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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第十話 黎明の疾風団、始動!

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10.5 黎明の疾風団に依頼②


 リオナが自分の世界に没頭しつつ顔を上げた時機と、「リオナの寝顔が見たかったから起こさなかった」という男性陣からモニカが聞き出した時機が重なった。

 リオナとアルフォンスの目が合う。

「あっ、い、いや、ごめん。でも、まじまじと見ていたわけじゃなくて」

「えっと? 何の話でしょうか。すみません。ちょっと考え事をしていてお話を聞いていませんでした」

「あ、いや……」

「リオナ嬢は、何を考えていたんだ?」

 正直に話そうとしたアルフォンス。誤魔化すことに決めたブライス。口元が緩むのを我慢できていないモニカ。三人から視線をもらう。

 注目されている中で夢の内容なんて話せるわけもないリオナが、朝食を取ることで視線から逃げる。他の三人も、食事を済ませた。

 朝食を終え、今度こそ指名依頼のことを話す。

「……えぇと、まず三鉱魔を倒す場所ですが」

「川か海。そして海はルミー海ぐらいしか行けないし、ウォーチャーが逃亡するとやっかいだ。川一択だと思う」

「そうですよね。川ならまだ、逃げられても追えますから。アルフォンス様達は、泳げますか」

 アルフォンスとブライスは力強く頷くが、モニカは顔を下に向けてしまっている。それもそのはず。冒険者として考えたら、想像よりも動けている。しかしモニカは元々お嬢様だ。泳ぐ機会なんてまずないだろう。

「リオナは泳げるんだね」

「あ、はい。ジェイコブさんに、生活に必要なことは全て教えてもらえました」

「泳ぐことって、生活に必要かな??」

「座学で教えてもらうことももちろんありましたが、ジェイコブさんはわりと実践的なんです。知識として得るより実際に見るのが一番と言って、よくセヴェン川に連れて行かれました」

「なるほど。確かに実践的だね」

「リオナ。どうしましょう。わたくし、泳げませんわ」

「今すぐに泳げるようにはなりません。ですが、万が一のことを考えて、水中で息を止める練習をしましょうか」

「そうだね。水の中で怖いのは冷静さを欠いてしまうことだ。水の中で息を止めれれば、少しは気持ちも落ち着く」

「できるなら、目を開けられるといいですね。そうだ、水中眼鏡を作ってみましょうか」

「「「水中眼鏡?」」」

「はい。モニカに作った眼鏡を改良して、水中でも使えるようにできるかもしれません」

 リオナは容量箱の中を捜す。デューオルチョインからのドロップ品の紙とチャータボークスが落とす大黒羽はあったが、インクがない。今度からインクも買っておこうと決め、木杯に入った水に指先を濡らして机に描く。

「水中でも外れないようにして、眼鏡の部分も水が入らないようにするんです。真上と真下、真横はどうしてもフレームの分だけ視界が奪われてしまいますが、他の所を透明にすれば水中でも目を開けられるはずです」

「なるほど! それならいけそうだね」

「だが、何で作る? アポフィライトはまだ数に余裕はあると思うが、ハルトレーベン嬢以外は目の見え方に問題がない」

「同じように透明になる素材といえば、クオーツですね」

「クオーツ……エルダリープーリスか」

「そうですね。ですが三人分となるとかなり時間がかかってしまうと思います。エルダリープーリスは、三日三晩寝ないで起きていないといけませんし」

「リオナの鉱物眼で時間を短縮できないかな」

「エルダリープーリスに遭遇したことがないので、正直わかりません。ですがもし、三方晶系だとやっかいかなと思います。ディスツラクシェンと同じだと攻撃しづらいです。それにエルダリープーリスは、敵対しないからこそクオーツをくれます。攻撃したら、すぐにいなくなってしまいます」

「でも、そうしたらどうする? クオーツも安くないし」

 アルフォンスから聞かれ、リオナは討伐依頼書を容量箱から出す。

「依頼達成の報酬は十万ガルドです。三鉱魔のドロップ品三つを足しても、二二五〇ガルド。川底の鉱魔バトムシトムが落とすジェットの一番良い状態のものでも五万ガルドです。材料費で多少の出費は出しても、十分元が取れると思います」

「でもさ、十万ガルドってものすごく破格の値段じゃない?」

「確かに。前にリオナ嬢に指名依頼があった、スリースクッシュが落とすセルサイトを納品する依頼の後も、大変だったしな」

 アルフォンスとブライスが、拉致監禁事件を振り返るように重苦しい雰囲気になる。そんな雰囲気になった中、モニカだけ事情を知らなかったため、リオナが伝えた。

「そんなことがあったのね。確か今は、リオナが誰かしらに狙われていますのよね? それなら尚のこと、この依頼は危ないと思いますわ」

「でも、一ヶ月も待たせてしまっているわけですし」

「一ヶ月待てるなら、その先だって待てますわ。もしかしたら依頼者も、受けるとは思っていないのではないかしら」

「え、でも、それなら初めから依頼なんて出さないと思います」

 それはそう。リオナの意見に三人が頷く。

「どうしましょう。依頼を受けた以上、もし断るのなら早い方が良いですよね」

 リオナの問いに、アルフォンスが何かを思い出そうと体を揺らす。そしてその動きを止めた。

「確か、受付のお姉さんが各街のギルドに依頼がって言っていたよね? ノキアにいるリオナが受注したんだ。ノキアのギルドが受けたってギルド間で情報を共有するはず。それなら、一晩ぐらいは時間があるんじゃないかな」

「いかに魔力値が高い魔術師といえども、物理的距離がある相手との連絡手段は手紙のみだ。今すぐに一晩待って欲しいと伝えれば、今日の便ではなく明日の便になるんじゃないのか」

「なるほど! ちょっと、ララさんに伝えてきます!」

 立ち上がったリオナは、ララが働く受付まで行く。拉致監禁事件のときに駆けつけてくれたララは、黎明の疾風団の憂いをわかってくれた。

 こうして得た、一晩分の猶予。しかしすぐに、黎明の疾風団の行動方針が決まってしまうのである。



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