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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第十一話 悪意は成功への道しるべ

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11.5 禊ぎ:水辺の三鉱魔 討伐編

 少し長めの文章量です。


「……何ごと??」

 翌朝。

 黎明の疾風団が縄で繋がれながら噴水広場まで行くと、手作りしたような小さな旗を持ったリリが集団をまとめていた。

 警吏らに縄を引かれてやってきた黎明の疾風団を見たリリが、リオナの元へやってくる。

「えぇと? 何かあったんですか」

「皆さん、黎明の疾風団の活動を見たいそうです」

 リオナがリリと話していると、黎明の疾風団の姿を見ようとしているのか何人か飛び跳ねていた。

「冒険者の方々は、リオナさんの戦闘方法を見学。他の方々は怖いもの見たさ、技術検証でしょうか。昨日、黎明の疾風団の皆さんが噴水広場でした技術演技をされた後、問い合わせが殺到しました。なので、歴覧行程を組ませていただきました」

「はぁ……」

 リリが、背後の人々に見えないように片目を瞑った。黎明の疾風団としては願ったり叶ったりだが、ざっと見ただけでも三十人以上はいる。

「えぇと……可能な限りそうならないようにしますが、これから討伐するのは水辺の三鉱魔です。街の人達が危険ではないでしょうか」

「リオナさんの懸念もわかります。ですので、帯同可能なギルド職員も複数います。ギルド職員は元冒険者もいますが、現地に赴く現役の冒険者もいます。実力としては申し分ないかと」

「なるほど。それなら、了解しました」

 リオナと話し終えると、リリは集団の先頭へ戻った。そしてまるで出発の合図を請われているかのような目を向けられる。

「え、えぇと……それでは、黎明の疾風団はこれから水辺の三鉱魔を討伐するためプリア川へ向かいます!」

 こんな出発の合図なんてやったことがないため、リオナの発声はどこかぎこちない。しかしそんなことを知らない集団は、おおー!! と威勢の良く拳を突き上げた。

(……なんだろう、本当に……)

 どこか異様な空気の中、黎明の疾風団及びそれを縄で引く警吏ら、そしてリリが先導する集団の一部が東門へ向かう。

「西門を使わないのか?」「東門なんて遠回りだろう」「東門を使うなら、今すぐに馬車を呼んでくれ」「何言ってんだよ。あんたら貴族が、貴族以外は西門を使うなって言ったんだろうが」「何か言ったかね?」

 貴族も冒険者も庶民も混ざっている集団だ。きっかけがあればすぐに揉め事が起きてしまう。どう止めようかとリオナが思っていると、リリの元へ一人の警吏が走る。そしてリリもその警吏の元へ走り、警吏の手を借りて高く飛ぶ。そしてくるくると体を回転させて着地した。

 リオナはもちろん、この場にいた誰もが、リリは何をしているんだと首を傾げる。

「皆様、静粛に」

 良く通るリリの声は、人々の注目を集めた。

「本日は、ハルトレーベン卿より西門の使用許可が出ています」

 シャキーンと、リリは許可証のような紙を指で挟んでいる。よく見たら、最初にリリが持っていた手製の旗のようだ。

 ハルトレーベン卿は、昔は宰相、現在は議会長を務めている。つまりは、貴族の頂点のような立場だ。そのハルトレーベン卿が許可を出したのなら、と集団の中の貴族達も納得している。

「では、向かいましょう」

 改めてリリが声をかけると、集団は西門へ向かっていく。

 警吏らに縄を引かれて黎明の疾風団が前に出た。そのときにリオナはリリを見る。すると、先程リリを高く飛ばした警吏がすぐ近くにおり、まるで重要なことは先に言ってほしいと、目だけで会話しているかのような雰囲気だった。恐らく、リリの恋人だろう。そんな相手にすら伝達できなかったほど、交渉が長引いたのかもしれない。

