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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第六話 首都テフィヴィ

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6.3 邂逅

 少し長めの文章量です。

 絵を想像した場合、少し強めの表現があります。さっと流して、出来事だけ覚えておいていただければ。


 二部屋あったが、残念ながら隣り合っている部屋ではなかった。狭い方の部屋をリオナが使い、広い方の部屋をアルフォンスたちが使う。

 五階建ての宿の三階と五階に分かれてしまい、途中の三階で二人を見送ろうとした。

「それでは、また明日。宿の入口で待っていれば良いですかね」

「不特定多数の人がいるところは良くないかな。ぼく達がリオナの部屋まで迎えに行くよ」

「そんな、悪いです。それならわたしがアルフォンス様たちのお部屋に行きます」

「リオナは可愛いんだから、ぼくらが傍にいないときは一人でいちゃ駄目」

「あ、ありがとうございます」

「それじゃ、決まりだね。リオナ、部屋まで送っていくよ」

「は、はい。ありがとうございます」

 結局、三人で五階のリオナが泊まる部屋まで行くことになった。

 階段を上り、五階に到着。部屋まで行こうとしたとき、同じ階の宿泊者が階段の方へやってきた。赤黒いローブを被ったその宿泊者に道を譲ろうと脇に避ける。

 しかし、避けたと思ったが宿泊者とぶつかってしまった。ジャラ、と金属同士がぶつかり合うような音がしたような気がする。

「ご、ごめんなさい」

 すぐに謝ると、赤黒いローブを被った宿泊者がリオナを睨みつけたように見えた。長めの前髪の奧に確認できた、灰色がかった茶色い瞳が印象的だ。

(どこかで見かけたことがあるような……)

 何か思い出しそうで、思い出せない。

「ちょっと。リオナが謝っているのに、その態度はないんじゃないの」

 そのまま何も言わずに立ち去ろうとした宿泊者に、アルフォンスが声をかけた。するとぺこりと浅い会釈をして階段を下りていった。

「なんだ、あいつ。もっと何かあるんじゃないの」

「最後に頭を下げてくれたじゃないですか」

「あんなの、謝ったって言わない」

「まぁまぁ。人と話すことが苦手な人だっていますよ」

「それもそうか」

 ぷりぷりと怒っていたアルフォンスも納得したらしく、リオナが泊まる部屋へ行く。鍵を開けて中に入ろうとした。

「あれ……開いてる?」

 鍵に着いていた部屋の番号を確認する。五〇三。合っていた。

「リオナ嬢、ちょっとここでアルと待ってて」

 ブライスがゆっくりと扉を開けて五〇三号室へ入る。そしてすぐに戻ってきた。

「どうだった、ネイサン」

「あー……」

 ブライスは困っているかのように頭を掻く。

「何があったの」

「リオナ嬢には見せたくないものがあった。でも、廊下にリオナ嬢を残すわけにもいかない」

「とりあえず、確認しよう」

 ブライス、アルフォンス、リオナの順番で五〇三号室に入る。階段で上ることを嫌がる人は多く、上の階ほど料金が安い。五階建ての宿の最上階の部屋は、少し長めの廊下があった。

 廊下を抜けた先に寝室があるようで、どうやらその寝室が問題らしい。

「なっ……これは……」

 寝室に広がっていた光景。それはあまり直視していたくないものだった。

 栗毛色の髪に金色の瞳。まるでリオナを思わせるような人形が、寝台の上でズタズタにされていた。首がもげている。

「これは……わたし、でしょうか」

「リオナはもっと可愛いよ! それよりも、ここの宿、警備はどうなっているわけ!? どうして、部屋の鍵を持っていたリオナよりも前に部屋に入れる人がいるのさ!? ちょっと抗議しに行こう!!」

 ぷんすかと怒っているアルフォンスが部屋を飛び出そうとしたとき、リオナが人形の首の部分に何かあることに気づいた。

「ちょっと待って下さい。なにか……」

 もげていた首の中から出てきたのは、小さな紙。そこに書かれていたのは、たったの二文字。


 死ね。


 まるで恨みが込められているかのような、毒々しい文字だ。

 リオナに似た人形。その壊された人形の首から出てきた呪いのような紙。

(……え、わたし、何かした??)

