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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第六話 首都テフィヴィ

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6.5 思い出は夢と一緒に


 何事もなく見張りを追えたリオナは、アルフォンスに声をかけた。そして交代し、背を向けるようにして寝ているブライスの横に行く。

 男性二人が使っていた天幕だが、意外と中は狭い。寝返りを打てばぶつかってしまうような距離だ。

(わたし、寝方には自信があるんだよね)

 ずっと、寝藁で寝ていた。寝藁から転げ落ちたら、季節によっては翌朝目覚めないかもしれない。それぐらい、厳しい環境だった。寝た体勢から少しも動かないくらい簡単だ。

(ふふっ。アルフォンス様が寝ていたからほんのり温かい)

 アルフォンスが寝ていた場所に寝る。だから温かいし、そもそも今は冬。もっと寒いはずだが、寒さは感じない。リオナが懐中時計に夢中になっているとき、ブライスが魔法をかけてくれていたのだろう。

(心地良い暖かさ……早速、眠くなってきた)

 一度大きな欠伸をしたリオナは、天幕の中で眠りについた。



(あ……これは、夢だ)

 そう感じたのは、リオナの目の前に六年前に亡くなったはずのジェイコブがいるからだ。記憶の中の姿より、もう何年か若くしたようなジェイコブが、机の上にいくつも鉱石を置いている。

「ジェーさん、これは?」

「ああ、これはな……」

 少々舌っ足らずな話し方に、違和感を覚えた。子供の頃のリオナの目線を借りているような状況だから正確な年齢はわからないが、三歳くらいだろうか。

 知識が豊富なジェイコブは、質問をすると何でも答えてくれた。だからリオナは子供の頃からジェイコブの所へ通っていた。

(……確か、この頃ってわたし以外にも誰かいたような気がするんだけど……)

 両親に、放置されていたわけではない。ただ、一日の大半をジェイコブの元で過ごした。

「ジェーさん、こっちは?」

「良い鉱石に目をつけたな、リオナちゃん」

 夢の中で、子供のリオナとジェイコブが楽しそうに話している。そう、認識した瞬間、リオナの意識がふわりと浮いた。

 まるで空中に浮いているかのような状態になったリオナは、子供のリオナを見つめる子供を発見する。

(あっ、あれは……もしかして、ササラ?)

 体の大きさに合っていない大きすぎる服を着ているササラは、今のリオナが見たらかなり痩せているように見える。服から見える腕や足は、ほぼ骨だ。当時は気にしていなかったが、ササラの両親が迎えに来たことはなかった。

 灰色がかった茶髪の髪と同じ色の瞳は、不思議な魅力がある。食事をしていると寄ってくるような身近にいる鳥のような親近感があるのに、群れることを嫌うような気高さも感じた。

 鉱魔で例えるなら、ソードラビットのような柔らかさがあり、ニュムイガーのような鋭さがあるような。

(あれ……灰色がかった茶色って……)

 今は少し傷んでいるが、リオナも栗毛色の髪だ。茶色系の髪はそこそこいるが、灰色がかかった茶髪は珍しい。見た目にそれほど差違はないが、大体は一色で表現できるような色をしている。

 リオナは、知っていたのだ。だから、宿で赤黒いローブを着ていた人物の瞳の色に気づけた。

(あそこにいたの、ササラだったんだ! 懐かしい……けど)

 直接現場を見たわけではない。あくまでも、推測の域を出ない。しかし、宿でリオナ似の人形を無残な姿にしたのは、ササラだったかもしれない。

(……ササラは、あんなことしない)

 子供姿のリオナが、同じ年頃のササラを誘う。ササラは笑顔で、リオナと一緒に鉱石を見ている。そしてリオナが話す鉱魔の姿を、紙に描いていた。指にインクを直接つけて、リオナの話に頷いて。そんな二人を見守るジェイコブも笑顔だ。

(ササラはいつも、一緒に遊んでくれた)

 三歳の頃の子供なんて、興味関心は毎日変わる。鉱石や鉱魔をずっと好きだった当時のリオナは、その年齢の子供としては変わっていたのだろう。そんなリオナと、ササラはいつも一緒にいた。

(友情の証って言って……そう、確かジェイコブさんからもらった端材で細い金属の棒を束ねたやつをあげたんだよね)

 リオナも同じものを持っていたが、十一年前になくしてしまった。

(モウルトリオと踊ったときかなって思って現場に行ってみたけど、なかったんだよねぇ……)

 モウルトリオと踊ったことを思い出したとき、同時にあの場所にもう一人いたことも思い出した。

(あれ? もしかして十一年前の男の子が、アルフォンス様?)

 疑問の答えを得るために、今までのことを振り返った。

 アルフォンスは、出会ったときに言っていた。モウルトリオから助けてくれてありがとう、と。

 キングスコーピオンと戦った後、休養しているときにも言っていた。リオナを見つけたから、と。

(え、え?? 何か、もっとすごいことを言っていたような気がする……?)

 夢の内容なんてそっちのけで、リオナは頭を抱えながらどうにか思い出そうとする。

(確か……わたしがアルフォンス様と前に会っていたとわかる前……)

 そう。ブライスが必死にアルフォンスの関心を引こうとしていた。そのときに言われていた言葉は。


--こいつさ、十年前から初恋の子に熱心なのは一途で良いことだと思うんだけどさ--


(は、初恋!?)

 何気なく言われた言葉。あのときの雰囲気は、アルフォンスの気持ちを代弁するというよりは、ブライスの苦労話のような感じだった。

(……もしかして、アルフォンス様の初恋の相手が、わたしってこと?)

 浮かんだ疑問を解消するために思い出したら、まさかな内容も思い立った。

(はっ。確か、結納金って結婚したい相手の家に送るって……アルフォンス様は、わたしと結婚したいってこと?)

 家族になりたいとも言われていたような気がする。そのとき、リオナは深く意味をかんがえていなかった。

(わたし、は……)

 リオナはこれまで、鉱石と鉱魔にしか興味がなかった。だから恋がどんなものかわからない。恋の先には何があるのかもわからない。

 自分はアルフォンスとどうなりたいのか。

 新しい疑問が生まれてしまった。




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