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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第九話 恋と仲間と、波乱の幕開け

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9.2 眼鏡作り


 昨晩手紙を出した通り、リオナ達は朝からハルトレーベン邸を訪れた。

 手紙にモニカの眼鏡を作ると書いていたからか、それとも溺愛する娘に何かあっては心配だと思われたのか。ハルトレーベン卿も応接室にいた。当主がいれば、奥方もいる。ハルトレーベン家の夫妻が揃っていれば、執事やその他従業員もいた。恐らく、今作業を止められる人達が集まっているのだろう。

 大人数に注目される中、リオナはまだ木箱のままの容量箱からアポフィライトを三種類取り出す。

「これからモニカに眼鏡を作ります。色はこの三色の内どれが良いですか」

「透明、透明に近い緑色、透明に近い薄いピンク色があるのね。この中なら透明なやつかしら」

「わかりました。では、これでレンズを作っていきますね」

 レンズ? と首を傾げているモニカ。使わない二種類のアポフィライトを容量箱に仕舞った。

研磨(グラインドポリッシュ)。一段階薄く、薄く」

 透明のアポフィライトを、少しだけ薄くする。湾曲しているそれをモニカに渡した。

「そのレンズを、前の水入りの水晶みたいに目に当ててみて下さい。見え方はどんな感じですか」

「そうね……っ、ちょっと、足下がぐらつくわ」

 ふらついてしまったモニカをさっと支える。

 モニカの様子を見て執事やハルトレーベン卿が動こうとするが、アルフォンスが手で制して止めていた。

 モニカからアポフィライトを受け取る。

「研磨。三段階薄く、薄く」

 最初よりも薄くなったアポフィライトを再びモニカに渡す。

「今度はどうでしょう」

「えっ、すごいですわ! 応接室の絨毯の糸まで見えますわ。あぁ……けれど、少し頭が痛いような……」

「なるほど。今度は削りすぎですね。見えすぎても良くないので、やり直します」

「え、そ、それならこれで問題ないわ」

「ダメですよ、モニカ。これからモニカを支えてくれる大切な相棒です。ずっと長く使ってもらいたいので、丁度良い見え方の薄さにします」

 モニカからアポフィライトを受け取る。そして失敗したアポフィライトはどこかで活用すると決め、新しいアポフィライトを出した。

「三段階でやりすぎだったので、その前ですね。研磨。二段階薄く、薄く」

 リオナの手の中でアポフィライトが薄くなっていく。

「これでどうでしょうか」

 リオナからアポフィライトを受け取ったモニカは、自分の目にそれを当てた。

「……見やすい。奧の壁の模様は見えるのに、手元を見ても疲れませんわ」

「やった。これで成功ですね」

 モニカからレンズになったアポフィライトを受け取ると、対になるもう一つのレンズも同じ薄さにした。

「次は、レンズの形です。楕円方、丸形、長方形とありますが、どの形がいいですか」

「眼鏡をかけている人を見かけたことがないのだけれど、どの形が良いのかしら」

「そうですね。好みだと思いますが、モニカはどちらかと言うと切れ長の目を持つ美人なので、四角っぽい方が似合うと思います」

「それなら、それでお願いするわ」

「わかりました。造形(フィグレイティブ)。レンズを四角く、下は丸めに」

 詠唱し、二つのレンズが完成した。レンズの下を丸めにすることで、女性的な柔らかさを表現できる。

「あとは眼鏡のフレームですね。こちらに関しては、モニカが金属過敏症だと思うのでイルメナイトのみです。鉱石のままだと白濁していますが、フレームになるときは黒くなります」

「わかったわ」

 失礼しますね、と、リオナは自分の親指と小指を使ってモニカの目の位置を測る。

 眼鏡の基本は、レンズの中央に瞳が来ること。大きすぎても小さすぎても、均衡が取れない。

「造形。レンズを支えるように細く、細く」

 リオナが詠唱すると、イルメナイトが細い線状になる。そしてレンズを支えるように囲み、耳に掛ける部分も作っていく。

 そして眼鏡の原型ができたが、リオナは容量箱から失敗したアポフィライトを取り出す。

「造形。耳にかかる負担を減らすように、丸く、丸く」

 イルメナイトが剥き出しだった端の部分を、アポフィライトで覆った。

「はい。これでモニカ専用の眼鏡の完成です。かけてみて下さい」

 リオナから眼鏡を渡されたモニカは、ゆっくりとそれをかける。そして手を離し、周囲を見た。

「手を離しても、顔を左右に振っても、落ちませんわ。すごいですわ、リオナ! 今までぼやけていた視界が、はっきりと見えますわ」

 生活できていたとはいえ、常に視界がぼやけているような状態から、それがなくなったのだ。思わず、という様子で、モニカがうっすらと涙を浮かべる。

「眼鏡のレンズを拭くときは、柔らかい布で拭いて下さいね。細かい傷があると、使い続けた後で見え方が変わってしまうので」

「気をつけるわ。リオナ、本当にありがとう。いくら支払えば良いかしら」

「いえ、いえ。料金はいらないですよ。というか、わたしはまだ研磨師として資格を取れていないので、寧ろ練習できてこちらこそありがとうございますという感じです」

「まだ研磨師でなくても、リオナが作ってくれたことには変わりないじゃない。きちんと料金を徴収すべきよ」

「えぇと……それなら、お願いしたいことがあるんですけど……」

「何かしら。わたくしにできることなら、なんでも言ってちょうだい」

「モニカは、やっぱり冒険者にならないですか」

「冒険者ね……それは」

「良いじゃない、冒険者!」

 悩んでいるモニカの言葉を遮ったのは、ぎらついた目をしたハルトレーベン夫人だった。



次回から数回、モニカ視点です。

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