表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第十二話 悪意の答え

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/100

12.4 新月の夜の襲撃

 長めの文章量です。


 リオナがマオゲヌ山の噴火可能性を伝えてから二十日。まだ調査は続けられているが、明確な答えは見つかっていない。

 噴火する可能性を考えて、黎明の疾風団はテフィヴィで待機していた。そのため、何かあったときにすぐ対応できるように、極力冒険者としての仕事を受けていない。

 リオナは研磨師の卵として技術を磨き、アルフォンスは白魔術師として街の至る所を修繕し、ブライスは議会に参加して情報収集、モニカは一日に何度もハルトレーベン家の関係者と話している。

 未だルイ島の川や沼の水位は下がったままで、改善の兆しもない。しかし周知されてから二十日。街の人達も、リオナですら、噴火はないかもしれないと思い始めていた。

「今日は、ギルドへ行ってクエストを受けましょうか」

「そうだね。でも、受けるクエストは選ばないと」

 昼間は、四人それぞれが多くの人々に注目されている状態だ。だからギルドへ行くのは、ある程度人が少なくなっている夕方以降。そして受けるクエストも、観戦者がいても問題が無さそうなものしか選べない。

「需要があるのは、良いことだと思いますけれど……」

「街の人達も、おれ達に注目することで噴火の恐怖から目をそらしているのかもね」

「……噴火。しなければ、それにこしたことはないんですけど」

「そうだね。一応、他の安全と思われる島にも通達しているよ」

 噴火の可能性が高まったら、島民が全て他の島へ避難することになっていた。ルミー海には何隻か船が停泊しいるが、全員は乗れない可能性がある。まだ確実ではない状態で、生まれ育ったルイ島を出る人はいない。

 黎明の疾風団が宿の部屋を出る。入口付近で警護していた警吏と、宿内で周辺を警戒していた警吏が護衛につく。

 新月の夜は、月が見えないから暗いことが多い。しかしテフィヴィはノキア以上に篝火が焚かれ、噴水広場に至っては昼間のように明るい。

 そこへ黎明の疾風団が行けば、自ずと注目される。

「黎明の疾風団だ!!」

 夜にも関わらず、噴水広場には人がいたようだ。誰かの声を変わりきりに、黎明の疾風団に街の人々が集まっていく。

「すみません、冒険者ギルドへ行くので、通してもらえませんか」

 ぎゅうぎゅうと押し寄せる人達に声をかけていると、一瞬だけ血のにおいがした。誰かケガをしてしまったのかと周囲を見渡した瞬間、噴水広場を横切るように何かが上空を通っていく。

 まるでリオナにその姿を見せるように、人々の波が割れた。その先にいたのは、黒と茶色の縞模様が特徴の、虎。それも、親子二頭で出現している。

「えっ……ニュムイガー!?」

 リオナが驚くと同時に、集まっていた人々が騒ぎ出す。中には腰を抜かしてしまう人もいて、噴水広場は混乱状態に陥った。

「ニュムイガーは爪と牙で攻撃します! 街の皆さんは、どこか安全な場所へ!!」

「ぼくとネイサンで誘導する! リオナとハルトレーベン嬢は、戦闘態勢を!」

「わかりました! 気をつけて下さい!」

 リオナが戦うため、薄いピンクのローブを脱ぎ捨てる。

 黎明の疾風団は冒険者として、鉱魔を倒さないといけない。だからこそすぐに動くが、混乱した街の人の中には、すぐ近くで観戦できると興奮している人もいた。

 そんな街の人達へ、ニュムイガーの爪が迫る。

挑発(プロヴォケーション)!」

鉱物眼(ミネラルアイ)!」

 モニカがニュムイガー親子の注意を引く。その間にリオナは、鉱物眼でニュムイガーを見る。斜方晶系と表示され、弱点の鉱石は背骨の辺りに発見した。

「行きます!」

 先に親のニュムイガーを討伐してしまおうと、リオナが駆け寄る。モニカが挑発で注意を引いているはずだ。それなのに、子供のニュムイガーがまるでじゃれつくようにリオナに迫る。

