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落ちこぼれ研磨師ですが、冒険者をやっていたおかげで聖女と呼ばれるようになりました。〜でも、本当は……〜  作者: いとう縁凛
第五話 憎悪と欲望

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5.9 生還①


 アルフォンスを捜す道中、ブライスから捜索魔法のことを教えてもらった。捜したい人の私物を持っていることで、その人がいる方角がわかるらしい。アルフォンスが、もし自分が戻らなければそれで捜して欲しいと伝えていたようだ。

(まさか……元々、こうなることを予測して……?)

 もっと警戒していれば。そもそも、オトコルのおかしな発言のことを気にしていれば。こんな状況にはならなかったかもしれない。

 自分の失敗を悔やみながら、ブライスについて行く。

 周辺は潰れかけた家が多く、人通りもない。今いるのは路地裏だが、身を隠している木箱も腐りかけている。

「……どうやら、この廃虚みたいだね」

 捜索魔法によれば、看板が外れかかっている建物にアルフォンスがいるらしい。早速行かねばと前に出るが、ブライスに止められる。肩を掴まれ振り返ると、ブライスが青い顔をしていた。

「ブライス様!? どうしたんですか!?」

「ごめん……捜索魔法って……かなり精神力を削るんだよね。ずっと魔法を使っている状態だから……残りの魔力も少ない。おれの魔力が回復するまで……少し待ってもらえないかな」

「わ、わかりました。わたしに何かできることはないですか」

「一応この場所は見えないはずだけど……誰か出てくるかもしれない。ばれないように……気をつけて。魔力を回復するために……一度捜索魔法を切るから」

「わかりました」

 ふう、と大きく息を吐いてブライスがその場に座り込んだ。

(わたしは魔力が十八しかないから、そもそも魔力を使わない戦い方をする。でもブライス様は、魔力が大事な魔術師だ。魔力が少なくなるのがどれだけ大変かわからないけど、つらそう)

 いつもは身長差があって見上げている、ブライスの頭頂部を見た。その頭頂部は大きく揺れ、呼吸が乱れているとわかる。

 リオナは腐りかけの木箱のすぐ隣に足を伸ばして座った。

「リオナ嬢……? 何をしているんだ?」

「ブライス様。体調が悪いときは横になるのが一番だと思います。ガリガリのわたしの足で申し訳ないですけど、どうぞ。横になって下さい」

「へっ、い、いや!? 何を!?」

「照れている時間がもったいないですよ。わたし一人じゃ、アルフォンス様を助け出せないかもしれません。ブライス様が頼りです。さぁ、どうぞ」

 ぽんぽんと足を叩き、ブライスを誘う。しかしブライスはわかりやすいほど顔を赤くして、横になってくれない。

「大丈夫ですよ。ちょっと見づらくはなりますが、木箱と壁の隙間から廃虚の様子もわかります」

「い、いや、そういうことじゃなくて……」

「時間がないので、失礼しますね」

「ちょっ……」

 ブライスの肩を引っ張り、強引に自分の足の上に寝かせる。両手で顔を隠すブライスは、抵抗する気力がなくなったらしい。弱っていたとはいえ、リオナの力で簡単に倒せてしまったのだ。抵抗するよりも回復を選んだようだ。


 微動だにしないまま時間を置き、ブライスが回復する。

 立ち上がったブライスは、どこか気まずそうだ。

「……ごめんね、リオナ嬢。ありがとう」

「いいえ。ブライス様が回復されたようでよかったです。では行きま……」

 早速乗り込むかと思っていると、アルフォンスを連れて行った男たちの内の一人が廃虚から出ていった。

「追いますか」

「いや、一人だったというのが気になるね。中には二人いるのか、それとも今出ていったのが最後の一人なのか」

「アルフォンス様が連れて行かれるとき、拘束は解かれた状態でした。誰もいなければ、アルフォンス様も出てくるのでは」

「確かに。それなら、中には二人残っていると考えるべきか」

 こちらは二人。残っているのも二人。しかしこちらはリオナがいる。鉱魔には強いリオナでも、人間相手では歯が立たない。

 どうするかと思ってしばらく動かないでいると、出ていった男が酒瓶を持って戻ってきた。

「酒が入れば、行動力も鈍るだろう。少し時間を置いて入ろうか」

「ブライス様。アルフォンス様はわたしの身代わりになったとはいえ、これは誘拐。犯罪ですよね。警吏の人を呼んだ方がいいんじゃないでしょうか」

「捜索を始める前に、冒険者ギルドに顔を出してきた。受付の人に伝えてあるから問題ない」

「受付の人……ララさんですか? そういえば、ララさんも魔術師ですもんね。魔術師はみなさん、捜索魔法を使えるんですか」

「いや、おれが使ったようなやり方ではできないと思う」

「え、それじゃぁどうやってこの場所を?」

「あの人の魔力値は九九九。魔力値が高い魔術師は、何かしらの方法で探索できる魔法を習得しているよ」

「へぇ……魔術師の人ってすごいんですね」

 感心していると、廃虚にオトコルが近づいてきた。




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