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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第十一話 悪意は成功への道しるべ

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11.6 テフィヴィの守護石

 少し長めの文章量です。


「あの、アルフォンス様。これから伝えることはあくまでもわたしの推論で、絶対ではありません」

「わかった。話してみて」

「……三鉱魔が動けないほど、水位が下がっていました。もしかしたらプリア川だけの現象かもしれませんが、この現象がルイ島全体に及んでいると、ルイ島がなくなるかもしれません」

「ええっ!?」

 近くにいた警吏が叫んだ。アルフォンスが即座に睨みを利かせると、慌てて口を手で塞ぐ。

「どういうことか、説明してもらえるかな」

「はい」

 ルルケ国は大昔に火山が噴火してできた国。火山の下には必ずマグマがあり、活動していないと思えても、時を経てまた活動を再開することがある。

「マオゲヌ山の麓にはマオゲヌ沼があるので、高音のマグマが水を熱して急激な温度変化を与える可能性があります。そうするとマオゲヌ山が、大噴火を起こすかもしれません」

 ええっ!? そんなっ!? と、警吏らが動揺を抑えきれていない。そんな様子を見た遊歩道にいる集団が、何を話しているのだと柵の方へ押し寄せていた。

「……もし噴火が起これば、確かにルイ島はなくなる。そうならないために、いや、そうなってしまった時のために、至急対策が必要だ」

 この場にいては何も対策できないと、アルフォンスを筆頭にテフィヴィへ戻る。急ぎ足の黎明の疾風団を見たリリが率いる集団も、テフィヴィへ向かう。

 街に戻った黎明の疾風団は、そのまま城へ行った。そして貴族も庶民もいる議会場へ向かう。縄で繋がれている黎明の疾風団が城内を歩くことよりも、縄を持っている警吏らの硬い表情が人の目を引いた。

 そして三十人ほどの団体がまるで追いかけるように城内に入ったことも目立つ。黎明の疾風団の監視以外の警吏らが、人々を止める。そんな後ろの様子をアルフォンスは感じながら、議会場へ行った。

 先頭を進むアルフォンスが両開きの扉の前へ行くと、アルフォンスの指示を受けた警吏が、バンッと扉を開ける。一部寝ている人も見えた議会場にいた二十人ほどの面々が、扉の先にいるアルフォンスに注目した。

「……アルフォンス様。ここは、王族の方は参加できない場所です。早々にお引き取りください」

「それは重々承知している。しかし、火急の内容になる可能性があるため、貴公らと情報を共有したい」

 アルフォンスが訴えると、ハルトレーベン卿は視線を奧へやった。モニカを見たと思ったら、議会のメンバーらに顔を向ける。

「わかりました。では、皆様方に意見を伺いましょう。アルフォンス・アドルフ・アディントン様は、皆様もご存じの通り王族でいらっしゃいます。そして今では縄をかけられている立場。さて皆様、どう判断されますか」

 ハルトレーベン卿のことを知らない人間がいても、嫌味にしか聞こえないだろう。しかしアルフォンスはそう思わなかったらしく、是となることがわかっているかのように堂々としている。

(アルフォンス様、何か考えが……?)

 議会で話し合われている間、議会場には多くの人々の声が近づいてきていた。リオナがそちらを見て確認すると、団体に押されている警吏らが見える。リリも先頭で止めるような素振りを見せているが、寧ろ団体の動きを誘導するように進んでいるようにも見えた。その団体は、プリア川にいた面々だ。

「……外が騒がしいようですね。何事ですか」

 議会の意見が否と決まりそうだったとき、黎明の疾風団を押し込むようにして団体が流れてきた。

 アルフォンスがリオナを引き、モニカやブライスも団体の波から外れる。

「水辺の三鉱魔の討伐をしていたときに見学されていた方々が、こちらへ来てしまったようですね」

 まるでこうなることを予想していたかのように、アルフォンスが言う。議会場にアルフォンスという王族がいた。その事実を大勢の人に見られてしまったからなのか、それとも他の理由か。ハルトレーベン卿は面倒そうに息を吐く。

