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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第十話 黎明の疾風団、始動!

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79/100

10.7 再会②

少し長めの文章量です。


「あたしを、王子様と結婚させたいんだって」

「えっっ」

 ササラから聞いた話に、リオナは思わずアルフォンスの方を向こうとしてしまった。しかし実際はササラに腕を掴まれていて、振り返ることはできない。

 そんなリオナを見たササラは、ふふっと笑ってリオナの手を解放する。

「やっぱり。名前を聞いたときに、もしかしてって思ったんだー。アルが王子様でしょ?」

「なっ……」

「信じられないって顔してる。言ったでしょ、勉強したって。当然王族の容姿の特徴だって把握してるよ。結婚相手のことは知っておきたいしね」

「……アル様に、告白するの?」

「アルフォンス様、でしょ? 名前だって知ってるの。アルなんていかにもな名前を名乗るなら、偽名でも使えばいいのにね」

「ササラ、答えて。アルフォンス様に、告白するの?」

「どうしようかなぁ。ま、あたしとしてはどっちでも良いんだけどね。生活の保証をしてくれる貴族様の目標を達成するための努力ぐらいは、しないとね?」

 王族が力を持たないように、富豪や権力者などと結婚できない決まりになっている。

「で、でも、貴族様の養子になったんでしょ? それなら無理じゃない?」

「リオナ、知らないの? 王族は庶民としか結婚できないんだよ」

「だ、だって……」

「貴族様もね、そこは考えているんだよ。養子とは言ったけど、正式な手続きはしていない。あくまでも庶民を預かっているっていう感じなの」

「それなら、ササラは貴族性じゃないってこと?」

「そう。だから、あたしは王子様と結婚できるんだ」

「ダメっ」

 勝ち誇ったような顔をするササラに対抗するように、リオナは立ち上がって言った。そんなリオナを見て驚いた様子のササラは、リオナの手を引いてまた座らせる。

「なんで? もしかして、もう王子様と付き合ってるの?」

「ちがっ……う、けど」

「リオナは、王子様のことが好きなんだ?」

「ちっ……がくは、ないけど」

「ないけど?」

「……アルフォンス様は優しくて素敵な人だから、ササラがアルフォンス様と結婚したいのはわかる。でも、わたしだって譲りたくない」

「それなら、今日からあたし達は恋敵ってことだね。いいよ、受けて立つ。庶民同士、条件は同じだよ」

「待って!」

 立ち上がってアルフォンスの元へ行こうとしたササラの手を掴み、止める。

「なに? あたしには、きっかけすらもらえないの? リオナはずっと一緒にいたんでしょ?」

「そ、うだけど……」

 ササラの言い分は尤もである。しかしこの手を離してしまえば、ササラはアルフォンスの所へ行ってしまうだろう。リオナに抱きついたように、積極的に行くかもしれない。

(それは、イヤだ)

