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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第九話 恋と仲間と、波乱の幕開け

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9.8 パーティの名前③

九話ラストです。

そこそこ長めの文章になってしまいました。


 リオナ達は、モニカの冒険者研修のため宿を捜す。一度泊まったことのある宿は、侵入者もなく安全なようだった。

 宿を取れた四人は、早めの夕食を取りに行く。なるべく経費を抑えたいというモニカの要望もあり、ギルド内の食堂へ行った。

 そしてリオナの断熱防具の準備、容量箱を鞄の形にするために装具屋へ行く。割増料金を払えば翌朝に仕上がるということだったので、その分を支払った。

 そして、宿へ戻る。

「それじゃ、リオナ、ハルトレーベン嬢。明日の朝部屋まで迎えに行くから」

「はい。おやすみなさい」

 男女で各部屋を借り、二人ずつ部屋に入る。隣同士では取れなかったが、同じ階だ。アルフォンス達が部屋に入ることを確認すると、リオナもモニカと一緒に部屋に入った。

 寝台は二つ。長椅子と机がある、素朴な部屋だ。部屋の端には衝立も置かれていた。

「ねぇ、リオナ。アルフォンス様達はもっと良い部屋の方が良かったのではないかしら」

「確かに、ブライス様はもっとアルフォンス様に良いお部屋を、と思うかもしれません。ですが、モニカが気を使わないようにという配慮だと思いますよ」

「ここの宿泊代も……わたくしはこれまで、自分でお金を稼いだことがありませんの。冒険者になれても、いつ返せるかどうか……」

 冒険者にもなれないかもしれない。そんな不安を吐露するモニカに、リオナは提案する。

「モニカ。ちょっとお願いしてもいいですか」

「なにかしら」

「わたし、将来は生まれ育ったノキアで工房を持ちたいんです。研磨師の資格を取って、仕事を始めたらわたしのお客様になってもらえませんか」

「えぇ、それはもちろん。そのつもりだったわ」

「それなら、そのときにわたしの工房のお得意様になってもらうというのはどうでしょう? それでそのとき、わたしの工房は良い工房だって宣伝してほしいんです」

「もちろんよ。わたくしにはリオナしか友人がいないから、お父様やお母様から宣伝してもらうようになると思うけれど」

「ありがとうございます! よしっ。これで誰もお客様が来ないなんてことがなくなるぞ」

 ぐっと拳を上げて喜ぶ。そんなリオナを見てモニカが微笑み、リオナも笑う。

 その後、受付で頼んでいた湯が届いた。まだお互いに恥ずかしがって、衝立越しにそれぞれ体を清める。

 しかし、リオナは好奇心を抑えられなかった。先に許可を得てから、モニカの胸を観賞する。最初は恥ずかしがっていたモニカも、初めての友人であるリオナだからと笑いながら、リオナからの様々な質問に応えてくれた。


 翌朝。

 リオナはモニカの朝支度を見る。執事に作ってもらったらしい胸潰しを使い、モニカの豊かな胸が潰されていく。

「もったいない……。そんなに立派なのに」

「わたくしはリオナの方が羨ましいですわ。素早く動けますし、肩も凝らないでしょう?」

「なるほど。そういう悩みもあるんですね」

「それに、ある程度は潰しておかないとね。今日は冒険者になれるかどうかが決まる、大事な研修があるのだから」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。コンコアドラン砂漠だから、相手はキャクタスフラワーですもん。モニカが注意を引きつけてくれている間に、わたしがちゃちゃっと倒しちゃいますよ」

「リオナの助けになるように頑張りますわ」

 ぐっと拳を握って気合を入れるモニカを見ていると、扉が叩かれた。まだ胸を潰し終えていないモニカの代わりに、リオナが扉に近づく。

「リオナ。ハルトレーベン嬢。準備はできた?」

「すみません、アルフォンス様。ちょっと寝坊しちゃいました。少し待ってもらえますか」

「了解。まだ時間に余裕はあるから、急がなくていいからね」

「ありがとうございます」

 アルフォンスと話し終えると、リオナはモニカの元へ戻る。

「ありがとう、リオナ。もうリオナは準備ができているのに……」

「パーティーメンバーですからね。協力し合わないと」

 リオナと話しつつ、モニカも準備を急ぐ。毎日していたことだ。胸を潰すのはもはや作業だ。

 服も来たモニカと一緒に部屋を出る。

 その後、装具屋でリオナの断熱防具とジェイコブにもらった鞄に似せた容量箱を受け取った。

 ギルドへ行った後、ララも合流してコンコアドラン砂漠へ行く。何でも、ララはリオナの戦う姿をもっと見たいらしく、本来は重騎士の職員が行くところをララが立候補したそうだ。

