6.8 メンバー候補
少し長めの文章量です。
朝食を終えて天幕を片づけ、移動時の食事を確保するためにテフィヴィの街へ戻る。
ノキアの街からの道中で集めたデューオルチョインのドロップ品を、ギルドで換金した。成果は、三人それぞれが二十ずつ成績を伸ばした感じだ。ほぼリオナが倒したのだからと言われたが、パーティーだから分け前は均等にしたいと主張したリオナの意見を通してくれた。
ギルドへ行った際、アルフォンスに結納金の金額百万ガルドも返却。悲しそうな顔をされたが、リオナらしいねと納得してもらえた。
そして出かけた、テフィヴィの街中。何度も来ているらしいアルフォンスたちはどこに何の店があるのか把握しているらしい。ささっと買い物を終えた。
容量箱の更新及び獲得のため移動しようとすると、噴水広場からまたどよめきが聞こえてくる。
「またプロポーズでしょうか」
「そうかもね」
「流行っているんですねぇ」
「結婚という形で、国の家族数が増えるのは良いことだよ」
「本当に、そうですね」
研磨師を目指すものとして、指輪の意匠が気になってしまう。しかし前も足を止めさせてしまったから、今日は気にしない。
そう、思うのに、リオナは何度も振り返ってしまった。
「研磨師を目指しているんだもんね。リオナも、他の人が作ったやつ気になる?」
「はい。あ、いえ、気になりません! テフィヴィでの用事も終わりましたし、早くロンガースへ向かいましょう」
そそくさと、興味のないふりをして噴水広場から抜けようと移動する。しかし、アルフォンスに手を掴まれてしまった。
「待って、リオナ。今後の参考に、ぼくも見たい」
「こ、今後って!? あぁ、いや、ありがとうございます。わたしが見たいだろうっていう判断ですよね。ささっと見てきちゃいます」
やはりアルフォンスは優しいなぁ。そんなことを思いながら、アルフォンスに持たれたままの手が熱いと感じ、離れたかった。しかしアルフォンスはリオナの手を離してはくれず、そのまま手を引かれるようにしてざわめく集団へ近づいていく。
やはりプロポーズだったようで、円形の人だかりの中心に金髪の男性と顔の半分以上を覆うような扇子を持っている女性がいた。
(あれ……? あの男の人って、昨日他の人にプロポーズしてなかった?)
ルビーフレイムの豊かな髪をしている貴族女性は、昨日見かけた女性とは全くの別人だ。目を引く髪色だし、深いオレンジ色の瞳は一度見たら忘れないだろう。
そもそも、昨日の女性にプロポーズをしておきながら翌日には違う女性に愛を告げるとはどういう心境か。
(テフィヴィは、ノキアよりも貴族の人が権力を持っているって言ってた。貴族の人って、一夫多妻制なのかな)
一夫多妻制か、それとも愛人か。そんなことを思ってしまうほど、プロポーズされている女性は冬用の外套を着ていても体つきがよくわかった。
(……ちょっと、苦しそう)
外套から見えるドレスの足下は、そこそこ踵の高い靴。冬空の下、衆目にさらされている。顔の半分以上を隠すような扇子を持つ手は、見ていて心配になるほど強く握られていた。
よく見れば、扇子の下に僅かに見える目元の近くを汗が流れている。晴れているとはいえ冬だ。汗をかくことなんて、まずない。
貴族の女性であれば近くに誰かが控えていそうなものだが、それらしい人は見当たらない。
「ちょっと、すみません。通して下さい」
リオナは人混みをかき分けて進む。結果的に、アルフォンスも人々の中心に連れて行ってしまった。周囲に自分のことがばれないようにするため、アルフォンスがローブのフードを深く被る。
貴族の矜持で立ち続けていると思われる女性へ近づいたリオナは、周囲の人だかりには聞かれないように小声で話す。
「あの、大丈夫ですか? 体調が悪いようなので、この場からの移動を提案します」
「い、いいえ。わたくしは、この場を離れてはいけないの」
「でも……」
近くで見た女性は、やはり顔色が悪い。悪いなんてもんじゃ、ない。今倒れていないことが不思議なくらい、尋常じゃないほどの汗をかいている。このまま立ち続けては、この女性が倒れてしまう。
リオナは女性を助けるため、プロポーズをしていた男性を見る。
「すみません。この方はこれから用事があるようです。プロポーズの返事は後日ということではダメでしょうか」
金髪の男性は、プロポーズの場面に割りこんできたリオナに驚いているようだ。跪くようにして女性を見上げていた視線を、リオナに向けている。そして何を思ったのか、立ち上がってリオナの手を取ろうとした。
が、それをアルフォンスは許さない。金髪の男性を睨みつけるように対峙する。アルフォンスからの圧に負けたのか、金髪の男性は一歩離れた。
「今日の所は失礼するよ。君へ捧げた愛の歌は、明日続きを囁こう。では、未来の僕の天使よ、また明日この場所で」
片目を閉じながら気障っぽく指を振った金髪の男性は、この場から逃げ去るように離れていった。
プロポーズをしていたざわめきの渦中だった男性がいなくなったことで、噴水広場に集まっていた人たちも解散していく。
残ったのは、リオナ達と女性が一人。
「動けますか? どこか座れる場所へ移動しましょう」
「わたくしに、構わないで」
リオナよりも背の高い女性を支えようと伸ばした手を、扇子で叩かれてしまった。その様子を見たアルフォンスが、眉間に皺を寄せる。
「リオナ、構って欲しくない人を無理に構うのは良くないよ。ぼくらも先を急ぐし、ほっとけばいい」
「でも、目の前に体調が悪そうな人がいるのに放置するわけにはいかないです」
「見たところ、貴族でしょ? それなら付き人がどこかにいるはずだよ」
「でも……」
「ほら、行こうリオナ」
アルフォンスに手を引かれ、女性の元を離れる。振り返って様子を確認すれば、どこかホッとしたような顔に見えた。アルフォンスの言うとおり、構われたくない人は構われることが苦痛なのかもしれない。
しかし、女性は今にも倒れそうな顔色をしている。我慢しているような気がした。そんな人から離れてしまえば、それこそ倒れてしまうのでは。
アルフォンスに手を引かれながら、何度も足を止める。そんなリオナに根負けしたのか、アルフォンスがリオナの手を離した。
「ネイサン。治療してあげて」
「了解」
「アルフォンス様! ありがとうございます!」
「別に、ぼくが治療するわけじゃないしね」
アルフォンスの許しが出たブライスは、すぐに女性へ魔法をかけた。しかし女性の顔色は良くならない。
「ちょっと、ネイサン。ちゃんとやってあげて。リオナが気になってここから動けないじゃん」
「いや、やっている」
「じゃあ、なんでその人の体調が良くならないの」
アルフォンスとブライスが言い争っていると、女性がガクッと倒れそうになった。近くにいたブライスが、とっさに支える。そのときに落ちてしまった扇子を拾う。
「未婚の女性を触ることは御法度だとわかっていますが、これは事故ということで」
意識がないように見える女性に言うようにブライスが伝える。そして盛大なため息をついた。
「事故とはいえ触れてしまったから、このまま治療しますからね」
女性に言い聞かせるようにして、ブライスは女性の顔を触るようにして魔法をかけた。すると女性はかろうじて意識を取り戻したようだ。リオナが駆け寄り、名前を聞く。
モニカ・ハルトレーベン。
そう告げた女性は、また意識を失った。
第六話、これにて終了です。
やっと! やっと、モニカ出てきました! まだパーティーに入る以前の段階ですが!
第七話からは、1日に2回、投稿していきます。
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