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1.5 無資格でもできることはある


 男女混合パーティーによって、研磨師試験の受験に繋がる未来を見いだしたリオナ。しかし親切な人のせいで、またオルゴーラ工房へ戻されてしまった。

 戻されたのは朝。つまりは、食事を用意しておけと言われた時間で。冒険者になるつもりだったリオナは、オルゴーラから出されていた指示を無視したわけで。

「糞ガキ!! さっさとしやがれ!」

 気を失うように寝ていたところを起こされ、今日も罵声が飛ぶ。寝かされていたのが客間だったことにも驚いたが、いつものように殴られないことにも首を傾げた。不思議に思いながらも、十一人分の朝食を用意していく。

 どかっと座られた際椅子が悲鳴を上げるような軋み方をしたが、壊れかけの椅子に座るオルゴーラは上機嫌に見える。

「師匠、何か良いことがあったんですか」

「ふっふっふ。俺の評判が留まるところを知らない。ブブラバーバ様だけでなく、他の貴族様と親しくなれるかもしれない」

「すごいじゃないですか!! それってもしかして、今朝の御仁ですか? 確かに、見るからに裕福そうな人でしたもんね。出資してくれたら、師匠の工房ももっと盛り上がりますね!」

 オルゴーラとオトコルが盛り上がっている。そんな二人を見つつ、机の上に朝食を並べていく。本日の朝食は、肉と根菜のスープと長パンだ。

「糞ガキ! お前はアルマンディンを取り出しておけ!」

「わかりました」

 今日殴られなかったのは、オルゴーラの言う貴族に何かを言われたからなのか。

 そんなことを思うが、オルゴーラから指示を出されたときは、即座に動かなければいけない。たまたま殴られなかっただけで、いつ殴られるかわからない。何度も殴られたせいで常に血が足りず、食事も取れず、足下がふらふらでも動かなければいけない。

(うぅ……辛い……)

 食事を取れないことも辛い。しかし何よりも一番辛いのは、意識を失うまでたくさん集めたデューオルチョインのドロップ品が全てなくなっていたことだ。鞄の容量限界まで入れたドロップ品は、一体どこに消えてしまったのか。いつものように? と考えたが、すぐに頭を切り替える。

(はぁ……まぁ、どうせ今日も難題を押しつけられるだろうし、そのときにまた集めようかな)

 落ちこんでいても、誰かが助けてくれるわけじゃない。今、自分ができることをやるしかないのだ。

 リオナは、研磨室の隣の倉庫へ行く。そこには、研磨師にとっては商売道具である研磨剤になる鉱石が置かれている。それがアルマンディンで、大きさはリオナの親指よりも一回り大きいくらいの、深い赤色の鉱石だ。

 アルマンディンは岩と一緒に採掘される。手の平大の岩の中の、ほんの一部しかないアルマンディンが研磨剤として使われていた。

(……今日もたくさんある……)

 数箱の木箱の内の一箱が、リオナの寝藁の上に置かれている。寝心地のためにもすぐにどかしたいが、重い。作業を進めて中身を軽くしてからでないと寝藁を救出できない。端の方に置いていたマラシェイは、木箱の重みから免れていた。

 木箱に入れられた岩付きのアルマンディンは、毎日研磨師ギルドから届けられる。数箱あっても、研磨剤として使える部分は一日か二日で消費してしまう。

(……とっととやっちゃおう)

 蔓の籠の中にいくつかのアルマンディンを入れ、取り出した後の鉱石を入れる籠も用意する。そして床に座ったリオナは、アルマンディンを取り出す作業を始めた。

 一つ手に取り、アルマンディンの部分に手を沿える。

抽出(エクストラクト)

 リオナが唱えるや否や、手の平大の岩がパキンと割れる。そしてころっとしたアルマンディンが手の中に残った。

「まずは一つ目。午前中までに終わらせないといけないから、きりきりやろう」

 一般的には、岩からアルマンディンを取り出すのは研磨剤を使う。足で踏むと回転する刃に研磨剤を着け、少しずつ岩を削っていくのだ。他の鉱石を磨き光石(こうせき)に変えるのも、同じ作業が求められる。

 だから、研磨剤はすぐになくなってしまう。研磨師達も午前中は研磨剤を作る。そして午後に受注した仕事をこなしているのだ。

(はぁ……わたしも、早く仕事を受注したい……)

 仕事をするためには研磨師にならないといけないわけで。

 研磨師になるには、三千万ガルドを貯めて受験料を支払わないといけないわけで。

 支払っても試験に落ちたら、また三千万ガルドを集めないといけないわけで。

 昨夜のドロップ品全てを失ってしまったリオナは、所持金ゼロ。夢を叶えるには、気の遠くなる話だった。

 厳密に言えば、資格を取らなくても仕事はできる。しかし資格がなければ、落ちこぼれ研磨師と呼ばれ、装飾品の製作など仕事をしても十分の一の価値にされてしまうのだ。

 考え事をしつつ、アルマンディンを取り出す作業を続ける。黙々とやっていると、オトコルが倉庫に入ってきた。

「リオナ、そろそろ昼食の準備をした方がいいかも」

「えっ、もうそんな時間ですか!? 知らせてくれてありがとうございます」

 リオナの横には、木箱の高さぐらいまで取り出されたアルマンディンが置かれている。開いた木箱にそれを詰めようとすると、オトコルが言う。

「リオナ、その時間はないかも。今日の師匠はお酒を飲んでなかったから、外から帰ったらすぐに昼食を食べたがると思う」

「わ、わかりました。ありがとうございます」

 オトコルからの忠告に従い、リオナはすぐに昼食の準備をするため倉庫を出る。僕が今日も片づけておくよ、なんて親切な言葉をかけてくれるオトコルに頭を下げながら。




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