10.2 リオナ的鉱石講座
モニカがE級に階級を上げたため、鉱魔を倒せるようになった。ノキアの南門から外に出る。
「今日からは、実践ですよ」
モニカが採集クエストをこなしている間も、周囲に出た鉱魔を倒していたからリオナが獲得したドロップ数も増えている。八日の間に増えた数を合わせると、B級まで残り五百といったところだろう。
狩り場はどこへ行こうかと相談しているとき、モニカから質問される。
「リオナ。一つ聞いても良いかしら」
「良いですよ。なんでしょう?」
「リオナの戦い方を何度見てもわからないのだけれど、リオナはどうやって鉱魔を倒しているのかしら」
「わたしは鉱物眼というやつを使います」
「戦闘前に言っていたやつね」
「はい。鉱魔を結晶として見て、そこで鉱魔の種類を見分けて攻撃するんです。鉱魔の弱点の鉱石がどこにあるのかがわかって、そこを殴れば一撃必殺になりますね。鉱石を殴れなくても、鉱魔の種類がわかればその種類によって……」
「鉱魔がけっしょう……鉱魔の種類……?」
質問されて意気揚々と答えてしまったが、まるでプスプスと煙が出そうなほど悩んでいるモニカを見て言葉を止める。
「すみません。わかりづらかったですよね。えーと……」
「鉱魔の種類、は、勉強したからわかるわ。人型、動物型、植物型、虫型、魚型、異形型、物質型の七種類よね」
「それも種類で、それが一般的な鉱魔の種類ですね。わたしは一般的なやつじゃなくてですね、何というか、研磨師を目指しているからこその分類というか……」
リオナとモニカが話している様子を、アルフォンスとブライスが優しく見守っている。
「研磨師的な分類だと、鉱魔は型に関係なく六種類です。それで、モニカがわかる鉱魔だとキャクタスフラワーですかね。これは分類だと斜方晶系になります」
地面に煉瓦の土台のような絵を描く。
「これが、斜方晶系の特徴です。こうやって横型の直角柱のような塊が集まって見えるのが、鉱物眼なんです」
「えぇと、これがリオナの言う結晶ということなのね? 煉瓦の土台という例えは、わかりやすいわ。テフィヴィの街の建物は、ほとんど土台が煉瓦ですもの。けれど……確か先ほど、鉱石を殴れなくても、と言っていたような気がするわ。煉瓦の土台のように見えるというのは、どれくらいの大きさなのかしら?」
「わたしは塊が拡大しているように見えますが、実際はすごく細かいと思います。この塊が鉱魔を構成しているような感じですから」
「塊が、鉱魔を構成……?」
モニカがリオナの戦い方を理解しようとしてくれている。それは嬉しいが、リオナの考え方はあくまでも研磨師を目指しているからこそわかるものだろう。
モニカでもわかりやすい例えはないだろうかと周囲を見たとき、ビュゥッと風が吹いた。そしてその風で、一枚の葉がヒラリヒラリと舞ってリオナの目の前に落ちる。
「そうだ、葉っぱ!」
リオナは葉を拾い、裏返す。そしてそれをモニカに見せた。
「モニカ、これ。この葉っぱを見て下さい。歪ですけど、何本も線があって、形になっているのがわかりますか」
「えぇ、そうね。わかるわ」
「形は違いますけど、わたしには鉱魔がこういう感じで見えるんです」
「なるほどね。これならわかりやすいわ」
「ありがとうございます。この葉っぱの裏みたいに集まっている、六分類の形の角を殴るんです。そうすると、鉱魔を倒せます」
「リオナはそうやって倒していたんだね。研磨師的には、その分類でどう変わるの?」
「はい。それはですね」
モニカとの話を聞いていたアルフォンスに質問され、熱量を抑えながら劈開について説明する。
「鉱石を割る際に必要になります。分類したからといって、同じ系統が同じ割れ方をするわけでもありません。あくまでも目安です。鉱魔を倒す分には、分類通りにいけるんですけど」
「研磨師って、そういうことを全て覚えていないといけない大変な職業なのね」
「はい。やはり、国家資格ですから。ですがその資格を取れれば、将来は安泰だと思います。独り立ちするまでは、大変ですが」
「安心してちょうだい、リオナ。わたくしが冒険者となり稼ぎ、将来リオナが店を持ったとき、ずっと通いますわ」
「ぼくだって、リオナの店に通うよ!」
「ありがとうございます」
アルフォンスとモニカと話をしていたが、ブライスが参加してこない。どうかしたのかと思ってリオナが確認すると、こちらの様子を微笑ましそうに見ていた。
「リオナ嬢は、いつも楽しそうで良いね」
「はい! モニカも増えましたし、パーティーメンバーで行動できるのは楽しいです」
「それじゃ、パーティーでもっと活動できるようにどこで何を討伐していくか相談しようか」
ブライスの提案で、パーティーの行動計画を練る。
モニカは現在E級。討伐に参加できるのはEかDまで。比較的安全で高ランクの鉱魔が出てこない、コンコアドラン森林で昼間に動くことになった。
基本的には、追いかけてくる板材アトゥンツリーを討伐し、時々リオナとブライスで黒い鷹のチャータボークスを狩る。怪我をしたときはアルフォンスかブライスが治してくれた。
討伐をこなす三日の内にドロップ数も増えていき、モニカが階級を上げられるぐらいまで貯まった。しかし、モニカは自分に厳しかった。




