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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第十二話 悪意の答え

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87/100

12.1 それぞれの役回り

 長めの文章量です。


 リオナはオルハルガルとロンガースの守護石を研磨する役が与えられた。議会からの伝達事項をブライスから聞けるまでの間、アルフォンスは白魔術師としてテフィヴィの修繕箇所を回っている。モニカは、リオナと一緒に行動していた。

 そう。あれだけ街の人々から憎しみの念をぶつけられていたが、その中心人物だったアルフォンスですら縄で拘束されていなかった。リオナの戦闘技術や研磨師技術が、憎しみを少しばかり忘れさせたのかもしれない。しかしそれ以上に、何か異常事態があったのだと感じさせてしまったことが、黎明の疾風団が拘束されていなくても抗議されない理由だろう。

「モニカ。ギルドの方が、馬車を手配してくれたそうです」

「わかりましたわ」

 リオナとモニカは馬車に乗り込み、ロンガースへ向かった。後続の乗合馬車には、リオナの技術を見たいという面々が数台に分けて乗っている。その中に、ササラの姿もあった。

(……もしかしたらササラが何かしかけてくるかもしれない)

 鉱魔が出たらモニカに挑発してもらい、リオナが倒して、と何が起きても対処できるように頭の中で想像する。モニカには、ササラが乗合馬車に乗っていたことは伝達済みだ。

「ねぇ、リオナ。聞いても良いかしら」

「はい。なんでしょう?」

「議会場で言っていたことなのだけれど、自然の中の水分量が決まっているというのは、どういうことなのかしら」

「あぁ、それですね」

 リオナはジェイコブから聞いた話を交えて水分率のことを話す。

「大地が乾燥すると、雨が降ります。その雨は地中へ染みこみ、大地を潤します。大地を潤した水分は地下深くのマグマに熱せられ、蒸発して、また雨が降ります」

「それが水分率ということなのね」

「はい。ただ周期はわかっていないんですけど、マグマの熱が強すぎる時機があるそうです。その場合、地上にある水分--川や沼などの水分がいつも以上に吸収されてしまうんです」

「マグマの熱が強すぎるということは、つまり……」

 モニカが言葉の先をつぐむ。マオゲヌ山が噴火する可能性があるとギルド職員にも伝えたのは、ついさっきだ。リリに可能性の話をし、その上で職員には知っていてもらおうという話になった。はっきりとしたことがまだわかっていないため、まだ一般には知られていない。

 馬車の中が重たい雰囲気になってしまったが、ロンガースに到着した。すぐに冒険者ギルドへ向かう。

研磨(グラインドポリッシュ)。カボション・カット、オーバル」

 リオナの技術を見たい人達が、観光気分で守護石の周囲に集まっていた。大勢からの注目を集めながら行った研磨は、何ごともなく終了。ロンガースの守護石はどこにも傷がなかった。楕円形の山型に研磨された守護石(キャッツアイ)は、見事な光の帯が中央を縦断している。

「リリさん……じゃなかった。ロロさん。これでロンガースの守護石は研磨終了です」

「お疲れ様でした。本当に一人でやってしまうのですね」

 感心しているようなロロが、リオナに内緒話をするように顔を近づけてくる。

「この後、オルハルガルへ向かうと姉より聞いています。この方々はどうしましょう?」

 ギルド職員には、早馬が出されてマオゲヌ山噴火の可能性が伝えられている。しかしまだ正式な調査ができていないため、観光している一般の人の行動を止められない。

「えーと、この場所での作業は終わりました。わたしは移動しますが、皆さんはご自由にどうぞ」

 リオナが声をかけると、案の定、次はオルハルガルだなという声が上がった。そして集まった面々の中にはノキアまで見に行った人もいるらしく、全て見届けるぞと息巻く猛者もいる。

