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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第六話 首都テフィヴィ

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6.4 三人で動く


 借りた部屋が二部屋とも誰かの侵入があった。そのことを伝えたが、宿の従業員は悪びれる様子がない。こんな宿には泊まれないと宿泊を断った。料金は返却されたが、それもリオナたちが訴えたからだ。言わなければ、その料金も返ってこなかった。

 宿を出た三人は、他の宿を捜す。

「次の宿も同じ状態だったら、どうしましょう……」

「それはないと思いたいけど……リオナのためにも、宿に泊まりたいよね」

「わたしのためですか?」

「街の外で天幕を張る方法もあるけど、それだとリオナがしっかり休めないでしょ?」

「わたしは問題ないです。アルフォンス様たちと一緒に行動する前は、寝藁の上で寝ていました。わたしよりも、アルフォンス様たちの方が疲れが取れないんじゃないですか」

「いや、ぼくは別に問題ないよ」

「おれも。冒険者にとって天幕を張って固い地面で寝ることは何も苦にならない」

「それなら、いっそのこと天幕を張るのはどうでしょう?」

 話の流れの中で当然と思える提案をしたが、リオナの話を聞いた二人は互いに顔を見合わせる。

「そ、そうだね。そうしようか。なんでリオナが狙われたのかわからないし、三人で一緒にいる方が安全かもしれない」

「では、街の外に出ましょう」

 リオナ達が宿を捜している間に、街に入る冒険者の数は落ち着いたらしい。ぱらぱらと数人いるだけで、簡単に東門から外へ出られた。

 すでに日が落ちており、東門から少し離れた所にぽつぽつといくつかの焚き火が見える。リオナ達と同様に天幕で一夜を明かす冒険者達だろう。

 そんな冒険者達がある程度固まっている場所から離れ、街の明かりもわかりづらいような場所へ行く。

「? こっちに天幕を張るんですね?」

 設置場所に疑問を持ちつつ、ブライスが容量箱から天幕一式を出した。

 リオナは知る由もない。男衆が、万が一にでもリオナの寝顔を、生足を、他の誰かに見られるわけにはいかないと思っていることを。

 天幕の張り方は、冒険者になりたての頃研修で習った。だから問題なく組み立てられたのだが、問題は大きさだ。ブライスが持っていたのは、二人用の天幕。

「……すみません。わたしも天幕を買わないとダメでしたね」

「アルとリオナ嬢で使って。おれは外で見張りをするから」

「え、そんな、ダメですよ。ブライス様も休まれないと」

「そうだぞ、ネイサン。というか……リオナと二人っきりなんて無理に決まってるだろ……」

 ブライスにだけ聞こえるように言われた話は、リオナには聞こえなかった。

「ブライス様。本来この天幕は、ブライス様とアルフォンス様が使うものです。わたしが持っていなかったので、わたしが外で寝ますよ」

「「それは駄目だ!!」」

 アルフォンスとブライスの言葉が重なる。

 相変わらず息ぴったりだと思っていると、ブライスが気まずそうに頭を掻く。

「今は、アルも身長が高い状態だ。これまでと使用感が変わるかもしれない。だから、どのみち二人寝て、一人は見張りということにしよう」

「見張り、なんですね」

「リオナ嬢が誰に狙われているのかわからない以上、警戒は怠らない方がいい」

「そうですね。わかりました。それでは、見張る順番はどうしましょうか」

「リオナが先に見張ってもらえる? そしたら次はぼく、最後がネイサンって感じで。時間は、そうだな……二時間交代にしようか」

「そんな細かい時間だとわかりません。今日は月が見えづらいですし」

 夜空を見上げたリオナが訴えると、アルフォンスが頷いてブライスを見る。すると、ブライスは容量箱の中からリオナの両手の平大くらいの丸い金属を取り出した。

 ブライスが持つ、丸い金属にリオナの意識が持って行かれる。

「太陽と月、それに円周上に描かれた蔦は、時間の経過を表す……まさか、これって!!」

「さすが、研磨師を目指すリオナ嬢にとっては真新しくなかったか」

「いいえ!! 懐中時計を細工できるのは研磨師でも一握りしかいません!! 時計を収める金属は加工できます。ですが、時計の文字盤を守るクオーツが割れないギリギリを攻めた研磨技術は、何年も修行をして初めて成しえる技です! それに動力源のショールだって、叩いたり擦ったりすると時計を動かすような力が出るってわかっていても、その繊細な技術は誰もができるものではありません!!」

 興奮気味に手をばたつかせていたリオナは、優しい目で自分を見ていたアルフォンスとブライスの視線に気づいた。

「す、すみませんっ……懐中時計ってすごく高くて、実物を見たことがなかったので、つい」

「それじゃあ、リオナ嬢。最初の見張り役をお願いするよ。懐中時計を見ていてもいいけど、周囲を警戒することは忘れずに」

「はい!! わかりました!!」

 ブライスから懐中時計を受け取る。落とさないように両手で受け取った。ずしり、と重み分の価値を感じる。

「ほぁぁぁぁっ。これが、懐中時計!!」

「時計の見方はわかるかな」

「もちろんです! いつか手に入れたときのことを考えて、ジェイコブさんから聞いた後も何度も頭の中で思い描いています!!」

「それなら問題ないね。今から二時間後に、アルを起こして」

「わかりました! お休みなさい!」

 話の流れで言ったが、ブライスは少し気まずそうに微笑んだように見えた。しかしアルフォンスと天幕に入ってしまったので、すぐに表情はわからなくなる。

 リオナは両手で懐中時計を持ったまま、見張り番を開始した。




 話のストックができてきました。ラストへ向けて、毎日更新していきます。

 ブックマーク登録をしていただけると、見落としなく読めると思います。

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