5.8 拉致監禁②
(オトコルさん……どうして……)
リオナを連れ去ったのは、オトコルだとわかった。しかしリオナはなぜオトコルがそんな行動をしたのかがわからない。
考えていると、入口とは反対側の壁の方からコツコツと叩かれる。急な出来事で反応できないでいると、聞き慣れた声がした。
「リオナ。そこにいる?」
「アルフォンス様!? 良かった。無事だったんですね」
「守ってあげられなくてごめん。リオナを助けに来たよ。犯人の目星はもうついているんだけど、あいつはまだ戻って来ないかな」
「どうでしょう。今って何時くらいかわかりますか」
「さっき、お昼の鐘が鳴ってたよ」
「なるほど。それなら今、工房内は昼食の時間ですね。わたしがいない今、誰が昼食の準備をしているかわからないですけど、一時間くらいは大丈夫だと思います」
「わかった」
そう言うと、アルフォンスは入口に回って扉から入ってきた。手を拘束していた布を外してくれる。
「リオナ、良かった。怪我はないみたいだね」
「アルフォンス様、ありがとうございます。でも、よくこの場所がわかりましたね」
「あいつ、リオナに執着してたからね。妄言もあったし、何かするかもしれないと思ってたんだ」
「ほぁ……すごい観察力ですね。年末の噴水広場でオトコルさんが何を言っていたのかわからなかったですけど、前にキングスコーピオンを討伐したときは彼女にならないかって言われました。ごめんなさい、アルフォンス様。わたしがもっと警戒していれば……」
「リオナは全然悪くないよ! むしろ、あいつから言われた事なんて全部忘れちゃっていい」
さあ出ようか。すぐ近くにネイサンも来ているはずだから。そんな言葉をかけられてアルフォンスと一緒に外へ出ようとする。扉を開けて先に外の様子を見たアルフォンスが、慌てて戻った。
「っ! リオナ! ぼくのローブと交換して!!」
「えっ、は、はいっ」
アルフォンスに言われるままローブを交換する。そしてアルフォンスが、リオナが寝かされていた場所に行った。
「リオナ。動いちゃ駄目だよ。顔を隠して」
「は、はい」
アルフォンスの指示を守り、緑のローブを被った。
倉庫の中は暗い。動かなければここに人がいるとは思わないだろう。
(それなら、アルフォンス様は!?)
リオナがアルフォンスの考えがわかったとき、倉庫の扉が開けられた。複数の男たちが、アルフォンスのもとへ行く。
「まだ寝ているな」「どこに運ぶんだったか」「ほら、あそこだろ? ここからちょっと行った」「ああ、あそこか」「面倒だよな、初めからそっちに運べばいいのに」「そう言うなって。人を運ぶだけで一万ガルドだ。この仕事が終わったら飲みまくろうぜ」
扉が開けられていて、男たちが三人組とわかる。逆光になっていてわかりづらいが、リオナが誘拐される前に宿で見た男たちのようだ。
男の一人がアルフォンスを大きな袋に入れ、肩に担ぎ上げる。
(っ、駄目だ。わたし一人じゃ、対抗できない……)
今、リオナがここにいることがばれてしまっては、アルフォンスの犠牲が意味をなさない。リオナがすべきことは、一刻も早く倉庫から出てブライスを捜すことだ。そのためには、我慢。
(……もう、大丈夫かな)
少し時間を置き、扉が閉められた状態のまま外の様子を探る。人の気配はなく、ゆっくりと扉を開けて外へ出た。
(早くっ、ブライス様と合流しないと!!)
オルゴーラ工房は、五年もいた。誰がどこを動くか、動線を把握している。だからリオナは、工房内の誰にも見つからずに通りへ出た。
(ブライス様は……)
周囲を窺う。すると見覚えのある臙脂色のローブを発見した。
「ブライス様!!」
「リオナ嬢!? 確か、アルが助けにいったはずじゃ……」
「ブライス様! アルフォンス様がわたしの代わりに運ばれてしまいました!!」
「えっ……」
一瞬、青ざめるような顔になったが、すぐにブライスは杖を容量箱から取り出して目を瞑る。
「赤魔術師、ネイサン・ブライスが命じる。世界に満ちるマインラールよ、アルの居場所を示せ」
詠唱すると、ブライスはすぐに動き始めた。