「わかりました。アルフォンス様のお話を聞きましょう。ただし、それを周知するかどうかは内容を聞いてから判断します」

 ハルトレーベン卿は警吏らに、黎明の疾風団以外の人達を外へ出すように指示した。そして同時に、黎明の疾風団の監視役も一人だけ残して集団の誘導へ回るようにと告げる。残った一人は、リオナの容量箱を持っている人物だ。

 議会場内が静まり、残っている面々の視線をアルフォンスに向けられた。

「時間を取っていただき感謝する。貴公らと共有したい情報は、マオゲヌ山が噴火する可能性についてだ」

 アルフォンスの発言で、場内がざわつく。まさか、そんなことはあり得ないだろう。そんな意見が多い。

「なぜそのような情報を持っているか、伺っても?」

「わかった。それは、こちらのリオナから説明しよう」

 場内の視線がリオナに集まる。ビクッと驚いてしまうが、アルフォンスに背中を支えられて覚悟を決めた。

「えぇと、初めまして。研磨師を目指している冒険者、リオナです」

「前置きはいい。早く本題に入りなさい」

「あ、はい。では、説明します」

 苛立っているようなハルトレーベン卿に促され、マオゲヌ山が噴火する可能性について告げる。

 プリア川の水位が下がっていたこと。自然の中の水分量は決まっているから、それが変化するときは何かが起こる可能性があることなど、ジェイコブから聞いた話を交えて話す。そして話している最中に思い出した、マスコバイトクオーツを容量箱から出した。

「こちらの鉱石は、かつてルイ島にマグマがあったとことを証明するものです」

「それがあるからといって、何だと言うんだ」

「こういった鉱石は、大昔の噴火後に作られたものです。それは普段、人の目にさらされることはありません。それが外に出てきたということは、地下で何かが起きているということになります」

 リオナが淀みなく応えると、ハルトレーベン卿はモニカを見た。そしてリオナを見る。

「マオゲヌ山が活火山だということは、文献が証明している。まだ不確定要素が多いが、落ちこぼ……研磨師の卵が言う話がもし本当だとしたら、ルイ島に住む人々の生活が危うい。対策を考えておいても良いでしょう」

 話している最中にモニカに睨まれたのか、ハルトレーベン卿はリオナの呼び方を変えた。

 そして、ブライスを黎明の疾風団と議会の場を繋ぐ仲介人として残すようにと告げられる。

 ブライスの縄が解かれ、ブライス以外の黎明の疾風団が議会場を出た。あれだけいた集団は、きちんと警吏らによって外へ誘導されている。

「話し合いが行われている間、わたし達に何かできることはないでしょうか」

「杞憂に終われば、それでいい。調査をしないといけない内容だから、すぐに調査隊が編制されると思う。もしかしたらリオナも組み込まれるかもしれない。その前に、テフィヴィの守護石を確認しておこうか」

 アルフォンスの提案に乗り、縄を持っている警吏と一緒に冒険者ギルドへ向かう。その道中、話を聞きたそうな集団が待ち構えていたが、あえて対応しないで進む。リリに守護石を見せて欲しいと申請すると、ついてきた団体も手続きをしていた。

 地下を通り、噴水広場の下にある守護石まで向かう。クリオライトに照らされた守護石を、ノキアのときと同じようにリオナが研磨した。

「……いくつか、削り取られたような跡があります」

 金緑色のキャッツアイ(守護石)は、中央を縦断する光の帯を分断するような傷があった。

 リリ曰く、ライトキャトルが出現した直後に見学者が殺到したという。鉱魔出現で不安に駆られた人達が、鉱魔を避けるお守りとして削り取ったのか。あるいは、傷があったからライトキャトルが出現したのか。

(……ノキアの守護石は、傷がなかった。それなのに、ライトキャトルが出現した)

 意図的に出現した、ライトキャトル。その真相を明らかにすることが、守護石の傷の答えを明かしてくれるだろう。

 ノキアに続き、テフィヴィでも現れたライトキャトル。偶然ではないと判断され、リオナには残る二つの守護石を研磨する任務も冒険者ギルドから与えられた。


 第十一話、終了です。

 第十二話、十三話は明日更新します。

 最後までお付き合いいただければ幸いです。

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