 黎明の疾風団にモニカがいるから、ハルトレーベン卿は難色を示したはずだ。

 リリはギルド長として、冒険者の黎明の疾風団を守ってくれている。そのことに感謝しながら、プリア川へ向かった。


 カールト隧道を挟んで反対側の方にあるプリア川は、ケルルッサ山とホロロ山の間にある。ケルルッサ山の方にはヴェルセ滝もあり、暑い日は特に観光客が増えるのだという。

「リオナ。そっちに木の根が伸びているから気をつけて」

「ここの枝が少し低い。リオナ、頭をぶつけないように気をつけて」

 そんな風に何度もアルフォンスに声をかけられながらリオナ達は進む。二つの山の間には遊歩道が設けられているが、それはあくまでも観光客向けだ。別に冒険者が通ってはいけないという決まりはないが、なにせあっちは三十人ほどの団体。同じ道を歩くよりも、少々険しくても森の道を歩く方が進める。

 森の中を歩いていくと、プリア川の下流が見えてきた。ヴェルセ滝もあるぐらい水量が豊富なプリア川だが、下流はほとんど地面に水分が吸い込まれていくような状態になっている。

 上流へ向かう。この辺りになってくると、プリア川を挟んだ向こう側に遊歩道があり、リオナ達とは距離ができる。

 遊歩道を進んでいるリリが、団体に向けて注意喚起をした。これから三体の鉱魔が出る。危険だから決して遊歩道の柵から出ないようにと。

 そんな声が川を挟んでリオナ達にも聞こえた頃、三鉱魔が現れた。

「皆さん、それぞれ戦いやすい位置に……って、そうだ。今は縄で繋がれているから……とりあえず、いつでも動けるようにしてください」

「いや、リオナ嬢。ちょっと待ってくれ。なんだか様子がおかしい」

 ブライスに言われ、リオナも三鉱魔を観察する。

 筋肉がムキムキで袖がない服を着たコープスは、腕を組んでいる。弓に水の矢を番える戦士姿のウォーチャーは、きょろきょろと標的を捜す。細いが均整の取れている体つきをしているウォープランカーは、陽動要員のはずなのに動き出さない。

 通常であれば、強い磁力で水が避けるように水面に浮いているはずのウォープランカー。今は足首のあたりまで水がある。さらに、ウォーチャーは番える水の矢が何度も弾け、形を保てていないようだ。その二体が動かないから、いつもは遠目から指示を出すコープスも二体から離れていない。

「三鉱魔が動かないですね」

「いや、動かないではなく、動けないのかもしれない」

「どういうことでしょう?」

 質問すると、ブライスは川岸の方へ視線を向ける。遊歩道のすぐそばまであった水位が、下がっていた。

「豊富に水がないから、動けないのかしら」

「それなら、討伐が簡単そうだ」

 モニカとアルフォンスの言葉を受け、ひとまず討伐することにした。出現から時間が経ちすぎてしまうと、ドロップ品が落ちない。

「モニカは挑発の準備をお願いします。わたしは攻撃を行いますので、ブライス様は援護を。アルフォンス様はできる限り下がっていてください」

 リオナの指示にそれぞれが従う。

 リオナは鉱物眼を発動し、三鉱魔を迎え撃つ。


「……三鉱魔がこんなにあっさりでいいんでしょうか」

 モニカが挑発をし、背中を見せたウォープランカーを、ウォーチャーを、コープスをそれぞれ倒す。それは予想していたよりも遥かに簡単で、ドロップ品も三つ落ちた。それが逆に不可解だ。

 プリア川の下流は水量が少ないものの、上流はヴェルセ滝の影響で水量は多いはず。しかし三鉱魔の行動を制限するほど、水の量が減っていた。まるで、ルイ島全体の水分量がグッと減っているような。

(まさか、そんなことは……)

 リオナは、ジェイコブから教えられた知識の中で最悪な状況を思い浮かべた。しかしそれは、あってはならないことだ。

「リオナ? 顔色が悪いよ。どうしたの」

「あ、えっと……」

 リオナが思い浮かべたことが実際に起こったら、ルイ島はなくなる。そんな大事になるかもしれないことを、リオナの思いつきだけで伝えてもいいものなのか。

(……違う。思いつきで終わればそれで良いんだ。言わなくて、大災害になっちゃう方がダメだ)

 リオナの容量箱を持ってもらっていた警吏にドロップ品を渡す。そして、思いついたことをアルフォンスに伝えた。



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