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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第十一話 悪意は成功への道しるべ

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11.2 治療と敵意

 少し長めの文章量です。

 流血します。苦手な方はスルッと読み飛ばしてください。


「リオナ! 今すぐ、治療するから」

「あ、はい。ありがとうござ、っぅ」

 ライトキャトルの突進を止めたとき、がっつり踵を擦ってしまった。それは履いていた長革靴(ブーツ)もすり減らし、アルフォンスが治療のためにリオナの足を持っただけで痛みが走るほど。

「リオナ、ごめん。長革靴脱げるかな」

「すみませんっ……足を、上げるだけでも痛くて……」

「そうだよね。痛そうだ。ごめんね、触るよ」

 どこを、と確認する前に、アルフォンスがリオナの長革靴を持つ。リオナの背後では、いつの間にか来ていたモニカが支えてくれている。ブライスはリオナの素足が周囲に見えないように、モニカの盾と反対方向に立っていた。

 リオナは動きやすさを重視して、上下が繋がっている短パンを着ている。長革靴の下には靴下を履いているが、それはリオナの血で染まっていた。

(アルフォンス様の、手がっ)

 自分の状況を冷静に見ていないと、正気を保てない。両足の踵を怪我しているから、リオナは両足を宙に浮かせた状態だ。だから背後のモニカに体を預けるように体を斜めにしている。そして両足の間に、アルフォンスがいる状態。

(っ、なにこれ、すっごく恥ずかしいっ)

 リオナの負担にならないようにか、アルフォンスは恐る恐るという様子でリオナの靴下をゆっくり脱がせてくれている。その優しさが逆に、もどかしい。

 リオナが自分の体勢について深く考えないようにしていると、アルフォンスがリオナの右足の踵に触れる。

「白魔術師アルフォンス・アドルフ・アディントンが命じる。世界に満ちるマインラールよ、リオナの傷を治せ」

 アルフォンスが詠唱をすると、真っ赤に染まっていた踵が綺麗な肌色に戻っていく。左の踵も治療されてから、ハッと気づく。

「アルフォンス様っ、すみません……街中で、名前を言わせてしまいました」

「ぼくの身分よりも、リオナの怪我を治す方を優先するに決まっているでしょ」

 テフィヴィの噴水広場に突如として現れたライトキャトル。そしてそのライトキャトルに一人で挑んでいたリオナ。駆けつけた、黎明の疾風団のメンバー。

 注目される要素は十分すぎるほどあり、リオナはアルフォンスの身を案じた。

「ねぇ。アドルフ・アディントンって、確か王族の名前じゃなかったかな」

 黎明の疾風団を見ていた、街の誰かが言った。その言葉を皮切りに、街の人達がざわつく。

「そうだ、王族だ」「王族のせいで、身重の嫁は」「あの子はまだ五歳だったのに」

 王族を殺せ。まるでそんな声が聞こえてきそうな、どす黒い空気になってしまっている。

 リオナはアルフォンスが悪いわけではないと言おうとした。しかしアルフォンスやブライスの背に庇われてしまい、それが叶わない。

「アルフォンス様、ブライス様っ」

「リオナ。ここに居続けるのは危険だ。場所を移そう」

「娘を返せっ」

 誰かが、小石のようなものを投げてきた。ライトキャトルが突進する際に壊した、石畳の欠片かもしれない。

 その動きがきっかけとなり、集まっていた人達全員からの敵意を向けられる。履いていた靴を投げられたり、どこかに射手がいたのか矢を射られたりした。足下に矢が刺さる。

(……そうか。冒険者の中にも、十一年前の被害者がいるんだ)

 このままでは本当に命を落とす危険性がある。アルフォンスの汚名を返上する前に、自分達の命を守らないといけない。

「……アルフォンス様、ブライス様、モニカ。テフィヴィを出ましょう」

 リオナの指針を聞いた黎明の疾風団は、街の人達からの攻撃を避けながら街を出た。

 東門を出る前、何人かの冒険者が不思議そうにリオナ達を見ていた。その中には、黎明の疾風団が何かしたのかと、リオナ達を知っている冒険者もちらほらいる。

 噴水広場で起きたことは、すぐに広がってしまうだろう。見かけた冒険者は若いように見えたが、もしかしたら親世代から十一年前のことを聞いている可能性もある。テフィヴィで活動することは、もうできないかもれない。

