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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第七話 モニカ・ハルトレーベン

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7.8 リオナの計画

 分けてしまうと微妙な文量になってしまうので、そこそこ長めの文章です。


 モニカの部屋からアルフォンスが使う客室に行ったリオナは、モニカと話したことやハルトレーベン家の事情を伝えた。

 ハルトレーベン夫人が来たときにつねっていた手の甲を、アルフォンスに治療してもらいながら話す。

「……ええと、それでリオナはハルトレーベン嬢を守るために、ぼくかネイサンのどちらかがハルトレーベン嬢と一緒にいるべきだと?」

「そうです! お二方のどちらかが一緒にいれば、奥方様もモニカを虐めにこないと思うんです!」

「……リオナの意見は全て採用したいけど、さすがにそれは聞けないかな。一緒にいた、その事実だけで、ハルトレーベン卿にとって有利になっちゃうから」

「そうですよね……」

 言われてみればそうだと、リオナが落ちこむ。しかしそんな様子を見たアルフォンスが、焦ったように言葉を続ける。

「リ、リオナは、どうしてハルトレーベン嬢を守りたいの?」

「はい。モニカは、すごく良い子なんです。不当な扱いを受けても、奥方様と距離を置けないような。それでモニカと話していたら、モニカは自分に自信がないように感じたんです。本当は美人なのに、そう思えない。その原因が目の見え方だと判断したので、それを確かめるために外に行きたいんです。わたしが傍にいない間、奥方様からモニカを守ってもらいたいんです」

「外に行くって、何を求めているの?」

「そうだ。お二方は、クオーツって持っていないですか」

「クオーツ? クオーツは持ってないね?」

「そうだな。リオナ嬢と会う前に何度かエルダリープーリスに遭遇したが、ドロップ品は換金した」

「そっかぁ……それならやっぱり、買いに行かないと」

「買うって、そんなに緊急?」

「理想はソードラビットが落とすアポフィライトなんですけど、一番ドロップ率が低いやつなので、出回っていないんじゃないかなって思いまして。緊急かって言われたら、どうなんだろう? わたしの自己満足でやりたいだけなので」

「何をやろうとしているの?」

 問われ、計画を話す。その上で、ブライスから質問された。

「それは、アルが治療すれば良いんじゃないか」

「でも……モニカの目は、相当悪いように思えました。それを治療するとなると、直接触れるぐらいじゃないとダメだと思います」

「リオナとネイサン以外にしたくないし、そもそも接近はまずい」

「だと思いました。なので、クオーツがあればと。あと申し訳ないんですが、実験するときにブライス様のお力を借りてもいいですか?」

「了解。その時になったらリオナ嬢の指示する時機に水を出すよ」

「ありがとうございます。でも、クオーツがないならどうしようかな……」

 実験をするには、クオーツが必要不可欠。しかし外へ出ている間に、モニカがハルトレーベン夫人に何かされるかもしれない。

 どうするべきか。悩んでいたリオナに、アルフォンスが提案する。

「奥方からの攻撃を危惧するけど、ぼく達のどちらかが接近することはできない。それならさ、ハルトレーベン嬢も一緒に出かければ解決しない?」

「一緒に、出かける……っは、そうだ。そうすれば良いんだ!! モニカを守れるし、わたしがいるからどちらかと接近したってことにはならないし! 買ってその場で実験できるし! えぇと、モニカと、アルフォンス様と、ブライス様。わたしは庶民なので省くとしても、二人ぐらいはお付きの人がいても良いですよね?」

 リオナからハルトレーベン家の事情を聞いていたアルフォンスは、具体的な二人の付き人を思い浮かべて笑う。

「良いね! ぼくがハルトレーベン卿に伝えておくから、リオナはハルトレーベン嬢を連れてきてもらえるかな」

「許可されますかね?」

「すると思うよ。三日滞在する内の、まだ一日目だしね。あちらの計画としては、ハルトレーベン嬢とネイサンを仲良くさせたいだろうし」

「では、玄関に集合ということで!」

 リオナは客室を出る。そしてモニカを誘いに行った。モニカからは信じられないと言われたが、アルフォンスの読み通りになった。

 身支度を調えたモニカと玄関へ行く。皿洗いのスティーブと、洗濯係のレメディも外套を着て待っていた。

「では、出発!」

 リオナの上機嫌な掛け声により、モニカを含めた六人がハルトレーベン邸を出た。モニカが誰かと外に出ていることを初めて目撃したらしい門衛は驚いている様子だったが、実験が成功すればモニカの視野は広がるだろう。似たような光景は何度も見るようになるはずだ。