 知らない間に誰かの気分を害してしまったのだろうか。心当たりのないリオナは、恐怖に身を震わせる。

「リオナ、落ち着いて。ゆっくり、息を吸って」

 アルフォンスが、リオナの手を擦りながら声をかけてくれる。高低の中間ぐらいのその声が、少しだけ恐怖を薄めてくれた。

「……ありがとうございます、アルフォンス様。もう少し、手を握っていてもいいですか」

「もちろん。リオナの気持ちが落ち着くまでいくらでも」

「ありがとうございます……」

 廊下に出ようか。優しく声をかけてくれたアルフォンスの手を握り、寝室から出る。ブライスも近くにいて、一人で部屋に来ていなくて良かったと思う。

 何度か深呼吸をする。その内何回か、アルフォンスの指をきゅっと握った。その度に、アルフォンスも優しく握り返してくれる。それが嬉しくて、申し訳なくて、リオナは気合を入れるために自分の両頬を叩いた。

「リオナ、どうしたの」

「すみません。気持ちを切り替えました」

「それなら、とりあえずリオナの両頬から治療しておくね」

「は、はい。お手数おかけします」

「白魔術師アルフォンス・アドルフ・アディントンが命じる。世界に満ちるマインラールよ、リオナの頬の痛みをなくせ」

 詠唱が終わると、アルフォンスの両手から柔らかい熱が送られてきた。

「ありがとうございます。そういえば、アルフォンス様は杖を使わないんですね」

「まあね。何かあった時に、すぐ魔法を使いたいから」

「杖はあってもなくても良いんだ。攻撃的な魔法は威力を凝縮させるために使うが、治療系は全体的に使うから」

「そうなんですね。ブライス様、教えて下さりありがとうございます」

 話が落ち着いたところで、寝室の人形の問題だ。

「栗毛色の髪と金色の瞳。リオナの容姿と似ている人形が、偶然あんな状態で置かれているわけがない」

「問題は、誰がリオナ嬢に恨みを持っているか、だな」

「あいつ! 部屋に来る前にぶつかってきたあいつが怪しいよ!」

「一理ある。しかし、ここは宿だろ? 万が一のために二つ鍵があったとして、客のリオナ嬢に一つ。もう一つは宿が管理しているはずだ」

「とにかく、一階に行こう。宿の人間に聞けば何かわかるはず」

 三人で一階へ。そう思って五〇三号室を出た。すると、階段付近が何やらざわついている。

「しっかし、得したな」「まさか無料で泊まれるなんて」「宿無しかと思ったけど、日頃の行いが良かったんだね」

 わらわらと、何人もの宿泊者がやってきた。剣を持っていたり盾を持っていたりするから、恐らく全員冒険者なのだろう。それぞれが、各自解散して五〇三号室以外の部屋に入っていく。

「どういうことでしょう? 確か、わたしたちが最後の二部屋でしたよね?」

「そのはずだ」

「誰かが、無料で泊まれるなんて言っていたよね? ということは、五〇三号室以外を誰かが借りて、それを冒険者が使うってこと??」

「仮にそうだとして、そんな金も手間もかかるようなことするか?」

「……寝室にあった人形。あれの様子を見ると、かなりの恨みを持った人物ということになりますよね。それなら、それぐらいはするかもしれません」

「ってなると、やっぱりあいつしかいないね。リオナにぶつかっておきながらちゃんと謝らなかった、赤黒いローブのあいつ」

「そうなり、ますかねぇ……わたしが使う予定だった部屋以外が、今埋まったってことは」

 今さら追いかけても、疑惑の人物はもうとっくに遠くへ行ってしまっているだろう。

(灰色がかった、茶色い瞳……。どこだっけなぁ……絶対どこかで見たことがあるんだけど……)

 何かきっかけがあればすぐに出てきそうなのに、思い出せそうで思い出せない。

 リオナがモヤッとしていると、三階で使う予定だった部屋も確認してみようということになっていた。

 三人で向かう。その部屋にも、同じ状態の人形が置かれていた。




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