 この後のことを心配しながら冒険者ギルドへ戻ると、テフィヴィにいるはずのリリがいた。

「姉さん! どうしたんですか」

「ちょっとリオナさんの様子を窺いに」

 ちょいちょいと手招きされ、リオナがリリに近づく。先程のロロのように、内緒話をするかのような顔の近さでリリが言う。

「レヴテナ地下道は、一般の人が通れるようなところではありません。なので、リオナさんのご協力を仰ぎたいのですが」

「わたしにできることだったら」

 リリから、リオナの後を追う集団の人数を減らす策を聞く。容量箱の中身を確認し、十人までなら対応可能だと伝えた。

 頷いたリリは、冒険者ギルド内でリオナの次の活動を待っている人達に告げる。

「黎明の疾風団の歴覧行程に参加してくださった皆様方。これより、リオナさんが十人の方に眼鏡を贈呈致します」

「なんだと!?」「あのお嬢さんがしているやつか」「ずっと気になっていたんだよな」「儂がもらう!」「誰がもらえるんだ」

 わあわあとリリの周囲に人が集まる。もみくちゃにされないのは、さすがテフィヴィのギルド長ということか。

「但し! 眼鏡を受け取った方は、オルハルガルへは同行できません。それでも良いと言う方は、リオナさんから話を聞いて下さい」

 リリに見られ、合図を受け取ったリオナはモニカの眼鏡に手を向けながら話す。

「この眼鏡は、見え方が悪い方にだけお作りします。目が良い方は、体調が悪くなってしまう可能性がありますのでお控えください」

 リオナからの説明が終わると、リリが素早く集団を整列させる。そして何種類かの紙を用意し、そこに大きさの違う文字を書いた。モニカの裸眼状態を基準に、見え方検査が始まる。


「……それでは、あなたが最後の方ですね」

 ロンガースの冒険者ギルドで始まった、見え方検査。リオナの活動を追う面々が全員整列したが、検査の結果、七人に眼鏡を作ることになった。その七人は、ホクホクとした顔をしてギルドを去って行く。

 七人減ったが、まだ二十人近くいる。この人数を気にしながらレヴテナ地下道は進めない。

 どうしようかと思っていると、チャラッと金属がぶつかるような音がした。

「ねぇ、リオナ。困っているなら助けてあげようか」

「……何をする気?」

 応戦体勢を取ったリオナを見てにやりと笑ったササラは、リリに自分の考えを伝えた。

 ササラから話を聞いたリリが、リオナに聞く。

「リオナさん、残っている方々に装飾品を作るって聞いたけど、大丈夫かしら」

「へっ……あ、はい。ただ材料は持ち合わせていないので、材料を店から買って調達して下さる方限定です。あと、わたしはまだ修行不足でできないものもあります。それでも良ければ」

 リオナから話を聞いたリリが、眼鏡を作ってもらえなかった面々へ伝える。その瞬間、ぱっと人々が散り散りになっていく。

 そんな人達を見ていたら、モニカがリオナの前へ出た。リオナがモニカの手を引き、後ろへ下がってもらう。

 ササラが笑っている。

「ネックレスを作ってよ」

「材料は?」

「持ってるでしょ? 三鉱魔の、アクアマリン」

 そう言いながら、ササラは持っていた鞄の中から紐を取り出した。それを受け取る前にリリに相談する。依頼を受けたときにその場にいたということで、ササラが依頼者だと知っていた。納品をする前の細工に許可が出る。

「……どんな形にするの」

「四つ葉の形にして。台座は、紐を取り込む感じで」

「……了解」

 ササラから紐を受け取ったリオナは、容量箱からアクアマリンを取る。そして注文通り四つ葉の形に研磨し、紐を四つ葉の間に沿わせるような形で台座にした。紐との均整を調整し、ササラに渡す。

「これでいい?」

「他に何か言うことないの?」

「は? 何を……」

 突然意味不明なことを言い出したササラは、ふてくされるような顔をしてリオナの前から壁際に移動した。

(……なんなの、本当に)

 不機嫌な様子のササラを見ていると、モニカから次の人が来たと教えてもらう。

 その後リオナは材料を持ってきた人の注文に応える形で、今の自分ができる範囲で装飾品を作った。

 時間は夜になり、今夜はギルドと提携している宿に一晩泊まることになっている。

 二十人以上いた面々は、皆満足そうな顔をして冒険者ギルドを出ていく。ただ一人、ササラを除いて。

 モニカと一緒に、まだ頬を膨らましていたササラの元へ行く。

「ササラは帰らないの?」

「別に、リオナにはあたしの行動なんて関係ないでしょ」

「ないけど。……思いつきとは言え、修行になった。装飾品作りの提案をしてくれてありがとう」

 言うだけ言って、リオナはモニカと一緒に冒険者ギルドを出る。


 リオナとしては、結果論から礼を述べた。例え仲違いしているような相手でも、人として常識的な行動をすべきだと思ったからだ。

 しかし、ササラはそんなことを求めていない。

「……なんで、思い出してくれないの」

 呟くような声は、まるでササラが泣いているかのようだった。




 第十二話、始まりました。

 エピローグまで終わっているので、今日は十分ごとに更新されていきます!

 よろしくお願いします。

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