「モニカっ! お願いします!」

「わかったわ! 挑発(プロヴォケーション)!!」

 耐熱装備と背の高さと同じくらいの盾を支給されたモニカは、重騎士の技を発動する。丸形のキャクタスフラワーはモニカに向かって針を飛ばした。その間にリオナが仕上げる。それを五回繰り返す。

 初めの頃は盾を構えることすらできなかったが、モニカは飲み込みが早いらしい。大きな怪我をすることなくモニカの一日目の研修が終わった。

 何事もなく一日目を終え、二日目と三日目の研修を終えたモニカは、F級と書かれた冒険者カードを手に入れて満面の笑みを浮かべている。

 今いる場所は、宿にある応接室。前に入ったことがある部屋で、四人だけで話ができる場所だ。今夜も部屋を取ってあるが、先に話し合うことにした。

「モニカ。良かったですね」

「リオナのおかげよ。ありがとう」

「モニカが注意を引きつけてくれたからですよ」

 にこにこと微笑みあっているリオナとモニカを見ていたアルフォンスが、それで、と話に入る。

「パーティー名はどうしようか」

「どうしましょうか……」

 冒険者カードは、冒険者の身分を保証する。単独で動く冒険者もいるが、パーティーを組む方が一般的だ。だから冒険者カードにもパーティー名を記載する項目があった。

「わかりやすさを重視するか、わたしたちを象徴するような名前にするか……」

 リオナの呟きに反応するように、アルフォンスがポンと手を叩く。

「このパーティーなら、やっぱりリオナがリーダーだよね。それならリオナを象徴するような言葉がいいと思う」

「え、待って下さい! わたしがリーダー? そこは、アルフォンス様ではないんですか」

「ぼくよりも後に冒険者になっているから数字はどうしようもできないけど、一番鉱魔を倒しているのはリオナだよ。それに、ぼくはあまり目立たない方がいいと思うし」

「うっ……そうですよね。アルフォンス様は王族ですもんね……わ、わかりました。この四人のパーティーのリーダー、わたしがなります! ……あ、あの、相談はしても良いんですよね?」

「もちろん。リーダーが必要な場面のときに名乗ってもらう以外は、皆で協力していこう」

「良かった……。それでは、パーティー名を考えましょう。どうしましょうか」

 リオナが問いを投げると、アルフォンス達はそれぞれがリオナを象徴するような言葉を挙げていく。

「リオナといえば、あの戦い方だよね」

「確かに。誰も真似できない戦い方だ」

「疾風のごとく、素早く攻撃するリオナを尊敬しますわ」

「疾風! 良いね、何か格好いい気がするよ」

「素早さを象徴していていいかもしれない。でも、少し弱い。他には?」

「リオナといえば、研磨師。女性の研磨師はまだ誰もいないのですよね?」

「いないね。受験料が高すぎることは、今後の課題だ。そこをどうにかしないと、リオナに続く女性研磨師が現れない」

「そ、それで言ったら、モニカも女性初の重騎士なんじゃないですかっ」

「それはどうなのかしら。ノキアではいなかっただけかもしれないわ」

「ぼく達も女性の重騎士は見たことがないかな」

「ルルケ国初の女性研磨師。恐らく他にはいない、女性重騎士……」

「これからリオナは、新しい文化を創り出していくでしょうね」

「物事が盛んに始まろうとしている……」

 ブライスが呟き、モニカがさらに言葉を重ねる。そんな風にモニカが程良い合いの手を入れていた。

「「っ!」」

 ブライスとモニカが、何かを思いついたかのように互いの顔を見る。

「「黎明!」」

 そして同じ言葉を重ねた。息の合っている二人を見ていたリオナは、候補に挙がった言葉を呟く。

「疾風と黎明。黎明と疾風……」

「黎明の疾風団、というのはどう?」

「良いですね!」

「女性重騎士としてハルトレーベン嬢の名を世に知らしめる。リオナ嬢の戦い方、そして女性研磨師としてのリオナ嬢の活躍……うん、良いんじゃないか」

「わたくしも、その名前がしっくりきますわ」

「それでは、わたしたちのパーティー名は、『黎明の疾風団』に決定です!」

 明日の朝、早速ギルドへ行こう。そんな風に盛り上がり、それぞれが宿泊する二部屋に向かった。



第九話、終了です。

ついにモニカがパーティーに加入しましたが、物語は終わりへと向かっていきます。

まだお付き合いいただける神読者様は、ブックマーク登録をしてお待ちいただけると幸いです。

それでは。また十話でお会いしましょう! 是非に!

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