 リオナ達は、ブライスの先導の元クオーツが売っている店へ向かう。その道中、監視の目がないからか、付き人の二人はモニカと楽しそうに話していた。

 そして、到着。着いた店は、テフィヴィの冒険者ギルドからそれほど離れていない場所にある。

「この店なら、他の店で買うより少し安いと思う」

「ブライス様、ありがとうございます! ささっと買ってきちゃいますね!」

「リオナが行くなら、ぼくも」

「いいえ、アルフォンス様は皆さんと待っていて下さい。スティーブさんとレメディさんもいらっしゃいますが、ブライス様だけを残してはいけませんから」

 監視はいないように思うが、どこに監視の目があるかわからない。さっと買って、さくっと実験をしてしまう方が良い。

 クオーツを四つ買ったリオナは、すぐに五人の元へ戻る。

「さて。実験をするんですけど、どこでやりましょうか」

「リオナとしては、人目がない方がいい?」

「んんー……失敗はしないと思うんですけど、念のために濡れても良い場所の方が良いですかね」

「実験をするのに狭い路地じゃ、誰かの通行を妨げちゃうよね。それなりに広い場所なら、噴水広場?」

「ですかねぇ。噴水広場なら良いかもしれません」

 ということで、リオナ達一行は噴水広場までやってきた。夕食に向けた買い物の時間だからだろうか。まばらだが、人はそこそこいた。

「では、始めます。ブライス様。わたしがブライス様を見たら、水をお願いします」

「了解」

 店から持ったままだったクオーツの内の一本を手にし、残りの三本をアルフォンスに持っていてもらう。

研磨(グラインドポリッシュ)。薄く、薄く、限りなく薄く」

 リオナが詠唱をすると、持っていたクオーツが薄くなっていく。同時に磨き上げられ、窓に使われるような、クオーツ越しに反対の景色が見えるようになった。薄さは、窓よりも薄い。

 同じように全てを研磨したリオナは、アルフォンスから両手で受け取る。四本分の磨き上げられたクオーツを両手の上に並べた。

造形(フィグレイティブ)。丸く、丸く、球体のように丸く」

 詠唱の途中でブライスを見た。リオナの合図を受け取ってくれたブライスは、望み通り水を出してくれる。その水を閉じ込めるようにクオーツを丸く整えていく。

 継ぎ目のない完全な球体になった水入りの水晶が完成した。

「よしっ、できた! モニカ、ちょっとこれを持っていてくれますか」

「わ、わかったわ」

 モニカに水入りの水晶を渡した。違いがわかりやすい文字があると尚良かったが、人の顔でも効果はわかるはず。

「モニカ。それを自分の目に当ててください。どちらの目でも良いですよ」

「目に当てる?」

 不思議そうに首を傾げながら、モニカはリオナの言うとおりにする。

「誰でもいいので、その水晶を当てながら顔を確認してみてください」

「顔を確認……ええっ!? リオナ、あなたそんなに可愛らしい顔をしていたの!? それに、スティーブとレメディ……もしかして、顔にそばかすがあるかしら!」

「「そうです!!」」

 スティーブとレメディが嬉しそうに同じ言葉を重ねる。二人の存在は知っていても、きちんと顔を認識できていなかったのだろう。二人もそれを感じ取っていたからこそ、認識してもらえたのは喜ばしいはずだ。

「急ごしらえなんで調節もできないんですけど……」

 感動するモニカを見て、アルフォンスに向き直る。

「アルフォンス様。わたし、モニカに眼鏡を作ってあげたいんです! ダメでしょうか」

「駄目というか……リオナは、どうしてそこまでハルトレーベン嬢を気にかけるの」

「モニカと友人になったからです!」

「え!?」

「え、って、もしかしてわたしの勘違いでしたか!?」

「い、いえ……そうね。リオナがそう言うのなら、わたくしとリオナは友人ね。そう、友人よ」

「良かった……というわけで、どうでしょうか。ダメでしょうか。ダメなら諦めます」

 容量箱を更新、もしくは獲得するという目的がある。それはひとえにリオナが目指す研磨師のため、リオナ自身が物をたくさん持てるようにするためだ。だから、否と言われるだろうと覚悟して聞いた。

 そんな、窺うようなリオナを見て、アルフォンスが断れるわけもない。

「……わかった。ハルトレーベン嬢に眼鏡を作ろう。ただし、材料集めはハルトレーベン邸に滞在する期間が過ぎてから。こちらから約束を違えるわけにはいかないからね」

「わかりました! ありがとうございます」

 リオナがはしゃぐようにアルフォンスの手を握る。それを照れくさそうに、はにかみながら受け入れているアルフォンス。そんな二人を見て口角だけ上げているブライス。そして三人の様子を見守るモニカ。

 今後の行動計画を立てたリオナ達は、ハルトレーベン邸に戻る。そして約束の日数を滞在した。


・-・-・-・-・


 リオナ達がハルトレーベン邸に滞在していた、二日目。

 噴水広場ではプロポーズ用の指輪を持った金髪の男性が、周囲が暗くなっても一人でモニカを待っていた。

「……この僕との約束を忘れるなんて、絶対に許さないんだからな!!」

 手巾を持っていたら、むきーっと引き延ばしていたであろう。そんな悔しさを滲ませている金髪の男性。

 以降、その男性が噴水広場で目撃されることはなくなった。似たような容姿の浮浪者が路地裏で見つかっているが、その後の足取りは掴めていない。


・-・-・-・-・



 第七話、これにて終了です。

 お付き合いいただきありがとうございました。

 計画的には、物語の折り返しを過ぎた感じです。

 なので、まだお付き合いをいただけるのならば、ポチっとブックマーク登録をしていただけると幸いです。

 第八話は、明日更新します。


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