 リオナはアルフォンスへの気持ちを自覚している。恋愛の過程は平等だとしても、ササラを行かせたくなかった。

 ササラはリオナに手を掴まれたままだったが、まるでひそひそ話をするかのようにリオナの耳元に顔を寄せる。

「あたしにも、きっかけが欲しい。ねぇ、リオナ。三鉱魔の依頼、受けてよ」

「え、なんで……もしかしてあの依頼、ササラが出したの?」

「そう。あの三鉱魔って、三体セットで出てくるんでしょ? 貴族様からその話を聞いたとき、ドロップ品も揃って持ちたいなって思ったの」

「そうなんだ?」

「そう。あとさ、依頼を受けるだけじゃあたしに時間が足りないから、依頼を完了するまではテフィヴィを拠点にしてよ」

「テフィヴィを? それはちょっと……」

「今あたしね、テフィヴィに住んでいるんだ。だからさ、リオナ達がテフィヴィを拠点にしてくれたら、あたしにもきっかけが増えるじゃん? ダメ?」

「ダメっていうか……」

 ちらっと、視界の隅にいたアルフォンスを見る。リオナの視線に気づいたのか、アルフォンスがブライスとモニカを伴ってこちらへ近づいてくる。

「リオナ? どうかした?」

 アルフォンスが呼びかけてくれた瞬間、ササラがリオナの手を両手で掴んだ。

「もぅ、久しぶりすぎて時間が足りないよ。ねぇ、リオナ。もっともっと話そうよ!」

「ササラ? なにを……」

「リオナ。幼馴染みと会うのはあの日以来なんでしょ? 話し足りないのもわかるよ。一度依頼は受注を取りやめて、幼馴染みと話す時間を作ってあげたらどうかな」

 ササラの行動を不審に思っていると、アルフォンスがリオナにとってはありがたくない提案をしてしまった。

「依頼? もしかして、三鉱魔のやつ?」

「あれ、知っているんだ?」

「もちろん! だってあれは、あたしが出した依頼だから」

 黎明の疾風団としては、依頼の内容を不審がっていた。だからササラの発言を聞いた瞬間、ピリッとした空気が流れる。そんな空気を察したのか、否か。ササラはあくまでも明るく言う。

「あたし、リオナが冒険者として活躍してるって聞いたから、鉱魔のことも勉強したの! 三鉱魔って、三体セットでしょ? 他の鉱魔はセットじゃないから……本当は二体セットの方が良かったんだけど、いなかったから」

「まるでリオナとあなたみたいということかしら」

「そう! だからあたしを世話してくれている貴族様にお願いしたら、この依頼を出せば良いんじゃないかって!」

「なるほどね。貴族が出資者だから、十万ガルドの報酬なのか」

 アルフォンスの納得と同時に、黎明の疾風団内でそれなら受注しても良いのではという空気になっている。

 リオナが聞いた話と、ササラが言った話は内容が少しずれている。だから不審がってリオナは受注を止めようと言いたかった。

「どうする、リオナ。幼馴染みの可愛らしい願いを叶えてあげない?」

「ぅっ……そ、そう、ですね」

 にっこりと優しく微笑まれてしまっては、リオナが断れるわけもない。以前アルフォンスは、初恋の人をずっと一途に想っていると言っていた。もしかしたら、ササラの言葉から同じような境遇だと感じてしまったのかもしれない。十一年前から変わらない気持ち、という部分に。

「やったー! それなら、リオナ達も馬車でテフィヴィに行こうよ」

「テフィヴィに?」

「あ、えっと……」

「リオナともっと話したいの! だから三鉱魔の依頼が完了するまではテフィヴィにいてってお願いしたんだ。そしたら、リオナも良いねって」

 まだ許可なんてしていない。そう言おうとしたが、アルフォンスがササラの味方をするような言い方をする。

「ぼく達は事情があって、街の中では休めないんだけど……きみの養い親の貴族に話は通せるかな」

「大丈夫だと思う。この依頼に関することだったら、とりあえず相談しろって言われたから」

「そうか。それなら宿の宿泊を断って、テフィヴィに移動しようか」

 リオナが、もっと早くササラの疑惑を伝えていればこうはならなかっただろう。しかし確証がなかった。それはまるで、こんな流れになることを計算されていたのではと思ってしまう。宿で顔を見せなかったのも、ローブの色を変えてきたのも。

 ササラの思惑を想像してぞっとし、リオナは思わず両腕を抱きしめるように組む。

「リオナ? 寒い?」

「あ、いえ……寒くないです」

「それじゃあ、何かあった? 顔色が悪いみたいだけど。治療しておこうか」

「い、いいえっ! そ、その、大丈夫なのでっ」

「そう? 体調が悪いなら言ってね。すぐに治すから」

「は、はい。ありがとうございます」

 治療しようと手を伸ばしてくれたアルフォンスから離れてしまった。決してアルフォンスのことを嫌いになったわけではない。そう、伝えようとしたが、ササラがまた抱きついてきた。

「リオナ! 馬車はこっちだよ」

「ササラ、ちょっと待って。先に宿に行かないといけないから」

「リオナが泊まっていた所、見てみたい!」

「それなら、ついてきて。手続きはすぐに終わるから」

「わかったー」

 腕を抱きしめるかのようにくっつくササラと、それを注意する気力すら出ないリオナ。一見すると、とても仲が良い二人に見えただろう。だからか、アルフォンス達は誰もササラの行動を止めなかった。




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