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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第九話 恋と仲間と、波乱の幕開け

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9.7 パーティの名前②


「パーティー名って、必要ですか」

「回答としては、どちらでも可、ではあります。ですが、リオナさんだけでなくパーティーに依頼が来ることもありますから、名前がある方が便利だと思います」

「なるほど……少し、考えてみますね」

 ララとの話が途切れるのを待っていたらしいモニカが、手を上げて質問する。

「この職業欄は、今書いた方がよろしいかしら」

「お勧めの職業をお伝えしますので、こちらの測定器に手を触れて下さい」

 カウンターに置かれた水晶測定器に、モニカが触れる。すると、五十と数字が出た。

「すごいです、モニカ。わたしの魔力より三倍近く高いですよ!」

「……え? そんなことはないと思うわ。あんなすごい戦い方をするのに、リオナの魔力がわたくしよりも下……?」

 この測定器は壊れているのではと疑いの目を向けるモニカに、ララは少し気まずそうに答える。

「リオナさんの魔力に関しては、推定という感じですね。初めて見る挙動をしました。ギルド長とも話していますが、まだ原因がわかっていません」

「そうなのね。えぇと、それで魔力値が五十のわたくしができる職業はどれかしら」

 モニカの質問に、ララは書類に手を向けて職業を指していく。魔力が三桁ではないため、リオナに紹介された職業と同じだ。重騎士、剣士、射手、拳闘士、格闘士の五つ。

 リオナのときのように職業の役割をララが説明していたとき、最初の重騎士の説明時にモニカが反応した。

「重騎士は、仲間のために働くのね。わたくしでもできるかしら」

「モニカさんが挑戦するのならお止めしませんが、女性がやるのは大変かと思います。以前女性で挑戦した方がいましたが、研修のときに他の職業へ変更していました」

「重騎士として役目を果たすには、どうすれば良いのかしら」

「そうですね……まず重騎士は、何よりも鉱魔の注意を引かなければいけません。そしてその後は仲間が鉱魔を討伐するまで、攻撃を受け続けることになります。体力、忍耐力はもちろんのこと、盾を持ち続ける握力、攻撃を受けても動かされない踏みとどまる力など、とにかく筋力が必要です」

「筋力……今のわたくしには、一番足りない力ですわね」

「人には向き、不向きがあります。モニカさんは背が高い方だと思いますので、後方から射手として援護するのはどうでしょうか」

「後方から……それは、足手まといではないかしら」

「いいえ。後方から鉱魔の注意を引く、という点で考えれば、決して足手まといではありませんよ。さらに射手としての能力を上げれば、援護だけでなく攻撃も可能です」

 ララからの提案に、モニカは悩んでいるようだ。しかしすぐに答えは出たらしい。

「わたくしは、重騎士を希望しますわ」

「かしこまりました。では、仮登録は重騎士にしておきますね。冒険者として活動してもらう前に研修があります。そこで無理そうなら、他の職業に変えることも考えてみて下さい」

「わかったわ。研修はいつあるのかしら」

 モニカからの質問に、ララはリオナを見た。

「攻撃職であれば、お一人で鉱魔の討伐をしていただきます。ですが、白魔術師や重騎士など支援職の場合は、職員もしくはパーティーメンバーが討伐しています。特に重騎士は、鉱魔の注意を引くということが役割なので」

「そういうことなら、わたしがモニカと一緒に行きます。ブライス様は赤魔術師ですし、たぶんわたしが一番モニカと組むことになると思うので」

「かしこまりました。お二方も一緒に行かれますか」

 ララの問いに、アルフォンスもブライスも頷く。

「では、研修は明朝コンコアドラン砂漠にて行います」

「コンコアドラン森林じゃなくて大丈夫ですか」

「キングスコーピオンには気をつけなければいけませんが、森林よりも砂漠の方が見晴らしがいいので目が行き届きます」

「わたしの階級も上がったので、今ならキングスコーピオンも倒せますよ。ローズジプサムも持っていたら便利ですし」

「確かに、リオナさんなら倒せるでしょうね。ですが、そうならないことを祈ります。それでは明朝、ギルドから出発するので朝の鐘がなる頃ここに集合して下さい」

「わかりました」

 ギルドから出た四人は、今夜の宿について話す。ギルド内の部屋か、他の宿か、高級宿か。

「あの……申し訳ないのですけど、わたくしは手元に資金がない状態ですわ。できるなら天幕で寝たいのですけど」

「テフィヴィでは何が起こるかわからない状態でしたが、ノキアはどうでしょうか。明日からの研修のためにも、モニカには体力を回復してもらいたいです」

「そうだね。緊張もあるだろうし、窓がついているような宿なら、お湯も持ってきてもらえるから」

「それなら部屋割りはどうしようか。今まではそれぞれが一部屋という感じだったが、男女で分かれて二部屋という感じで取るか」

「あの、お待ちになって? 宿を取るという流れになっておりますけども……そもそも、何が起こるかわからない状態とは? 鉱魔は街中で見かけたことはないのですけど」

 モニカに聞かれ、リオナ達三人はお互いに顔を見合う。そして鉱魔は街中には基本的に出ないこと、テフィヴィの宿で起きたことを伝えた。モニカもパーティーメンバーだ。何も知らないというわけにはいかないだろう。

「そんな……リオナみたいな良い子を、恨むような人がいるなんて。何かの間違いではありませんの?」

「そうであったら良いと思うけどね。部屋の取り方を考えると、相手も本気だと思う」

 宿での話になると、リオナは言葉を飲み込んでしまう。あの場にいたのはリオナの幼馴染みであるササラの可能性がある。しかし確証は得られていない。

「リオナ? どうしたの? あの時のこと多い出しちゃった?」

「あ、いいえ。大丈夫です」

「そう? それなら良いけど……」

「テフィヴィではダメでしたが、ノキアでは違うかもしれません。宿を捜してみましょう」

 話す時機だったかもしれない。しかしリオナは誤魔化してしまった。

 この誤魔化しが、後にパーティーの亀裂を生むとは想像できるはずもない。敵を、まだ認知してもいないのだから。



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