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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第十一話 悪意は成功への道しるべ

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81/100

11.1 二度目の襲撃 

 少し長めの文章量です。

 想像してしまうと目を背けたくなるような痛みがあります。心穏やかに、健康なときに読んでいただけると幸いです。

 さらっと、ツイっとその部分を流していただければ、痛みを想像しないかもしれません。


 テフィヴィまで荒い手綱捌きの馬車で移動したリオナは、西門を潜ったことがわからなかったほどぐったりとしていた。

(ぅっ……気持ち悪い……)

 上下左右に揺れるという、通常では経験できない馬車の動きだった。気持ち悪くならないササラは、よほど乗り慣れているのだろう。

 てっきり馬車に乗ったままブブラバーバの屋敷へ行くと思っていたが、テフィヴィの街中は馬車が禁止されているらしい。

「……」

 と、リオナはササラに聞いたが、そうではないようだ。何台か、静かな運転をする馬車は街中で稼働している。

 ひとまずブブラバーバの屋敷へ行くまでにササラの思惑を暴こうと、ササラに近づく。

「ササラ、話があるんだけど」

 リオナが話しかけても、ササラは無視する。それどころか西門を抜けてから、とっととどこかへ行こうとした。だから、追いかけてササラの手を掴む。

「触らないでよ、裏切り者!」

「はっ……? え、なに」

 パシンと、手を弾かれた。言われたこともそうだし、散々ノキアで触ってきたじゃないかと、ササラがしてきた行動にも疑問が生じる。

 キッと睨みつけられ、敵意を感じた。

「裏切り者って、なに。急にそんなことを言われても、全然わからないんだけど」

「リオナは良いよね。今まで楽しく暮らせたし、アルも迎えに来て」

「別に、楽しく暮らしていたわけじゃない。そもそも、どうしてササラが離れていたときのわたしのことを知っているの」

「でっぶいおじさんから聞いた。リオナはさっさとおじちゃんに引き取られちゃってさ、さぞ楽しかったでしょう?」

「でっぶい……もしかして、オルゴーラ様? それにおじちゃんって、ジェイコブさんのこと?」

「リオナは良いよね。大好きなものに囲まれてさ。髪だって昔から変わらないし、傷もない綺麗な肌で王ぞ」

 多くの人が行き交う道中で、アルフォンスの身分のことを言おうとしたササラの口を慌てて塞いだ。

 そんなリオナの行動を見て、ササラは怪しく笑う。そしてリオナの手を掴んで自分の口元から外す。

「へぇ。アルの身分、ばれちゃいけないんだ?」

「当たり前でしょ? 十一年前のことなんて、まだ覚えている人もたくさんいる」

「そんなに大切なんだ?」

「ササラに言う必要はないけど、教えてあげる。わたしは、アル様が大切なの。あの方を傷つけるのは誰であろうと許さない」

「ふぅーん?」

「ねぇ、ササラ。アル様と結婚するっていう話、本気なの?」

「本気だったらどうする?」

「アル様を好きだというのなら、全力で応戦する」

「応援はしてくれないんだ?」

「するわけないでしょ? どうして恋敵の応援をしないといけないの」

「へぇ、リオナったらアルに本気なんだ? 告白しないの?」

「いっ……いずれは、しようとは思っているけど、別にそれはササラに教える必要はないでしょ」

「まぁね。でも、良いこと聞いた。リオナを苦しませたかったら、アルを狙えば良いんだ」

「ちょっと、ササラ? アル様に何をするつもり?」

「何だと思う? 考えてみて」

「あっ、ちょっとっ!」

 怪しく笑うササラは、それだけ言うとまた歩き始めた。すぐに追いかけてササラにアルフォンスに危害を加えるなと抗議するが、ササラは楽しそうに笑うばかり。

 そのままササラの言葉を覆せないまま、噴水広場の近くにあるブブラバーバの屋敷についた。

 そこはギリギリ貴族街ではあるが、屋敷とは言いづらい場所だ。ハルトレーベン邸のように広い庭があるわけでもなく、隣の屋敷とも距離が近い。かろうじて門扉とわかる場所はあるが、壊れかけていた。

(……こんな屋敷の主が、十万ガルドも報酬を出す?)

