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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第七話 モニカ・ハルトレーベン

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7.7 モニカの味方②


「モニカ。やっぱり、ハルトレーベン家を出るつもりはないですか?」

「えぇ、ないわ。なぜ何度も聞くのかしら」

「モニカはもっと、味方を作るべきです。というか、ハルトレーベン家のお嬢様なのに、味方が少なすぎます」

「そうは言っても、バーティアンの一家ですら、表立って味方として動けないわ。それにハルトレーベン家で働く人員は、全てお母様の采配よ。お母様に逆らえば職を失う。あの人は自分の欲望に忠実だから、それを邪魔する人には容赦しないわ」

「そもそも、奥方様ってどういう方なのでしょう?」

 応接室での対応を伝える。リオナの話を聞きながら、モニカは苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

「お母様ったら、まだそんなことをしているのね……」

「昔からなんですか?」

「えぇ、そうよ」

 モニカが話してくれた。

 曰く、夫人は当主のことをずっと好きだったらしい。だから結婚したし、結婚後も執着した。愛しい人の子供だから産みたかったし、跡継ぎを産めば当主の愛を独占できると。

 しかし、産まれたのはモニカ。男親となった当主はモニカに甘かった。乳母に育てさせる貴族にしては珍しく、頻繁に顔を出していたらしい。暇な時間を見つけてはモニカの元へ通い、遊び、そして夫人には目もくれずに仕事へ戻る。そんな生活だったようだ。

 モニカを産んでも尚心は乙女のままだった夫人の怒りは、愛している当主には向かない。全てモニカに向けられた。

「いくつのときだったか、覚えてはいないけれど……乳母もちょうど用事で出かけていて、他の侍女もいなくて……今思えば、お母様が人払いをしていたのかもしれないわ。そのときに言われたの。わたくしが男だったら、お父様の愛は独占できたのにって」

「確か、弟さんがいらっしゃいますよね?」

「カイルは、血の繋がった弟よ。けれど、お母様の子ではないの」

「えっ……それって、つまり……」

「お母様の執着から逃げたかったのかもしれないわ。お父様は、外でカイルを産ませたの。そしてわたくしが六歳の頃、十一年前ね。国中が落ち着かない中、カイルの実母は死んでしまったそうなの。それで、カイルが一歳のときにハルトレーベン家の跡取りとして引き取られたわ」

「それは……奥方様、荒れたでしょうね」

「それが、意外とそうでもなかったの。というか、お母様にとって邪魔なのは同じ性別のわたくしだけ。弟のカイルは跡継ぎだし、カイルを害せばお父様から睨まれるってわかっていたのではないかしら」

「モニカは、自分の子供なのに……」

「お母様にとっては、わたくしはお父様の愛を奪う娼婦らしいから」

 ふ、と悲しげに笑う。あれだけ悪く言われても、モニカを世話するような人員を()てられなくても、酷く扱われても、モニカにとっては実の母なのだ。母を捨てられればもっと楽になっただろう。しかし、簡単には捨てられない。それが、血縁というものだ。

「だから、わたくしは嫁げるのなら誰でもいいの。お父様は婿を迎えたいみたいだけれど、わたくしは家を出たい」

「それなら、わたし達と一緒に冒険者になりませんか? 家を出るなら一緒だと思います」

「いいえ、同じではないわ。貴族の娘として嫁げば、二人くらいは従者を連れて行けるはず。レメディやスティーブを、連れて行けるわ。バーティアンは、お父様の仕事を支えているから難しいと思うけれど」

「それは、そうですけど……」

「今はまだ、お母様に二人の存在はばれていないはずよ。もしばれていれば、ハルトレーベン家を追い出されているはずだもの」

 自分を案じてくれる従者と共に。だからモニカは貴族の娘として嫁ぐ。

 それならば、モニカの心はどうなるのだろうか。実母に否定され、伴侶はモニカだけを見ないかもしれない。従者から慕われても、家族とは違うだろう。それでモニカは満足するかもしれない。しかし、本当に?

「……わたしはまだ、恋すらしたことがありません。そんなわたしが強く言えることではないですけど、モニカは自分を愛してくれる人と家族になりたいとは思わないんですか」

「貴族の務めは継嗣を産むことなの」

「でもっ……でも、相手は貴族じゃないかもしれない。それだったら、モニカだけが貴族の務めを考えなくたって良いんじゃないですか!? モニカのことを愛してくれる、モニカと一緒にいてくれる、そんな人と家族になりたくないですか!?」

「それは……多くを求めすぎているわ。恋愛結婚なんて、夢物語だもの」

 答えとしては否だが、モニカの揺らぎを見た。だから、続ける。

「やっぱり、わたし達と一緒に冒険者になりましょう。冒険者って、酒場でよくわからないことで盛り上がることがあるんですよ。わたしはいつもアルフォンス様達と一緒にいたので機会はなかったですけど、そういう場に行けば出会いもあります。その中で、モニカを見てくれる人だって、きっといます」

「例え出会いがあったとしても、それはわたくしにではないわ。わたくしみたいな娼婦を選ばなくたって、それこそ相手はたくさんいるのでしょう?」

「モニカは、娼婦じゃないです!! かなり魅惑的な体つきってだけ! 正直、女のわたしだって羨ましいって思いますもん」

「わたくしは、リオナの慎ましやかな体つきの方が魅力的だと思うわ。小柄な感じが、守ってあげたくなるのではないかしら」

「なに言っているんですか。モニカだって美人じゃないですか」

「リオナは、間違っているわ。リオナ相手には扇子を出さないけれど、普段のわたくしは褒められるような顔じゃない」

「もしかして、自分の顔を隠すために扇子を?」

「そうよ。わたくしは自分の目つきが悪いことを自覚しているの。だからなるべく、その顔を見られないようにしているのよ」

「目つき……それって、もしかして見たいものをよく見ようとして目を細めている感じです?」

「え、えぇ、そうね。少しでも何か役に立てないかって、本を読んでいる内に見え方が悪くなったの」

「それなら、解決できるかもしれません! モニカは、クオーツを持っていないですか」

「クオーツ? 申し訳ないけれど、装飾品の類いは肌が荒れるから持っていないの」

「金属過敏症ですかね、それならララランソルジャーのイルメナイトも必要になるかな……クオーツがないなら買ってくる? クオーツはエルダリープーリスのドロップ品だから、狙えなくもないけど……」

 モニカの話を聞いたリオナが、今後の行動を呟く。知識を持っているが故の一人言だ。話の内容がわからずに不安そうだったモニカを見る。

「ちょっと、出かけてきますね! 夕方には戻ります!」

「え、ちょっと! リオナ!?」

 急に立ち上がったリオナは忙しなく移動しようとして、モニカに呼ばれて足を止める。

「そうだ、ちょっと待ってて下さいね!」

 まだ呆然としているモニカに声をかけ、リオナは隣の部屋へ行く。残念ながらそこにはいなかったため、アルフォンスが使う客室へ行った。

「リオナ!? そんなに急いでどうしたの」

「アルフォンス様とブライス様に、相談があります!」

 元気よく部屋に入っていったリオナは、部屋にいたアルフォンス達に話す。




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