10.6 再会①
十万ガルドという破格の報酬の依頼。それを受けるか受けないか。以前あった拉致監禁事件のこともあり、慎重になっていた。
とはいえ、一晩分の猶予をどう活用しようかということになる。
「ひとまず、何か違うクエストを受けましょうか。それとも、何か欲しいドロップ品があるなら、それを取りに行きましょうか」
食堂の隅で話していると、ララが一人の少女を連れてきた。少女がリオナの方へ駆けていくのを見たララは、受付へ戻る。
「リオナ!」
たたっと駆けてきた少女は、リオナのローブの色と近い赤みがかったピンクのローブを着ていた。リオナに勢い良く抱きついた拍子に、灰色がかった茶髪の髪が露わになる。そして、チャラっと金属同士がぶつかるような音がした。
「ササラ? え、ササラなの?」
「リオナ! 久しぶり!」
「どうしたの、こんなところで。あ、いや、ササラだってノキア出身だからどうしたってことはないと思うけど」
ササラとの再会を戸惑いつつ喜んでいると、黎明の疾風団の他の三人が説明を求めるような顔をしていた。
「あ、すみません。この子はササラ。わたしの幼馴染みです」
「そうなんだ。初めまして。アルって呼んでもらえるかな」
「アル? よろしく!」
「おれはネイサンと」
「ネイサン? よろしく!」
「わ、わたくしはモニカですわ。よろしくお願いしますわ」
「モニカ? よろしく!」
まるで定型句のように同じ言葉を返すササラは、まだリオナに抱きついたままだ。
「ちょ、ササラ。再会できたのは嬉しいけど、ちょっと離れて」
「えー、なんで? あの日以来だよ? あたし、もっとリオナと話したい」
「リオナ。久しぶりに会ったんでしょ? ひとまず解散ってことにして、話すといいよ」
「あ、はい。……ですが」
ササラが、もしかしたらリオナを狙っているかもしれない。それを告げるべきだと思ったが、ササラがリオナに恨みを持っているかどうかはわかっていない。
それに、本人を目の前にしてそんなこと言えるわけもなかった。
「えぇと、ササラとの話が終わったら宿に行きますね」
「いや、そうするとリオナを一人にしちゃう。食堂で話すといいよ。ぼく達も見える所にいるから。幼馴染みと久しぶりの話を楽しんで」
「はい。ありがとうございます」
ササラに抱きつかれたままのリオナは、ササラが口の端を上げて笑ったことには気づけない。
食堂の隅に行ったリオナはまだ抱きついているササラと二人がけの椅子に座る。
「ねぇ、リオナ。こんな人がいっぱいいるところじゃなくて、二人きりになれる所へ行こうよ」
「いや、それはちょっと……」
「えー、なんで?」
まさか、ササラ本人が怪しいからなどとは言えない。そしてもしササラがリオナ似の人形を用意したのでなければ、幼馴染みにリオナが狙われていることを伝える必要はない。
「ほら、アル……様に、言われたでしょ? ここで話してって」
「えー……別に、良くない? あのアルって人、ちょっと過保護じゃない?」
「そ、そうかな?」
アルフォンス本人が、呼び方を指定した。それは名前が知られることで身分がばれる可能性を危惧したのだろう。だからリオナもいつも通りに呼べない。しかしそれ以上に、ササラがアルと呼んでいることにいらっとする。
(はぁ……ササラがアルフォンス様を呼ぶだけで嫉妬するなんて、これから先、アルフォンス様にも気持ちがばれちゃいそうで困る)
いつかは気持ちを伝えたいとは思う。しかしそれは、まだまだ先のことだろうし、何よりも告白するのなら両思いになりたい。
アルフォンスのことを見てしまっているリオナの顔を、ササラが強引に自分の方へ向ける。
「リオナ! あたしと話してるでしょ? 他の人なんて見ないで」
「ご、ごめん。気をつけるから、とりあえず顔を持っている手をどけて?」
「イ・ヤ! あたしの手をどけたら、リオナはまたあたし以外を見るでしょ」
「わかったから。見ないよ。だから離して」
「それなら先に、あたしの両手と手を繋いで」
「えぇ? 何でそんな……あぁ、もう、わかったから。ほら、これで良いでしょ? わたしの顔から手を離して」
リオナの顔を持っていたササラの手を掴むと、ササラは不満げな顔ではなくなった。そしてそのまま手を下げられ、手首を掴まれ、リオナは体勢を変えづらくなる。ササラと正面から向かい合うような形になった。
「ササラは、あれからどうしてたの?」
「あたしはね、貴族様の養子になったの」
「貴族様の? それはすごいね」
「ぜーんぜん。子供の頃と比べると確かに良いかもしれない。明日死ぬかもしれないって思わなくなったから」
ササラの発言に、やっぱりと思う。
以前夢で見た思い出の中のササラは、いつもガリガリだった。骨が浮き出るような痩せ方をしていて、両親だって見たことがない。
「今日は一人なの?」
「そう。今までずーっと勉強ばっかりだったから、たまには庶民の生活を思い出せって言われたの」
「そうなんだ。でも、庶民の生活を思い出せって……」
「なんかね、あたしを養子にした貴族様には目標があるみたいだよ?」
そこまで言うと、ササラはグッとリオナの両腕を引く。体勢を崩したリオナは、ササラの顔とぶつかりそうになる。
そして、ササラが呟く。