 子供のニュムイガーを討伐してしまうかと構えると、親のニュムイガーがリオナに飛びつく。その勢いで倒された。ダンッと胸元に足を置かれ、息が詰まる。

「挑発!!」

 首元に噛みつかれそうになったとき、モニカがまた注意を引いてくれた。その隙を逃さず、リオナは立ち上がって背骨付近の鉱石を殴る。

 親のニュムイガーは分解されるようにばらばらになり、それを見ていた子供のニュムイガーは戸惑っているようだった。親を殺されたと怒り出す前に、子供のニュムイガーの鉱石も殴る。

 突然現れたニュムイガーの親子は、二頭ともばらばらになって消えた。

「や、やった!」「さすがだ!」「黎明の疾風団、万歳!!」

 アルフォンスやブライスに誘導されながらも観戦していた街の人々が、一斉に声を上げた。その熱は、まだまだ冷めない。

「リオナ!!」

 アルフォンスが、リオナの元へ全速力で駆けてくる。そしてすぐに自分が着ていた緑のローブをリオナに被せた。

「あ、あの、アルフォンス様?」

「見ていないし、見られていないから!」

「何を……」

 アルフォンスは顔を真っ赤にしていた。その赤みは、篝火で照らされているからではないだろう。

 何をそんなに、と思いながらリオナが緑のローブの下を確認する。

「っ!!」

 瞬間、リオナも顔を真っ赤にしてその場に座り込んだ。

 親のニュムイガーがリオナの胸元に足を置いたときに、爪が引っ掛かったのだろう。破れていた手の平大の布が、ペラッと、裏地を見せた。

 今裏地が見えたのだから、アルフォンスが言うように胸を見られてはいないだろう。しかし破れていたという事実が、リオナの羞恥心を煽る。

「リオナ。服を直してから、怪我がないか確認するから」

「は、はい……お願いします……」

 アルフォンスがリオナの破れてしまった服を直すため、緑のローブの下へ手を入れる。ローブを上げれば素早くできるだろうが、胸元が破れているのだ。そうもいかない。

 アルフォンスは手を震わせながらリオナの服の裾を掴み、魔法をかける。

「白魔術師アルフォンス・アドルフ・アディントンが命じる。世界に満ちるマインラールよ、リオナの服を直せ」

 アルフォンスの詠唱が終わってから、リオナはゆっくりと緑のローブを脱ぐ。アルフォンスの魔法はいつも完璧で、絶対に修繕されているのはわかっている。しかし破れた箇所が箇所だ。素早く脱げない。

「アルフォンス様、ありがとうございます」

「リオナに怪我がないかどうか確認するよ」

「はい。お願いします」

 リオナがアルフォンスにケガの有無を確認されている間に、モニカが薄いピンクのローブを持ってきてくれた。それを受け取ると、アルフォンスも確認が終了したようで、離れる。

「良かった。リオナにケガはないみたいだ」

「ご心配をおかけしました」

 安心したような笑みを見せるアルフォンスを見て、リオナは照れる。

 そんな二人を見守っているかのような街の人達の視界を遮るように、ブライスとモニカが立つ。

「リオナ。ギルドへ報告しましょう」

「そうですね」

 守護石は働いていないのか。そうだとしたら、もっと鉱魔が出現している可能性がある。

 ニュムイガーは、新月の夜に血のにおいがする所に湧く。リオナは街の人達に今日のような新月の夜は血を流すようなケガをしないようにと注意をし、ギルドへ向かった。



・-・-・-・-・


(なんでっ、なんでっ!、なんでっ!!)

 噴水広場での騒ぎを路地裏から見ていたササラは、自分の思惑通りに進まないことに苛立っていた。何度も地面を蹴り、どうにか苛立ちを発散させようとする。

(どうして、リオナばっかり!!)

 一揆が起こったあの日まで、ササラはリオナと過ごす時間が多かった。

 あの日以降、リオナは子供の頃からの夢を叶えるために動いている。

(なんで、あたしばっかりつらい思いをしないといけないの!!)

 ササラはブブラバーバに引き取られるような形で連れてかれた。そして待っていたのは、苦しい地獄の日々。全身火傷を負ってまで得た力は、使えるようになったが完璧ではない。

 リオナを狙うようにしているのに、モニカの技の前では標的が定まらなくなってしまう。

 リオナが恥をかけば良い。そう思って行動することは全て、リオナの幸せに繋がる。

(どうして、リオナばっかり幸せになるの!! リオナは、あたしを裏切ったのに!!)

 もっとリオナを苦しめたい。ササラの思いは、それだけだった。


・-・-・-・-・



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