴った。
「リオナ! ダメっ!!」
「ぐっぅ」
モニカの叫ぶような声と、リオナのうめき声が重なった。
リオナの攻撃によってマグマ状のデューオルチョインはばらばらになって消える。しかしそれを殴ったリオナの手も、マグマに焼かれた。ジュッと嫌な音がし、燃える袖をとっさに破り捨てる。
「リオナっっ!!」
切羽詰まったアルフォンスの声が聞こえた。そのことによって、リオナは自分の右手がないことに気づく。
(え、なんで? 手首から先がないの??)
一瞬で焼かれた。だから痛みはない。それが余計に、リオナを混乱させた。
抱きしめるように、アルフォンスがリオナの右腕を持つ。
「白魔術師アルフォンス・アドルフ・アディントンが命じる! 世界に満ちるマインラールよっ、リオナの右手を元に戻せっ!」
アルフォンスに包み込まれるような温もりを感じる。しかし、リオナの右手は再生されない。
アルフォンスがさらにリオナへ体を密着させ、再び詠唱する。
「白魔術師アルフォンス・アドルフ・アディントンが命じる!! 世界に満ちるマインラールよ! リオナの右手を元に戻せっ!!」
アルフォンスの激情のような熱がリオナを覆う。
必死な声、密着している背中、掴まれている右腕。リオナの全身から、右手に熱が集中していく。
細かい光の粒子のようなものが見えたかと思うと、スーッとリオナの右手が再生した。
「良かったっ、リオナっ」
ガバッと、正面から強く抱きしめられた。右手が再生した衝撃と、アルフォンスに抱きしめられている喜びで、何も言えなくなる。
「リオナ、アルフォンス様。こちらへ来てくださいまし」
モニカに呼ばれ、アルフォンスがパッと離れる。
「ごごごご、ごめんっ! ええと、これはっ」
「アルフォンス様、謝らないでください。わたし、アルフォンス様に抱きしめられて安心したんです。アルフォンス様だったから、嬉しかったんです」
守護石の効果が出ているらしく、瓦礫ばかりの東門より少し内側くらいでマグマ状のデューオルチョインが止まっている。周囲は、未だ惨状から回復していない。
アルフォンスを見つめる。リオナにはアルフォンスしか見えていなかった。
「わたしは、アルフォンス様が好きです!」
「リオナ……嬉しいよ。ありがとう。ちょっと、待っててもらえるかな」
返事を保留にされたことでリオナは冷静になった。
アルフォンスが、ブライスの元へ行っている。何か、口論をしているようだ。仲の良い二人が喧嘩をするなんて、と心配になったリオナが近づく。
「ネイサン! 待てっ、一人で行くなっ!」
呼び止めるアルフォンスの声を無視し、ブライスは東門から離れていった。
「アルフォンス様? ブライス様はどちらへ行かれたのでしょうか」
「……ネイサンは、他の門の様子を見てくるって」
「それなら、わたし達も行かないと」
アルフォンスが、まるで自分を責めるように唇を噛む。
アルフォンスを労るように手に触れると、握られた拳は力を入れすぎて爪が食い込んでしまっていた。それを解いていると、アルフォンスがリオナを見る。
「……ごめん、リオナ。リオナの気持ちに返事をするのは、もう少し後で良いかな」
「も、もちろんですっ。というか、すみません。場所も弁えず……」
モニカにも見られていたことだろう。そして、いなくなってしまったブライスにも。周囲にいた人々にだって、リオナの告白は目撃されていただろう。
今さらになって羞恥心に襲われたリオナは、火照った頬を両手で仰ぐ。
アルフォンスが東門の方を見た。
「とりあえずは、あいつらの侵入を阻めているみたいだ。ギルドに行こう」
「は、はい……」
歩き出したリオナとアルフォンス。モニカは、ブライスを追うべきかどうか悩んでいるようだ。
「ハルトレーベン嬢も、一緒に来てほしい。冒険者として、対策を話し合わないと」
「わ、わかりましたわ」
リオナは、アルフォンスの言い方に不安が募る。まるで、ブライスが冒険者として離脱したかのような言い方に聞こえた。