 リオナが疑問に思っていると、ササラが門扉を通って振り向いた。

「ブブラバーバ、予定のない訪問者を嫌うから。リオナはここで待ってて」

「わかった」

 ブライスやモニカを見ているから、貴族も話し合えれば良い人もいると知っている。しかしハルトレーベン卿のように難しい人もいるということも事実。

 リオナは言われたとおり、ササラを待つ。

 貴族街の端に一人。以前は一人の時間が休息の時間だった。しかしアルフォンスに外へ連れ出してもらって、それからはずっとアルフォンス達と一緒だ。

(……アルフォンス様達は、乗合馬車で来る。あの後すぐに乗れれば、そろそろカールト隧道を抜ける頃かな)

 テフィヴィだから、西門からは乗合馬車も入れない。東門へ回って、そこで下りてから冒険者ギルドへ向かうだろう。

 そんな風にアルフォンス達の行動を予測していると、噴水広場の方が騒がしくなった。

(えっ……まさか、ここでも!?)

 リオナが噴水広場へ顔を向けると、ライトキャトルが出現していた。昼間だから発光しているかどうかはわからないが、遠巻きにしている人達の中で見覚えのある牛が突進する先を捜している。

(鉱物眼!)

 リオナはノキアのときのような惨状にならないよう、すぐに対応する。

 テフィヴィに現れたライトキャトルは、しきりに周囲を窺っていた。夜であれば篝火など明かりに突進していくだろうが、今は昼間だから明かりはない。

「すみませんっ、通して下さい!」

 集まっている街の人達をかき分けて、リオナはライトキャトルへ近づく。街に出没したこのライトキャトルは、鉱石が右の後肢部分にあった。

 すぐに討伐してしまおうと思った矢先、ライトキャトルがリオナの方へ体の向きを変える。勢いをつけるように何度か前肢で地面を蹴ったライトキャトルは、リオナの方へまっすぐに向かってきた。

(来るっ)

 避けると街に被害が出てしまうと瞬時に判断し、突進してくるライトキャトルを全身で受け止める。

「っ、く……」

 ズザザザザ、と土煙を上げながらライトキャトルに押し込まれる。石畳で擦れた踵は熱いが、ここで手を離せば次はどこへ突進するかわからない。

(ライトキャトル相手に、苦戦するなんてっ……)

 リオナは、鉱魔相手に敵無しという感じだった。ライトキャトルのランクはD。落とし穴さえ掘れれば、苦労しない相手だ。それにリオナがもし自由に動けたのなら、背後から鉱石を殴れただろう。

 しかし、噴水広場に何人か冒険者らしい人の姿は見えたが、誰も参戦してこない。だから、リオナがライトキャトルの背後に回れるような余裕が生まれない。

(っく、こうなったら……)

 鉱物眼を発動したままだ。だからライトキャトルを単斜晶系として見て、塊の角を指で弾く。

 ライトキャトルは拘束したままだ。だから思うように力が入らず、また指で弾くだけしかできなかったため、なかなか塊を壊せない。

「挑発!!」

 ようやく三つの塊を壊せてライトキャトルの押し込む力が少しだけ弱くなったと感じたとき、モニカが来てくれた。

 ライトキャトルはモニカの方へ体の向きを変える。

(今だっ)

 リオナに背を向けた。それはすなわち、攻撃の好機。右の後肢部分にあった、白濁した鉱石を殴った。

 ライトキャトルは分解されたようにばらばらになる。そして鉱石がドロップした。時間がかかったのに、と思っていると、落ちた鉱石は赤黒く変色し、塵となって消える。

(えっ……今、触ってもいないけど……)

 赤黒く変色して、塵となって消える。この現象は、以前ノキアでライトキャトルが暴れたときと同じだ。

 一度目はわけもわからないままだった。しかし二度目ともなると、誰かの作為を感じざるを得ない。それは、誰か。

「リオナ!!」

 ライトキャトル襲撃のことを考えていると、アルフォンスが駆け寄ってきてくれた。




 第十一話、始まりました。

 本編はあともう少しで終わる予定です。

 最後までお付き合いいただける神読者様、あともう少しお願いします。

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