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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第八話 モニカの眼鏡のために

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8.6 アルグネ山地下迷宮


 アルグネ山の地下迷宮。迷宮と呼ばれるのは、入る度に中の構造が変わるからだ。ジェイコブは効率的な材料収集のため、何度か地図を作ろうとしたらしい。しかし五度目に入ったときに諦めたと言っていた。

 リオナ達が入ったときは、目の前に広大な森林が広がっていた。

「わぁ……地下なのに、森林がある。不思議……」

 地下迷宮だから、基本的には明かりはない。しかし木の周辺だけはぼんやりと明るかった。

 リオナが地下森林に目を奪われている間に、アルフォンス達が周囲を窺った。

「今のところ、ララランソルジャーは出てこなそうだね」

「みたいだな。迷宮内で亡くなった冒険者の骨も見当たらない」

「えっ。ここって、そんなに危険な場所なんですか」

「危険というか、迷宮だから。迷って外に出られなければ、そうなることもある」

「え、でもイレクトリシールドを捜せば出口なんじゃ……」

「捜せればね。今回は運良く地下森林がすぐに出てきたからわかりやすいけど、最初が洞窟の続きみたいな時もあるって聞く。そんな所でララランソルジャーに遭遇したら、生還は難しくなるよね」

「ララランソルジャーは逃げまくりますからねぇ。ドロップ品が欲しければ追いかけます。そうしている内に出口がわからなくなっちゃうってことですね」

「そういうこと。でも今回の目的はララランソルジャーだから、場所を移動しないと」

「ひとまず、森林の中を歩こう」

 ブライスの提案に乗り、リオナ達は地下森林内を進む。奧に進めば進むほど、ここは地上ではないかと錯覚するような明るさになっていく。さらに不思議なのが、ここはアルグネ山の地下なのに、地上の時間と同期していることだ。夕方になれば、それと同じくらいの薄暗さになる。

 森林を抜けてララランソルジャーを捜したかったが、今日はもう遅い。夕方だ。これからさらに暗くなるから、森林内に天幕を張って朝を迎えることになる。

「今日は移動できないなら、川を捜しますか? ジャッジベアに容量箱を更新してもらいたいですよね」

「そうしたいけど、鉱魔の出没が気になる」

「コープス、ウォーチャー、ウォープランカー、ユウトピアラですよね。スリースクッシュは、水音を出さなければ問題ないと思いますが……そもそも、地下迷宮内の川って、鉱魔にとって川だと認識しているんですかね? 場所が固定されているわけではなく、毎回場所が変わりますよね」

「確かに。仮に鉱魔達が川という認識を、固定された場所として捉えているなら警戒すべきは、ユウトピアラだけになる」

 ユウトピアラの討伐方法って何だっけ。まるでそんな質問をしたがっているかのように、アルフォンスがリオナを見た。

「ユウトピアラに対して警戒すべきなのは、深夜です。日付が変わる頃、ユウトピアラは滲み出る水のように静かに現れます。究極の対策方法としては、ユウトピアラは人の夢を操るので眠らないことです。ですが、うたた寝のような軽いものでも囚われてしまいます」

「夜だし、寝ちゃうよね……」

「そこで大切なのが、寝てしまった後の対策です」

 ユウトピアラに対抗する術は二つ。

 一つ目は、ユウトピアラに理想郷として見させられている夢の中で、夢だと認識して自分自身を物理的に傷つけること。そうすれば強制的に目を覚ます。

 二つ目は、心を許す相手に起こしてもらうことだ。恋人なのか、親友なのか、家族なのか。その定義は曖昧だ。

「夢の中で夢だと気づく、一つ目の方法が確実ですかね」

「心を許した相手……」

 アルフォンスがリオナをじっと見る。それをリオナは、アルフォンスの場合は誰になるのかと問われているように感じた。

「アルフォンス様とブライス様の場合は、お互いに覚醒できる相手かなと。仲良しですし、お互いのことをよく知っていると思いますし」

 リオナなりの考えを言うが、アルフォンスはブライスを見た。そしてまた、リオナを見る。

 男二人としては、互いの考えが手に取るようにわかった。リオナが囚われてしまった際、声をかけて目を覚ました相手に心を許しているということかと考えている。しかし、それはリオナには言わないから伝わらない。

「どうしましょうか。ひとまず、森林内の川を捜しますか」

「そうだね。前みたいに、誰かが起きていて警戒した方がいいかもしれない。起きる理由があると眠気もそれほど強くならないと思うから、川を捜そう」

 三人で、ジャッジベアが出る地下森林内の川を捜す。迷宮内は、とにかく広い。一歩間違えれば出口に繋がるはずの森林内でも迷ってしまう。

 一段階周囲が暗くなった頃、さわさわと水が流れる音が聞こえてきた。その音を頼りに進んでいくと、目的の川を発見。体の半分ずつ毛の色が違う、ジャッジベアを発見した。知識に寄れば、向かって右側が赤で左側が青い毛色のはずだ。薄暗いと色の判別が難しい。

 のそ、のそ、と二足歩行で歩くジャッジベアは、足を止めて休憩するときに四つん這いになる。

「いたね」

「ジャッジベアは欲を判定するというのは知っているんですけど、実際はどんな感じなんですか」

「ぼくの時は、ひたすら聞いてほしい話をしまくった」

「おれの時は、アルへの考え方を話していたかな」

「なるほど。ブライス様は仕事欲ということですね。アルフォンス様、は……」

 言葉を濁したということは、アルフォンスは恋愛欲と判断されたのか。それを聞きたかったが、仕事はともかく恋愛のことは深く聞けない。

(本当は、ものすごく聞きたいけどっ)

 仮に、そう。仮にだ。アルフォンスがリオナのことを想ってくれていたとして、リオナ自身がまだ自分の気持ちの方向性をわかっていない。

 アルフォンスのことを知りたい。しかし変な所で言葉を止めてしまったため、その時機も逃してしまった。

「え、えぇと、とりあえず、この辺りに天幕を張りましょうか。ブライス様は、焚き火の準備をお願いします」

「了解」

 アルフォンスからリオナの分の天幕を受け取り、設置する。アルフォンス達の分を手伝いつつ、話す。

「……あの、アルフォンス様。アルフォンス様はパーティーメンバーが増えても良いと思いますか」

「ハルトレーベン嬢だよね。無闇に増やすのはどうかなと思う。だけど、リオナの友達だし、僕らの正体もわかっているからね。ハルトレーベン嬢なら問題ないかな」

「ありがとうございます。モニカには断られているんですけど、やっぱり諦めきれなくて。ララランソルジャーを倒して、イルメナイトを獲得後に、また説得してみます」

 焚き火を用意してくれたブライスも交えて、ユウトピアラ対策を練る。ユウトピアラが現れる深夜の前に、誰かが寝ていたら起こそうという話になった。



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