 東門から出て、そこから見えない位置まで行く。

「ここまで来たら、ひとまず大丈夫でしょうか」

「ごめんね、リオナ。長革靴を持って来れなかった。街中で抱き上げることもできなくて……」

「いいえっ、気にしないでください。オルゴーラ様の所にいたときに、何度か靴を隠されたこともあるんです。素足でいても問題ないです」

「いや、それは問題でしょ」

 アルフォンスがブライスに目を向けると、ブライスは手巾を地面に敷いた。

「リオナ。足の裏を治療するから、座って」

「い、いいですっ、大丈夫ですっ」

「リオナ嬢。もし怪我をしていたら大変だ。ここは、座ってほしい」

「そうよ、リオナ。大事がないならそれで良いのだから」

「うぅ……はい……」

 三人に言われてしまっては、アルフォンスにまた足を触られてしまうことも拒否できない。

 ブライスが敷いてくれた手巾の上に座る。そしてブライスは、容量箱から出していた大きめの布を濡らしてくれた。

「ごめんね。ひやっとするよ」

「は、はいっ……っ」

 ブライスから大きめの布を受け取ったアルフォンスが、汚れていたリオナの足の裏を拭ってくれる。リオナにとっては布の冷たさよりも、アルフォンスにまた足を触られてしまっているということの方が重大だ。

(ぅぅ……やっぱり恥ずかしい……)

 アルフォンスはリオナの足裏に怪我がないかどうか、念入りに調べてくれている。そんなアルフォンスを見て、なぜ怪我もしていないのに足を拭いてもらったのかとリオナは我に返った。しかし、すでに両足拭われた後だ。

「ア、アルフォンス様っ。もう大丈夫ですよね!?」

「そうだね。特に怪我はしていないみたいだ。良かった」

「リオナ嬢、代わりの靴は持っているかな」

「いえ……あ、でも、替えの服はあるので、それを足に巻けば布靴みたいな感じになると思います」

「服を代わりにするなら、おれが持っている布を渡そう。まだ何枚もあるから」

「ありがとうございます」

 リオナがブライスから大きめの布を受け取り布靴を履いていると、モニカが何かを考えていたようだ。

「ねぇ、リオナ。あの鉱魔はどうして街中に現れたのかしら」

「前にも、ノキアであったんですよね。街には守護石があるはずなのに、どこからか急に現れて」

「そうだ、リオナ嬢。確かあのとき、ドロップ品が赤黒くなって塵になったって言っていたよね。今回はどうだった?」

「はい。今回も、ありました」

「ということは、これは誰かの作為的な行動ってこと?」

「もしかしたらそうかもしれないって、わたしは思っていますけど……」

「ねぇ、リオナ。わたくしはまだ勉強不足のようだわ。鉱魔は、意図的に作り出せるものなのかしら」

「いいえっ。まさか、そんなことはあり得ないですよ」

「でも、鉱魔のことが全て解明されているわけじゃない……」

 ブライスの言葉で、黎明の疾風団内に重い空気が流れる。

「なぜライトキャトルが現れたのかということも解明しないといけないですけど、ノキアのときみたいに守護石の様子を確認したいです」

「でも、今は難しいと思う。街中に入ることすら、危ういと思うし」

 今後の活動を、テフィヴィ以外ですればいい。しかし人の口に戸は立てられない。他の街でもアルフォンスの身分がばれてしまえば、冒険者としての活動もできなくなる。

 これからどうするか。話し合っていた黎明の疾風団に、複数の人が近づいてきた。



 エピソードまで終わりました。

 十一話は一時間(一回だけ三十分)ごとに更新していきます。

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