8.2 眼鏡の材料②
アルフォンスが褒め、リオナが照れる。そんな二人を見ていたブライスが、聞いてきた。
「リオナ嬢の話から、アポフィライトは最低でもあと一つ。失敗の可能性や色のことを考えるともっと多く、ということで間違いないかな」
「そうですね。お手数をおかけします」
「パーティーなんだから協力するのは当たり前だよ」
「そうそう。リオナ嬢が気にすることはないよ」
「ありがとうございますっ! それでは、続きをお願いします!」
その後も、日が暮れるまでアポフィライト獲得を目指してソードラビットを狩りまくった。しかし三人で百体近く倒しても、夕方になって周囲が見えづらくなるまでやっても、成果はアポフィライト以外だ。
今日は天幕を張ってまた明日討伐しよう。そう決めた三人は天幕前の焚き火の所に集合する。
「大量に兎肉がある。容量箱の中の生ものは腐らないが、今日の晩ご飯は兎肉にしようか」
「そうですね。また明日も討伐しますし、そうしましょう」
「そうと決まったら、リオナ嬢に教えてほしいことがあるんだ」
「何でしょうか」
「以前、おれが工房へ行ったときに出してくれた料理を教えてほしいんだ」
「えっ、ネイサン!? リオナの手料理食べたの!? そんなこと、聞いてないよ!?」
「キャロットの切り方も教えてほしい」
「キャロット!? ネイサン、それはなしで!」
反射的にアルフォンスが言った内容に、ブライスが何か含むような笑みを浮かべる。
「アル、そんなこと言っていていいのか? リオナ嬢も見ているぞ?」
「はっ! ……ネイサン! ぼくがいつキャロットを食べないと言った! キャロットだけで満腹にもなれるね!!」
「ブライス様。キャロットは大人でも好みが分かれます。無理強いは良くないのでは」
「大丈夫、ダイジョウブ。ぼくは、キャロット大好きダカラ」
相当苦手なのだろう。発言するアルフォンスの目が虚ろになっている。
好きな相手の前では見栄を張りたいというアルフォンスの気持ちは、リオナにはまだ届かない。
ブライスの容量箱から出された鉄板やその他食器等々、夕食の準備が整えられていく。
その日の夕食は、アルフォンスが用意されたキャロットを全て食べた記念すべき日になった。
そして翌日。
アポフィライトを獲得するために三人は、またソードラビットの討伐を始める。百体目を倒したところで、アポフィライトがドロップするには確率だけではない何かがあるのではないかということになった。
検証し、一つ目がドロップしたときと同じ方法--角剣を剣など武器で受けた後すぐに倒すことで確実にドロップすると判明。
失敗したときのことを考えて、余裕を持ってアポフィライトを獲得した。
ソードラビットを討伐し始めて、二日目の昼。眼鏡に必要なレンズの材料は揃った。
「アルフォンス様、こんなに時間がかかると思っていなくて……モニカに、眼鏡を作るまでまだ時間がかかりそうだと伝えに言っても良いですか?」
「それなら、ハルトレーベン家に手紙を届けてもらえば良いんじゃないかな。料金はかかるけど、同じ街中なら門兵とかギルドでもお願いできるよ」
「そうなんですね! それなら、レンズを支えるフレームのために次の狩り場に行きたいので、門兵さんにお願いしようかな。紙とインクってありますか」
「門の所で貸してもらえるよ。それも含めた料金を払うから」
「なるほど。ありがとうございます」
ヴァゼテラ平原から東門へ移動する。今日は昼間だからか、それほど人は多くない。そこでモニカへ手紙を書き、料金を支払った。
東門から離れる。
「それで、リオナ。眼鏡の枠は何の材料が必要なの?」
「モニカは金属過敏症みたいなので、ララランソルジャーがドロップするイルメナイトですね」
「金属過敏症?」
「はい。どんな金属かは人によりますが、金属が肌に触れると湿疹がでたり赤くなったりします。サンダーフォックスが落とすアラゴナイトを粉末にして水で練ると皮膚疾患の塗り薬になりますけど、眼鏡みたいに日常的に使うものは、金属過敏症の人でも使えるようなものにしたいんです」
「なるほどね。リオナみたいに、使う人のことを考える研磨師ばかりなら平和な世界だね」
「えっ、そうしないんですか?」
「ぼくも知らなかったし、一般の人だって金属過敏症のことは知らないと思う。だから塗り薬を売るための口実として使われちゃうんだろうなって」
アルフォンスの言葉に、ブライスも頷いている。実際にそういう現場に遭遇したことがあるのかもしれない。
「リオナ嬢。ララランソルジャーがいるのは、アルグネ山の地下迷宮だ。そこの地下森林にジャッジベアもいる。容量箱を獲得できるんじゃないか」
「んー、どうでしょう。仕事欲として捉えてもらえればいいですけど、金稼ぎ欲と思われちゃうと襲われちゃいますからね」
「もしかして、ジェイコブさんも?」
「そうです。何回か対峙したみたいですよ。でもようやく仕事欲と認められて、最後はジャッジベアと肩を組むほど仲良くなったみたいです」
「それはまた……リオナから聞くジェイコブさんって、聞く度に逸話があるような気がする」
「ジェイコブさんですからね」
その一言で片づけられるのか。そんな視線を感じつつ、リオナ達はアルグネ山の地下迷宮へ向けてまずはロンガースの街を目指すことにした。




