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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第六話 首都テフィヴィ

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6.1 テフィヴィの貴族


 ノキアの街を出たリオナたち一行は、カールト隧道を進みながらテフィヴィの街を目指していた。

 もちろん、道中のデューオルチョイン狩りも忘れない。現在のパーティーメンバーは、リオナとアルフォンスとブライス。女一人と男が二人。その内のブライスは、ノキアの女性冒険者が認めるような整った容姿をしている。だから選択制戦士という異名を持つデューオルチョインは、最早ドロップ品を稼ぐための通過点に過ぎない。

 双剣、アンチゴライト、防具、フロゴパイトにタルクまで。アルフォンスの容量箱には次々とデューオルチョインのドロップ品が入れられていく。

 歩いて一日かかるカールト隧道を三日かけて進んでいた中、ブライスが提案してきた。

「デューオルチョインのドロップ品で、リオナ嬢も耐火防具を作ったらどうだろう」

「良いですね! アンチゴライトよりも高い効果のある、フロゴパイトもあります。お二方の防具は断熱の効果はありますか」

「ぼく達のは、アンチゴライトで耐火・耐熱だね。まあ、コンコアドラン砂漠に行くぐらいしか有用性はないし、断熱までしなくても良いかなって思ってる」

「なるほど。それは確かに……」

「まぁ、リオナは極近接攻撃をするからね。ちょっとした油断が、大けがに繋がる。断熱の防具の方がいいかもしれない」

「確かに。バンテージマンなんかは、断熱材の防具の方が良かったかもしれない」

「バンテージマン? 確か前にも話題に出ていましたよね。あれは確か、リーラベルグの廃虚にしかいないと思いますが、そこに行ったんですか?」

「冒険者になるまでと、なってから数年ね」

 アルフォンスが、自身の頭を指差した。十年前--いや、年が明けたから十一年前のあの日、ルルケ国の民は一揆を起こした。王族のアルフォンスは、その脅威から逃れていたのだろう。

「なるほど。バンテージマンは、巻けばどんな外傷も治す包帯や、軽傷ぐらいならすぐに傷を塞いでくれる防具の素材になるジェムソナイトがドロップしますよね。それらを換金して結納金を集めて下さったんですね。改めて、ありがとうございます。そうだ、わたしショールを集めてアルフォンス様に返す金額を貯めたんです。ギルドに行って、冒険者カードに入れてもらったら良いんですかね?」

 質問をすると、ブライスが顔をしかめた。

「……リオナ嬢。これから行くテフィヴィの街は、あまり長居しない方がいい。あくまでも、容量箱をくれるジャッジベアまでの通り道ぐらいに思っていた方がいい」

「どうしてですか?」

「ノキアの街は貴族の力が強くないが、テフィヴィは違う」

「一揆があったあの日以降、王族が力を持たないように決められたことがあるんだ。それによって、必然的に貴族も力を持てなくなった。元々、貴族は自分達や王族以外は下だと考える賤民思考が強い。だから冒険者にもそういう意識で接してくる。貴族は、自らの命を危険にさらすような冒険者になんてならないからね」

「でも、お二方は……」

「ぼくらは別。というか、ぼくの目的にネイサンを付き合わせちゃっているって感じかな。ネイサン、いつもありがとう」

「べ、別に、アルが気にすることじゃない。主を守ることがおれの仕事だ」

 不意打ちされた礼に、ブライスが少し顔を赤くして照れた。

 やっぱり二人は仲良しだなぁ。そんなことを思いつつ、カールト隧道を抜けた。

「わぁ……」

 カールト隧道は、ケルルッサ山の中を通る。そこを抜けると、まるで空に届きそうなほど大きな壁が(そび)え立っていた。

 カールト隧道から一番近い門へ行こうとすると、アルフォンスとブライスから止められる。

「リオナ。そこは使えない。こっち」

 隧道内で聞いた、貴族の賤民意識ということだろう。アルフォンスとブライスは通れると思うが、リオナを一人にしないためか。

「ありがとうございます」

「気にしないで。あんな門、リオナが通ることない」

 太陽の位置から考えると、カールト隧道から一番近いのは西門だ。西門から入れる門へ移動しようとすると、背後から馬車が近づいてくる。

「リオナっ。こっち!」

 さっとアルフォンスに手を引かれていなければ、馬車に轢かれていたかもしれない。そう思った瞬間、コンコアドラン森林での落下時と同じように心臓がバクバクと動く。

「……ありがとうございます。助かりました」

「あの馬車、ぼく達に構わず走ってきたね」

「そうですね。あ、西門に入っていきます。貴族様だったんですね」

 門に兵はいるが、特に何かを聞くわけでもなく馬車を通していた。貴族しか通れなくしているような門に兵は必要なのかと疑問に想うところではあるが、西門はヴァゼテラ平原が近い。ランクの高い鉱魔はいないが、万が一を考えているのだろう。

「リオナ、行こうか。ぼく達冒険者……というか、貴族以外が使える門は、東門だけだよ」

「今が西門にいるということは、真逆まで行かないといけないんですね」

「そう。南門はルイ島唯一の浜辺がある海、ルミー海があるからね。貴族が自分達の娯楽のために貴族以外の通行を禁止しているんだ」

「……海があることはジェイコブさんから教えてもらって知ってましたが、ルルケ国って島国だったんですね」

「そうだよ。ルルケ国は本島のルイ島が一番大きくて、全部で七つの島からなる国なんだ」

「へぇ……そうだったんですね。ノキアの街から見える範囲のことしか知りませんでした」

「まあ、ルイ島だけで生活できちゃうしね。そんなもんだよ」

「南はルミー海があるからダメ。それなら、北門に行けばいいのでは?」

「それがね……北門はロンガースに行く街道に繋がっているから、そこも駄目なんだ」

「えっ……ということは、街道に繋がっていたり海があるからダメってことですよね。貴族様って、勝手ですね」

「本当だよね」

「あ、いえ、アルフォンス様たちは違います。アルフォンス様たち以外の貴族様が」

「大丈夫。わかっているよ。ありがとうね、リオナ。それじゃあ東門へ行こうか」

「はい」

 ちなみに、東門の先には徒歩だと三日かかるリーラベルグの廃虚があるらしい。情報として場所の名前を知っていても、どこにあるのかわかっていなかった。

(冒険者になれて、本当に良かった。あのままノキアの街だけで生きていたら、本当に狭い世界しか知れなかった)

 リオナは連れ出してくれたアルフォンスに改めて感謝した。




  始まりました、第六話。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

 またお会いできて光栄です!

 随時投稿していきますので、六話もよろしくお願いします。

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